休職しても増薬しても転院してもなかなか治らない「うつ」。長引く苦しみから抜け出すヒントは?
公開日:2019/10/2
真面目で規律正しく、責任感がある――日本人の気質といわれるこれらの性質がうつ病を招く一因ともいわれる。近年では社会生活においても、うつという言葉をよく聞くようになった。もし自分が、あるいは身近な人がうつ病になってしまったら、どうすれば良いのだろうか。
『なかなか治らない難治性のうつ病を治す本(健康ライブラリーイラスト版)』(田島治:監修/講談社)によると、うつ病や、躁うつを繰り返す双極性障害と診断され治療を受ける人の数は年々増えており、2017年の調査では、推計127万6000人にもなる。本書は、うつ病患者が増えている理由を4つ挙げている。
(1)うつ病の概念が広がったから
(2)うつ病の診断基準が、生活に支障をきたす抑うつが2週間と明確化されたから
(3)早期発見・早期治療の機運が進んだから
(4)治らない患者が長期間カウントされ続けているから
このうち、1~3は、患者にとって必ずしも悪い流れではなさそうだ。状態が深刻化する前に発見でき、治療することができれば、回復は早くなる。問題は「4」だろう。うつ病の怖さのひとつは、その治りにくさにもあるのだ。
本書は冒頭で、「つらく苦しい日々から抜けられた人」のケースをいくつか紹介している。例えば、営業職で順調に仕事をしていた男性会社員は、上司への不信感が募って、疲れが溜まっているのになぜか眠れなくなってしまう。やがて、もうろうとしがちな自分におかしいと気付き、クリニックへ。うつ病と診断され薬だけが増えるものの、当初はなかなか回復の兆しが見えなかった…。
やがてこのCさんは減薬を希望し、クリニックを転院することで、社会復帰を果たすことに。うつ病と診断されるまでの状況には、「もしかして自分も…?」とハッとした人がいるかもしれない。
「早く治りたい」と誰もが願っているのに、そのうつ病が治りにくい理由として、次の5つが考えられる。
1つ目は、不安障害を合併している、高齢である、ストレス要因が続いている、アルコールや薬物依存があるなど、従来からいわれているいくつかの要因をもっていること。2つ目は、治らないとあきらめ、状況に絶望していること。3つ目は、休みすぎるなど休養のとり方が誤っていること。4つ目は、うつ病を治しにくくなる発達障害があること。そして5つ目は、薬の使い方の問題である。
本書によると、うつ病を治すためとはいえ、多くの種類の薬を長期間飲み続けると、うつ病が慢性化したり、気分が不安定化したりすることがあるという。近年では、うつ病患者の多様化に対応するため、薬の種類、量が増え、服薬期間が延びる傾向にあるという。2014年から薬の処方が規制され、多剤投与が見直される方向に変わってきつつあるとはいえ、まだ多剤ではないかという声もある。
もし、長年うつ病で困っている人がいれば、先の男性会社員のように転院し、減薬という“引く治療”を実施してもらうのもひとつの手かもしれない。
本人の考え方、心のもち方を通じて症状を改善させる方法も、本書はわかりやすく示している。ひとつは、楽観主義で生きること。健康な人がもっている楽観バイアスと鈍感力を取り戻すことができれば、自尊心とともにうつ病が回復しやすい。また、「明るく元気いっぱいにならなくていいんだ」と開き直ることも、うつ病からの回復力を高めるという。
本書では、うつ病の症状の解説だけでなく、自分にあった治療法の見つけ方や、心構え、減薬や転院の際の具体的なアドバイスなどについてもイラスト付きで詳しく紹介されている。うつ病に対する正しい理解を深め、治りにくいとされてきたうつ病から抜け出すためのヒントを得てもらいたい。
文=ルートつつみ