患者の見た目や地位で、医者は行動を変えるのか? 医者の裏側を徹底解剖!!
公開日:2019/9/30
タイトルに「○○してはいけない」と入っている本や記事を、信じてはいけないというのが私のモットーだ。専門外の執筆者が、よく理解しないまま書いたのはまだマシな方で、医者や学者などの専門家が、独自で独善的なトンデモ説を流布しているなんてこともあるから油断できない。『知ってはいけない 医者の正体』(平松 類/SBクリエイティブ)もまた、刺激的なタイトルでアブナイ匂いがプンプンする。
しかし読み終えた今、前言を撤回し、お詫びして訂正しなければなるまい。「全国を渡り歩いた医者が暴露します」と著者が述べている本書は、単なる暴露本でもなければ、医療不信を煽るために執筆されたものでもない。私たちが知りたくなかった事実も含め赤裸々に語ることで、患者と医者の溝を埋めたいという願いが込められている。
◆患者の見た目や地位で、医者は行動を変えるのか?
答えは、残念ながら事実である。150人の患者と対話した医者の様子を研究した調査結果によれば、「話の聞き方」や「情報提供」といった医者の振る舞いに差があったそうだ。しかも、患者の身なりや話し方次第では、「効く薬をあえて出さない」ということもありうるという。たとえば身なりがきちんとしていないと、処方した薬を患者が適切に管理して指導したとおりに使ってくれるか、医者が不安になってしまう。「常識的な範囲で清潔感があれば十分」なものの、仮に身だしなみを整えにくいのであれば、「薬をきっちり使い続ける」ことで、「もっとよく効く薬を出しても大丈夫かな」と医者は考えると著者は述べている。
◆病院って、なんでこんなに待たされるの?
本書では太字で強調されているのだが、「断らないから」というシンプルな答え。自分が患者だとして、予約がいっぱいだからと断られ病状が悪化してしまうことを考えたら、この対応はむしろ有り難い話だ。また、外来で呼ばれる順番が前後するのも、見た目からは分からなくても「実は重症な人」を先に診察するのは当然だし、検査がいくつか必要な人も先に診察する必要があるという理由は理解できる。もっとも、暴露本でもあるからか「余裕のある診療をしていたらつぶれる」などという病院の経営事情にも触れていて、良い話を台無しにするのを厭わないのが清々しい。
◆「正常値」「標準治療」「最新治療」も患者が予想しない意味で使われている
よく「最新治療」が学会に発表されたというようなニュースが流れるが、これまた太字で強調されており「新しいだけで、まだいいか悪いか確定していない治療」という意味なのだとか。そして、学会で後年に「この治療法は、こんな問題が見つかった」と報告があっても、その頃にはもうニュースにならない。メディアは、とかくキャッチーなフレーズで耳目を集めようとするし、権威や常識がひっくり返されることに快感を覚えるのは、脳が発達した人間ならではかもしれず、惑わされないよう気をつけたいところだ。
権威といえば、患者の中には「院長の知り合いだ」という人がいることについて、これまた太字で「治療を優遇することはありません」と強調されていた。そもそも職員同士では院長への愚痴が多いし、「知り合いなら我慢してくれるね」となるだけ。それこそ、同じ治療を施しても同じ結果になるとは限らないから、特別に優遇するとか手を抜くなどといった手加減ができるはずもなく、「どの人に対しても、医者ができる最大限の医療を行っているはずなので、それ以上が存在しないからです」とも著者は述べている。ならば、どうして医療ミスは起こるのか。「医者が適当にやっている時」より「医者が真面目に仕事をしている時」の方が起こる数が多いそうで、そこを誤解してしまうと、医療不信を煽る情報によって「標準治療」から遠ざかってしまう危険があることを踏まえて、本書を読まなければならないと特に強調しておく。
文=清水銀嶺