日本人に不足している「辞める練習」
公開日:2019/9/25
日本人は勤勉な民族だといわれる。何かを始めたら、ちょっとやそっとではやめない。真面目に続けることで必ず成長がある、と家庭や学校で教わり、それを信じて勤勉な日本人が出来上がる。しかし、海外ではそんな国民性を異常だと思う人たちがいるようだ。
2018年6月につぶやかれたあるツイートが、数万回もリツイートされ、注目された。
「多くのひとは『辞める練習』が足りてない」
発信したのは、マレーシアに移住した日本人。彼女はのちに『日本人は「やめる練習」がたりてない』(野本響子/集英社)を上梓し、著書の中で、日本人がもつ「やめられない」「逃げ場がない」という性質が、いじめ、自殺、ハラスメントなどの問題を深刻化させている、と指摘している。
マレーシアは寛容性にあふれた国だとは、よく知られたところ。本書を読むと、マレーシアの国民性が教育環境によって培われていることがよくわかる。
例えば、マレーシアの小学生は、頻繁に転校する。私立学校やインターナショナル・スクールではなおさらのようだ。本書は、インターナショナル・スクールでは小学校から高校までの一貫教育が多いにもかかわらず、最後まで同じ学校にいる人は少ないのではないか、と述べる。
学校では、毎学期、新しいクラスメートが入り、何人かが移っていく。しかも、転校の理由は、「学校の方針が気に入らないから」といった日本では考えにくいものが珍しくない。頻繁な転校が、結果として、生徒間の上下関係をつくりにくくしており、転入生がいじめられることも滅多にない。ごく一部で見られるいじめも、長期化することはほとんどない、という。
クラブ活動も、長く続ける土壌がない。それどころか、ほとんどの学校が、毎年同じクラブ活動を続けることを推奨していない。子どもにはたくさんの新しいことに挑戦させることで、自分に本当に合っている道が見つかる、という考え方からだ。日本の「長く続けるからこそ、成果が出る」という考え方とは大きく異なる。
子どものときから「続けない」人生を歩むと、大人になってから「辞めグセ」がつくのではないか、と思う人がいるだろう。本書は、「そのとおりだ」という。マレーシア人の多くは、「辞めグセ」がしっかりとついているそうだ。
「忙しすぎて家族との時間が取れないから」「ハッピーじゃないから」と日本人にとっては軽い理由で、すぐに仕事を辞める。著者の職場では、1カ月に10人以上辞めたこともあったそうだ。
日系企業の人が「マレーシア人はちょっと怒るとすぐに辞めてしまう」とこぼしていたが、これは本当だ。
しかし、本書は、これこそ「トライ&エラー」の大人版だと考えている。マレーシアではこのような土壌があることから、終身雇用制度はなく、中途採用も不利ではない。会社を精神的支柱として人間関係に依存している人は少なく、会社名をステータスのように誇っている人も滅多に見ないそうだ。
だからといって、日本が劣っていてマレーシアが優れている、ということではないだろう。しかし、グローバルな視野で世界を見ると、「辞めグセ」は必ずしも悪いことではないし、日本において「続ける」ことで精神を病むくらいに苦しんでいるくらいなら、本書を読んで「辞める練習」に励んでみることも、自分の将来にとって役立つのかもしれない。
文=ルートつつみ