30代の女が共感する「男は別名保存、女は上書き保存」問題。東大院卒で元AV女優で元新聞記者の鈴木涼美が斬る男女世相論
更新日:2019/9/23
30代の女たちは大変矛盾した生き物である、と文筆家・鈴木涼美氏は語る。彼女たちは男の悪口を延々と語ることができるし、一方で、男を夢中にさせる方法についても一晩中議論できる。そんな彼女たちの矛盾を楽しみ味わってほしいというエッセイが、鈴木涼美氏の『女がそんなことで喜ぶと思うなよ 〜愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』(集英社)である。
30代の女たちが焼鳥屋で好き放題にするおしゃべりがぎゅっと詰まったような本書。そんな本書から、女子なら「あるある」と共感できるトピックをひとつ紹介したい。それは「男は“別名で保存”、女は“上書き保存”問題」である。男はモトカノという存在にこだわり続け、女はモトカレという存在に冷めやすい、という話を聞いたことがある人は多いはずだ。
イマカノというものは、モトカノの顔を見たがるものだと鈴木氏は言う。それが美人でも不美人でも、イマカノはモトカノの見た目を「嫌い」と感じてしまうというのだから興味深い。もしモトカノが美人なら、イマカノは「彼氏が自分よりモトカノの方が可愛いと思っていそうで嫌だ」などと感じる。もしモトカノが不美人なら、イマカノは「こんなブスと付き合える男に選ばれても嬉しくない」などと感じてしまうのだ。モトカノにまつわる問題は、いつの時代も喧嘩の原因になるという。
女がモトカノのことでやきもきするのには理由がある。それは、男がモトカノの存在を美化しているということを女は知っているからだ。女は、自分が今まで付き合った男にきれいさっぱり冷めていることを自覚している。女は、「いままで手をつけた女をなんとなくまだ所有している気になっている男」の鈍感さを、自分の経験から理解しているのだ。
鈴木氏は世の男性に向かってこう語る。
“とにかく一つ言いたいのは、君たちが嫌われないように努力すべきなのはイマカノに対してであって、過去にちゃんと冷たくして過去にちゃんと嫌われる、という行動ができないと、女の中では自分の名前のファイルは綺麗に上書き、もしくは意思を持って削除されていくだけですよ、ということです。”
本書では、恋愛や不倫から社会問題までさまざまなジャンルにおける男女世相論が展開されている。特に恋愛において、女は「男の言葉と行動の深すぎる分析」を夢中でする。女は「あの日のキスの意味は?」で何時間も議論ができるが、男にとっては「唇がそこにあったから」だけかもしれない。女も「男の行動にそんな深い意味はない」とは知りつつ、それでも、行動の裏のメッセージを探してしまうのだ。
別名保存する男と上書き保存する女、言葉が足りない男と深読みする女──その溝に文句を言いつつ、攻略法を探して飲み屋で何時間もおしゃべりできる30代の女たち。本書では、答えはないけどやっぱり楽しい、そんな女子会が繰り広げられている。
文=ジョセート