【ひとめ惚れ大賞】つけまつげの長さや密度といった細かな差異に作家性がある『「盛り」の誕生 女の子とテクノロジーが生んだ日本の美意識』』インタビュー
公開日:2019/9/28
大学時代はエネルギー分野の研究をしていたんです。でも日本の大衆文化にもずっと興味があって、文化のようなソフトなものを、ハードの分野で用いられる工学的手法で研究してみようと思ったんです。たとえば浮世絵を数値化して解析してみると、西洋絵画的な透視図法を敢えて使わず、デフォルメされていることが論理的にわかりました。日本の美人画に見られるデフォルメ文化は高松塚古墳時代から見受けられるのですが、研究するなら過去より未来に触れたいと思っていて。そこで興味を惹かれたのが、街を歩いている女の子たちだったんです。当時はいわゆるギャルの全盛期。女の子たちが自身の顔をデフォルメしていて、彼女たちはそれを「盛り」と呼んでいた。ここに独自の文化がある、と直感しました。
最初は「なぜ彼女たちはそっくりなのか?」が気になっていて、ビッグデータ的な解析のため顔画像を集めてみたのですが、そっくりで分類できない。そこで実際に話を聞きにいくことにしたんです。でも彼女たちに盛る理由を聞いてみると、一様に「個性のため」と言う。一緒の顔なのに?と驚いたのですが、実際は微かな差異—つけまつげの長さや密度といったような—があって、そこに個性があった。最近のタピオカブームも近いと思うのですが、彼女たちは「大人」が理解できない領域を作って、上手に大人を追い出していたんですね。でも最近は状況が変わってきていて、それぞれの聖域はヴァーチャルな空間で作れるから、リアルではうまくやっている子が多い印象がありますね。いま「盛り」における作家性は「ヴァーチャルでの自分」をどう作るかに現れると思います。最近の盛りはアプリによるものが主流ですが、彼女たちはアプリを作った人間が予想できないような使い方を開発しながら、新しい世界をつくっていっています。
|| お話を訊いた人 ||
久保友香さん 1978年、東京都生まれ。東京大学先端科学技術研究センター特任助教など歴任。専門はメディア環境学。2008年に発表した「3DCGによる浮世絵構図への変換法」でFIT船井ベストペーパー賞を受賞。女性特有のコミュニケーションを背景としたテクノロジーを「シンデレラテクノロジー」と名付けた。
取材・文/田中裕 写真/首藤幹夫