「マイナス思考の裏にある、トラウマや愛着障害」/『気にしすぎる自分がラクになる本』⑤

健康・美容

公開日:2019/9/28

「失敗したらどうしよう……」は「予期不安」が原因

 トラウマのある人は、「トラウマ記憶」からくる「予期不安」にもおそわれます。過去に手痛い失敗などをして、それがトラウマになっている人では、その後の人生においても、似たような場面に遭遇したとき、失敗する自分の姿を予期してしまい、今度もうまくいかなかったらどうしようという不安やマイナスの感情におそわれるのです。この過去の失敗の記憶がトラウマ記憶と呼ばれるもので、それによって発生する不安が予期不安と呼ばれます。

 たとえば、仕事で何かひどい失敗をしてしまい、それがトラウマになってしまっていたとしましょう。そういう経験があると、次に新しい仕事を任されたときに、思い切って前向きな一歩を踏み出すことがなかなかできません。このように、トラウマの痛みは「また失敗したらどうしよう」「こんな痛い思いをしたらどうしよう」というマイナスへの考え方を心の中に養っていくことにつながります。

 小さなことが気になり、いつまでもクヨクヨと悩んでしまう思考パターンからなかなか抜け出せない人は、自分では気づいていなくても、何らかのトラウマを抱えてしまっている可能性もあるのです。

愛情不足でも過多でも起こる愛着障害が、心のゆがみをつくる

 ささいなことにもショックを受けて、いつまでもクヨクヨ悩んでしまう人の中には、かなりの割合で「愛着障害」を抱えているケースもあります。

 乳幼児期に長期にわたって両親に虐待されたり、周囲から暴言や暴力を受けたことによって、愛情を深める行動(愛着行動)を絶たれると、さまざまな心の問題が引き起こされます。これを愛着障害といいます。愛着障害もトラウマ同様、「母親のイライラをぶつけられた」「母親に無視された」などの比較的小さなトラブルでも起こりうる、だれでもが持つ可能性のあるものです。

 もっとも身近な人の愛を感じることができずに育つと、自分は他人から愛される価値のない人間だと思いこむようになり、そのような自分を受け入れることも、好きになることもできず、自分を過小に評価してつねに劣等感にさいなまれ、マイナスで物事を考えることが多くなります。

 第1章でご紹介した、思考のクセを思い出してみてください。物事のよい面がみえなくなる「負のフィルター」、よい出来事もすべて悪い出来事に変換される「マイナス思考」、どちらも自分に自信がないことに起因することが多い思考のクセでした。

 また、愛着障害は周囲の人から愛されないことだけでなく、両親にとても過保護にされたり、過剰に干渉された子どもにもみられます。

 この場合、起きるのは「自己の肥大」です。両親の愛情が不足した場合と同様に、このような子どもは、親の期待を裏切らないようにみせかけの自分をつくり、本当の自分の気持ちには無頓着で、両親に対して過度に従順な態度をとるようになってしまいます。のちほど詳しく説明しますが、このみせかけの自己意識が、「自己愛性パーソナリティ」という自分中心の性格のゆがみにつながります。そして、それもまたマイナスの思考のクセを呼び起こす原因になるのです。

 子どもを過干渉や、過保護で育てることは、その意味では虐待になってしまうこともあります。愛情をそそぐことなく育てる「きびしい虐待」に対して、こちらは「やさしい虐待」といわれたりします。

<続きは本書でお楽しみください。>

長沼睦雄
十勝むつみのクリニック院長。北海道大学医学部卒業。HSC/HSP、発達障害、発達性トラウマ、愛着障害などの診断治療に専念し、脳と心と体と魂を統合的に診る医療を目指している