いいカモだと思った男がまさか…。10年前に壊滅した暴力団との関係は? 新宿が舞台の本格ハードボイルド
更新日:2019/9/15
20年以上前の原作をもとに数年前漫画化され、今なお、熱い支持を得続けているコミックがある。それが『雪人 YUKITO』(大沢在昌、もんでんあきこ/小学館)だ。
本作はハードボイルド小説を得意とする大沢在昌氏が手がけた『北の狩人』(幻冬舎)を、実力派漫画家のもんでんあきこ氏が完全漫画化した作品。
■10年前に壊滅した「田代組」を探る男・梶雪人の正体とは?
すべては藤田杏というひとりの女と、秋田弁を話す主人公・梶雪人との出会いから始まる。日頃から、ぼったくりバーのキャッチをして小遣いを稼いでいた杏はある日、偶然見かけた雪人をカモにしようと暴力団が仕切るバーへ連れていく。
透き通った氷のような瞳をした雪人。彼は10年前に壊滅した「田代組」のことを探るため、故郷である秋田から東京へ出てきたばかりだった。「獲物は必ず、この中にいる」雪人はそう確信しながら、新宿という深い海に飲みこまれていくこととなる。
一方、ひょんなことから雪人と出くわした新宿署刑事課の佐江は警察である自分とのやりとりに慣れた雪人の様子を見て、ただものではないと感づき、何か魂胆を秘めていると確信。弱肉強食である新宿の怖さを説きながら、雪人を気にかけ始める。
――雪人が田代組を追う理由。それは12年前に起きた事件に関係があった。事の発端は秋田の繁華街で起きた、酔っ払い同士の喧嘩。この喧嘩ではロシア人が重傷を負い、目撃情報から犯人とされた田代組の苅部耕二は新宿で別件逮捕され、刑事2人に連れられて秋田に移送されることに。
しかし、その数日後、苅部を連行したひとりの刑事が荒川の河川敷で刺殺体となって発見された。この被害者となった刑事は、雪人の父親・梶真人。共に苅部を連行した刑事も、血が大量についた衣服が発見されたため死亡したとみなされており、2人の警官殺しの犯人として苅部は指名手配されている。
だが、父と同じく刑事という職に就いた雪人は事件に違和感を覚え、裏に何か特別な力が働いていると考察。父の死の真相を探り出すべく、田代組を探し始めた。
真相を解明するために、まず雪人がターゲットにしたのは、元田代組で現在は新陽会の組員である宮本。佐江と共に捜査を進め、真相に近づこうとするが、その先でシャブ中の苅部の死体を発見したり、事件のカギを握る鴨下という男が殺されてしまったりと、謎はますます深まっていってしまう。
手に汗握る展開。それは本作の醍醐味だ。だからこそ、最終話が収録されている第5巻は重厚な仕上がりだと言える。
最終巻では鴨下殺しの犯人に捜査の手がおよび、遂に雪人の父の死の裏で蠢いていた警察官や暴力団組員たちのさまざまな思惑が明らかになっていく。そして、雪人に恨みをもつ人物たちが協力し合い、婚約者となった杏を利用して復讐を果たそうと画策する。
命を懸けて己や他人を守ろうとする男たちの死闘には、各々の信念と辿ってきた人生が映し出されている。ほんの少しの油断が命取りになる弱肉強食の新宿で最後に笑うのは、一体誰か。血と肉の雨が降り注ぐラストに、あなたは人間の美しさも見ることだろう。
文=古川諭香