彼女は1年後にこの世を去るーー相手の「死の運命」が見えてしまう青年の物語『4分間のマリーゴールド』

マンガ

公開日:2019/9/21

『4分間のマリーゴールド』(キリエ/小学館)

 10月からTBSの金曜ドラマで「4分間のマリーゴールド」がスタートする。主演は福士蒼汰。義理の兄弟の兄役を桐谷健太、弟役を横浜流星、義理の姉役を菜々緒が演じる、というなんとも豪華な布陣。このドラマは『ビッグコミックスピリッツ』で連載されていた同名の漫画作品『4分間のマリーゴールド』(キリエ/小学館)が原作である。

 物語の主人公、花巻みことは手を重ねた相手の「死の運命」がわかってしまう能力の持ち主。救命士として働く彼は、運ばれてきた患者の手に触れ、その人が助かるか助からないかもわかってしまう。助からない運命を知り、どうにか死なせないように最善を尽くしても、結局運命は変わらない。彼は自分の無力に落ち込む。

 みことには、父の再婚を機に母と3人の兄弟ができる。血は繋がっていないが、幼い頃から家族として生きてきた。兄の廉は警備員、弟の藍は高校生、姉の沙羅は画家。

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 みことは沙羅を姉としてだけではなく、女性としても愛してしまっている。それは誰にも言えない秘密。そして、秘密はひとつじゃない。もうひとつ、彼はずっとひとりで抱えてきたものがあった。

 それは、彼が彼女の「死期」を知っているということ。

 彼女は、27歳の誕生日に死ぬ。27という数字のお菓子があしらわれたバースデーケーキや、誕生日の日に毎回渡す、彼女が大好きなマリーゴールドの花、安らかな顔で棺に横たわる彼女の姿、そういったものが、幼い頃、初対面で握手を求めてきた彼女の手に触れて、彼の脳内に流れてきたのだった。

 物語は、そんな日のちょうど1年前、26歳の誕生日から始まる。

 設定だけを聞けば、お涙頂戴作品だと敬遠する人もいるかもしれない。もちろん、胸が苦しくなり、涙を我慢できないシーンは多々あるが、この作品は感動して終わり、ではない魅力がある。

 特筆すべきは、最愛の人の死期がわかっているみことの心情の描き方が、全編を通してとても丁寧に踏み込まれており、凡庸さがない点だろう。

 あと1年で死んでしまうとわかっているからこそ、彼女のことを1分1秒愛そうと力強く想うときもあれば、彼女がもうあと1年でいなくなってしまう恐怖に顔を曇らせるときもある。もしかしたら助けられるかもしれない、という一縷の希望を抱き、運ばれてくる患者の「死の運命」をなんとか変えてみようと試行錯誤する姿もある。最愛の人の死を目前にした人の絶望を見て、自分に照らし合わせる瞬間もある。

 そういった彼の繊細な心の揺れ動きが、モノローグだけではなく、その表情などからも十二分に伝わってくる。常に他者の死と隣り合わせのみことの絶望は、物語の細部まで徹底したリアリティを貫く描写により、より現実感を伴い迫ってくる。

 もうすぐドラマがスタートするが、その前に漫画で予習しておくのもいいだろう。結末を知らないまま見たい人は、ドラマが終わったあとでもいい。全3巻という短さとは思えないほど濃密な1年間が詰まった作品だ。

文=園田菜々