必ず熱心に話を聞いてもらえる! そのコツは? /Mr.マリックの『超魔術の裏技術』①

ビジネス

公開日:2019/9/9

ハンドパワーの正体は「プレゼン力」だった!?
Mr.マリックが実演販売員時代から長年培ってきたコミュニケーションの裏技術をみっちり伝授。これを身につければ誰の心でも誘導できるようになる。
あなたの人間関係やビジネス、キャリアが激変すること間違いなし!

『超魔術の裏技術』(Mr.マリック/ワニブックス)

対話 告白 接客 に使える超魔術【1対1のコミュニケーション】

■コミュニケーションの上で最も大切なこと

 具体的なテクニックの話を進めていく前に、まずは私自身のことに少しお付き合いください。

 幼少期。私は内気でほとんど喋らず、クラスでも全く存在感がないような子供でした。でも何かいたずらをすると周りが笑ってくれて、それが嬉しくて仕方ありませんでした。大人たちには叱られましたが、幼馴染みが笑ってくれるのが至福の時だったのです。

 パッチンガムやブーブークッションなどのジョークグッズが世に出たのは、私が小学生の頃。岐阜の柳ケ瀬商店街にある雑貨屋に通っては、箱を開けたらびよーんと飛び出してくる、びっくり箱に感動していました。娯楽が多様化&高度化した現在からは考えられないような、幼稚な子供騙しのグッズばかりでしたが、それでも私は楽しくて仕方ありませんでした。

 中学生になっても『いたずらの天才』という海外の本の翻訳版を読み込むなど、私は人を驚かせたり、笑わせたりすることにますます夢中になっていきました。

 そんな折、名古屋から転校生がやってきたんです。彼は地元のテレビにも出たことのある手品の天才少年でした。
「えー、なになに? どうなっとんの!?」
 彼の魔法のような手品に圧倒され、アシスタントのように後をついて回り、ひとつひとつ教えてもらいました。

 友達の前で、家族の前で披露すると、みな目を見開いて驚いて、拍手して喜んでくれました。私はその快感に震えて、マジックの虜になっていったんです。

 私は古希を迎えた現在もマジックを続けています。さまざまな技をつくり出し、多くの人に楽しんでいただけるようになりましたが、気持ちはずっと変わっていません。あの日の少年のままです。ひたすらひとつの思いを抱き続けているのです。

 目の前の人を楽しませたい。喜ばせたい。
 この気持ちこそが、コミュニケーションの基本であり、真髄です。この気持ちに話術、ジェスチャー、間の取り方といったテクニックが加わると鬼に金棒なのです。

 これからみなさまに、いろんなテクニックをお教えしていきますが、どうかこの気持ちを大切にしていただきたいのです。

 この気持ちがなければ、どんなテクニックを学んでも無駄です。意味がありません。

■「1対1」からすべては始まる

 高校卒業後、いったんはメーカーに就職したのですが、間もなく辞めました。マジックへの思いが断ち切れなかったのです。稼げないとしても、好きなことをやって生きていきたい──。私はマジックグッズの実演販売員になりました。

 デパートのフロアの片隅。ショッピングをしているお客様に声を掛け、マジックを実演して見せて、グッズを買っていただくわけです。

 これが全く売れない。マジックに興味があるお客様であれば、実演を見てくれるし、購入してくれる可能性もあります。しかし、興味がない人にとってはマジックグッズなんて無用の長物。何の役にも立たない代物です。デパートにショッピングに来たお客様の足を止め、実演し、話をし、挙句の果てに購入してもらうなんて至難の業なんです。まるで、砂漠で傘を売るようなものでした。

 暇つぶしにマジック実演は見ていってくれるものの、グッズを売りつけられるんじゃないかという警戒心をみんな持っているのです。だから私の正面に立ってくれません。いつでもその場を去れるように、つま先は進行方向を向いているのです。つまり、斜めの姿勢で遠巻きにマジックを見ているわけです。

 それでも何とか、お客様の心を話術でほぐしながら、マジックの実演をするわけですが、タネがありますから商品には指一本触らせることはできません。

 興味がない、警戒心が強い、商品に触れさせない。そんな壁をすべて取り払って、最終的にお財布を開いてもらう。しかもマジックグッズは結構値が張る。これはかなり大変なことなんです。本当に全然売れなくて、私は毎日頭を抱えていました。

 私はそのうち、暇そうな人を探し始めました。手練れのナンパ師は、どんな人を狙うか。速足の人には声を掛けても無駄です。とりあえず足を止めて立ち話に応じてくれるのは暇な人です。

 目の前の急いでいる人ではなく、売り場を離れてエレベーターのほうへ行ってでも、暇な人を見つけて声を掛けるようにしました。
「安心してください。買わせようだなんて思っていませんから」
「買わなくて結構ですから、見るだけ見て行ってください。面白いですから」
 私はそんな風に声を掛けました。いきなり売ることは考えず、まずは店の前に見物の人だかりを作ろうと思ったのです。

 声掛けに応じてくれた人は、売りつけられることはない安心感から、正面を向いてじっくり実演を見てくれます。

 私がその1人の方を相手にしていると、通りすがりの人が「なにやってんだ?」と足を止めます。もう先客が私に“捕まっている”わけですから、安心して少し遠めから眺めるわけです。

 これでお客様は2人。それでも私は最初の1人のお客様だけを見つめて、マジック実演を続けました。最初の1人だけを見て、その人だけに話しかけるようにしました。自分はターゲットではない、という安心感を抱かせることで、見物客が少しずつ増えていきました。3人になり、4人になり、5人。ここまで来ると見物客はどんどん増えていきます。大勢いるから大丈夫、という群集心理が働くんですね。

 こうして私は集客に成功しました。“実売”については、のちほどお話ししますが、まずは人を集めるという第一段階を突破したわけです。

 店舗で接客している方、イベントを手掛けている方、試食コーナーで働いている方……とにかく集客をしなければならないお仕事の方に参考になれば幸いです。

 まずは最初の1人を捕まえること。これが肝です。一気に大勢の人を惹きつけるなんて術はありません。目の前の1人に集中し、飽きさせず、夢中にさせる努力をするのです。一人を惹きつけられれば、2人、3人と自然に数は増えていきます。1000人がこっちを見てくれる可能性が生まれる。1人の向こうに無数の人々がいるのです。

 私はのちに何千人という観衆が待つステージを務めたり、あるいは何十万人という人が観ているテレビカメラの前に立つようになりました。それでもやはり基本は同じなんです。

 今でも私がまず最初にやることは、自分に一番関心を持ってくれている人を見つけること。自分に対して笑顔を向けてくれている人をまず最初に1人、見つけるんです。そしてその人に語り掛け、パフォーマンスをし、夢中にさせる努力をする。相手が数えきれないような規模になったとしても、やることは変わらないわけです。

 コミュケーションの基本も真髄もすべて、1対1の構図の中にあるのです。

【次回に続く!】