もしも時間が止まったら――。王道SFにして珠玉のボーイ・ミーツ・ガール『初恋ロスタイム -First Time-』

文芸・カルチャー

公開日:2019/9/14

『初恋ロスタイム First Time』(仁科裕貴/KADOKAWA)

 勉強漬けの日々を送り、将来への夢を持てずに生きている高校1年生の相葉孝司。ある日突然、午後1時35分になると「自分以外の全ての時の流れが1時間だけ止まる」という不思議な現象に遭遇し、しかもそれが毎日起こるのだった。そんな中で他にもう一人、動くことのできる人物・篠宮時音と出逢う。“ロスタイム”と名づけたこの1時間を共に過ごすうち、孝司は時音に恋をする。しかし彼女にはどうやら秘密があるようで――。

 ロングセラー「座敷童子の代理人」シリーズ(メディアワークス文庫/KADOKAWA)をはじめ、ファンタジーからミステリー、ラブストーリーと幅広いジャンルで活躍する作家・仁科裕貴氏。2016年に刊行された初の恋愛小説『初恋ロスタイム』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)が、このたび実写映画化された。

 主演はボーカルダンスグループM!LKのメンバーで、ネクストブレイクが期待される若手俳優の板垣瑞生。ヒロイン役には、第41回ホリプロタレントスカウトキャラバンで歴代最年少グランプリに輝き、現在大ヒット中の映画『天気の子』でヒロインの弟役を好演している吉柳咲良。メガホンをとるのは『俺物語!!』『チア☆ダン』など数々の青春映画を手がけた河合勇人監督という充実した顔ぶれだ。

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 映画公開の9月20日(金)に先立ち、原作小説が大幅に加筆修正されて表紙も一新、『初恋ロスタイム First Time』と改題された新たなかたちとなって発売された。

 もしも時間が止まったら――。

 物語の設定はSF小説においては王道ともいえるものだ。時の停止した世界の中で巡り逢った2人は、様々な事件や出来事を体験する。

 幼稚園児の列にトラックが突っ込む事故を回避しようと力を合わせる第1話。ロスタイム現象を利用して動物園の動物とふれあい、さらに孝司の家へ時音が遊びにやってくるデート回の第2話。

 全4話構成の前半部にあたる1話と2話は、コミカルタッチで楽しい初恋ものといった内容だ。時音に振りまわされながらもわくわくどきどきして、もしやこれは恋なのかと身もだえする孝司。そんな彼の心情が微笑ましくも繊細に綴られる。

 3話目からは色合いがぐっと変化する。自分のことを何も語ってくれない時音に対して抱いていた、かすかな不安。それが具体的な形となって彼の前に現れる。

 なぜロスタイム現象が起こるのか。

 大前提であるこの疑問への回答が明かされるとき、孝司は時音の抱えていた悲しい秘密をついに知る。これまでの彼女の言動一つ一つに意味があったことも、そして、もう後戻りできないくらい自分が彼女を愛していることにも気がつく。その瞬間、初めての恋は一生の愛へと変わり、凍結していた時間がゆっくりと動きだす――。

 SFの王道的な設定とボーイ・ミーツ・ガール要素が鮮やかに融合した珠玉のラブストーリー。さらに本作の続編となる完全新作『初恋ロスタイム -Advanced Time-』も同日発売された。「自分以外の時が止まる」という不思議な現象を共通軸としながら、『First Time』とはまた一味ちがう切ない初恋物語が展開されている。

 映画を観てから原作を読むもよし。まず原作を読んでから映画を観るもよし。そして続編を読んでみるとなおよし! な「初恋ロスタイム」ワールドにぜひふれてみてほしい。

文=皆川ちか

『初恋ロスタイム -Advanced Time-』(仁科裕貴/KADOKAWA)

映画「初恋ロスタイム」公式サイト

『初恋ロスタイム -First Time-』作品ページ

『初恋ロスタイム -Advanced Time-』作品ページ