あなたの地頭を試してみよう! 暗号文の法則を見つけ出すことができる? 佐藤優からの挑戦状
公開日:2019/9/27
高校で学ぶ科目は、社会で生きていくのに必要な「理解力の土台」になりうるという。しかし、大学への進学に重きを置く現代では、早い時期から文系や理系に振り分けられ「志望校に必要ないと判断すればかなりの数の科目を『捨てる』ことができるようになってしまった」と、『佐藤優の挑戦状 地頭を鍛える60題(講談社現代新書)』(佐藤優/講談社)は嘆く。
本書は、同志社大学神学部で教鞭をとる著者が、実際の講義で学生の教養を鍛えるべく使っているという地方上級公務員試験の問題をピックアップして紹介する1冊。早速その中からいくつかの例題を取り上げてみよう。
■暗号文を読み解く。アルファベットが意味するモノとは?
初めに紹介するのは、論理的思考力を試す「判断推理」の問題だ。さっそく、以下の問題に注目してみてほしい。
問:ある暗号で「AcGhEiCcDe」が「ウミのサチ」を表すとき、同じ暗号の法則で「ヒラメ」を表したものはどれか。以下の5つの選択肢からえらべ。
【1】「AbJiCd」
【2】「FjDdDg」
【3】「FgIiGj」
【4】「FfIl(エル)Gg」
【5】「FgIkGg」
この問題を解くカギは、初めに示された「AcGhEiCcDe」が「ウミのサチ」を表すという例にならって、潜んでいる法則をいかに見つけるかにある。
暗号文は大文字と小文字が交互に組み合わされていることから、それぞれが1組のペアとなり「大文字が五十音の行(アカサタナ)、小文字が母音(アイウエオ)に対応している」というのは、おそらく多くの人が気が付くはず。
さらにふみこむと、例えば、「ウミのサチ」の「ウ」に対応するア行の母音は「abcde」であるが、「サ」に対応するサ行の母音は「c」から始まっているため「cdefg」となり、行に応じて母音を示す文字列がひとつずつズレているのがみえてくる。
参考までに本書に掲載されている対照表も紹介するが、問題文にある「ヒラメ」に対応するのは「Fg」「Ii」「Gj」となるため、答えは【3】である。
■四則計算ができればOK。缶の重さを導き出してみよう
続いては、数学の知識を駆使する「数的推理」の問題から。できるならば、ペンとノートを手にしながら取り組んでみてほしい。
問:ハチミツが入った5個の缶から、異なった2個の缶を取り出してできる10通りの組み合わせについて、それぞれの重さを量った。その重さが軽い順に、203g、209g、216g、221g、225g、228g、232g、234g、238g、250gであったとき、缶の重さの一つとしてありうるのはどれか。以下の5つの選択肢からえらべ。
【1】111g
【2】116g
【3】121g
【4】126g
【5】131g
数字をみるだけで辟易してしまうという人もいるかもしれないが、ひとつずつ問題文の内容を整理してみると、小学校で習うような基本的な計算だけで答えを導き出すことができる。
この問題の場合、最初にそれぞれの缶をA~Eと名付けてみると、10通りの組み合わせが「A・B」「A・C」「A・D」「A・E」「B・C」「B・D」「B・E」「C・D」「C・E」「D・E」となる。それぞれの組み合わせが何gかは明らかではないが、10通りの重量をひとつずつ足していけばその合計が「2256g」になるのがわかる。
このとき、計算式を文字で示すと(A+B)+(A+C)…と続けていくことになるが、実際に書き出してみると計算式が「4×(A+B+C+D+E)」とすっきり表せるのがわかり、そこからA~Eの重さの合計が「2256÷4=564g」であるのが導き出される。
ここまで来たらあと一歩。A~Eそれぞれの重さはわからないが、もっとも軽い組み合わせが203g、もっとも重い組み合わせが250gであるのをヒントにすれば「203g+(3番目に軽い缶)+250g=564g」という計算式を作れる。したがって、3番目に軽い缶は「111g」だとわかるので、答えは【1】となる。
■現代文の読解。バラバラな文章を正しい順序に並び変える
最後に取り上げるのは、読解力や文章構成力が必要になる「現代文」の問題。少しばかり、じっくりと読み込んでみてもらいたい。
問:次の短文A〜Fの配列順序として、もっとも妥当なのはどれか。以下の5つの選択肢からえらべ。
A:数字は、地球上の人口がいかに増えようとも、そのすべてに名前を与えることによって、完ぺきに把握し管理することができる。
B:もちろん、人間は絶え間なく生れているから、それにつける新しい名は、過去に使われた名をくり返して用いることが一度たりともあってはならない。
C:とするならば、同じ名前の人が存在するということが決して起きないようにしなければならない。
D:こうした要求を満たすことができるのは、いまのところ数字しかない。
E:つまり固有名詞のシステムは、無限の未来のことも計算に入れておかなければならないのであるから、決して閉じられることのない、無限に開放されたシステムが必要となる。
F:もし、同じ固有名詞が、その理想として求められるような、完ぺきな弁別性を追求するならば、一つの名は二度とくり返して用いられてはならないはずである。
【1】A→D→F→E→C→B
【2】A→E→D→F→B→C
【3】F→C→B→E→D→A
【4】F→D→C→B→E→A
【5】F→E→D→B→A→C
このタイプの問題は、選択肢から逆算しつつ文章の順番を考えるのがポイントだ。なお、文章の出典は言語と国家の関係をライフワークとして探求する言語学者・田中克彦氏による『名前と人間』だ。
まず、選択肢をみると始まりは「A」か「F」しかない。そこで注目するのが「F」の回答における「完ぺきな弁別性を備えた固有名詞とは何か」という問題提起で、この時点で「A」の順番は不明ながら、文章の前後関係から選択肢が【3】〜【5】に絞られるのがわかる。
そして、次に注目するのは「F」に続く「C」「D」「E」の接続詞だ。それぞれ「とするならば」「こうした(要求)」「つまり」と始まっているが、「F」の一節である「一つの名は二度とくり返して用いられてはならない」を受ける文を探してみると、「C」の内容にある「同じ名前の人が存在するということが決して起きないようにしなければならない」が、「F」の内容を発展させたものだと気が付く。よって、答えは【3】であると導き出される。
本書では、これらのほかにも、政治や経済、哲学・思想などあらゆるジャンルの問題が凝縮して紹介されている。タイトルにある“地頭”は、人間が本来持っている“賢さ”を示す言葉でもある。座学だけでは計り切れない、自分の力をぜひ本書を開いて試してみてほしい。
文=カネコシュウヘイ