「毎日生きるのがたのしい~!!!」おひとりさまオタクの日々を描いた、つづ井さんの新シリーズが始動!

マンガ

更新日:2020/8/27

『裸一貫!つづ井さん』(つづ井/文藝春秋)

 社会人になってから、仕事の予定が入っていたり、相手が結婚してしまったり、そういう大人の事情で友達と遊ぶ機会が減ってしまった。学生時代は毎日のように放送されたアニメの感想を言い合い、好きな漫画をお勧めし合い、同人誌即売会に連れ立って効率よく目当てのものが買えるように作戦を練ったりしていた日々が時折懐かしくなる。

 そんな「大人になってからオタクライフから遠のいてしまった」人たちにとって、エモさもあり、共感もあり、少しばかりうらやましくなってしまう作品が発売された。

「腐女子のつづ井さん」シリーズで大ヒットしたつづ井さんの最新作『裸一貫!つづ井さん』(文藝春秋)である。前作に引き続き、自身の日常を絵日記として描いた新シリーズ。今回は、それまでの強火のオタクっぷりを引き継ぎつつも、よりオタク友達との日々にもフォーカスして描かれている。

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 登場人物は、同様に、Mちゃん、オカザキさん、橘、ゾフ田の4人。

 それぞれに好きなものは違うものの、熱量の高いオタクであることは共通しており、自分の好きなものをプレゼンし合ったり、お互いのジャンルにいつの間にか詳しくなってハマったり、友人との豊かなオタクライフを送っている。

 前作では学生時代から就活、そして就職したての頃が描かれていたが、今はもうすっかり社会人として働いている。しかし、そんな5人は毎週のように一人暮らしのつづ井さんの家を溜まり場にして、だらだらと漫画を読んだりアニメを観たりするのが習慣になっており、あまりにも来る頻度が高いのでパジャマも置きっぱという始末。おまけに全員お風呂無精のため、互いにお風呂を押し付け合ったりしていて、これはお泊まり会というより、もはや家族のような空気感である。

 風呂に入る人を「相撲」で決めたり、夜唐突に近所の公園に行こうとなり、全力で遊具で遊んだり、彼女たちの天真爛漫さが眩しい。アラサーの女性ともなると、ついつい「恋愛」や「結婚」のことばかり話しがちだが、つづ井さんは決してそういったわかりやすい道には走らず、、キャラクターの身長にあわせたテープを壁に貼り付けて妄想を膨らませていたら夜が明けていた、というようなかなりユニークな遊びを思いつくところにこの作品の魅力はある。忘れかけていた童心がそこにはあるのだ。

 また、新シリーズになりつづ井さん自身にも変化が起きている。

 たまたま行った舞台の俳優さんに心を打たれ、三次元の推しができたのだ。それから腐女子のつづ井さんに夢女子の要素も増えていく。

 しかし、好きになった相手はインターネットでどれだけ探しても情報が見当たらず、主演作品のレポや過去の共演者のブログやSNS、劇団の会報誌を漁っても、年齢しかわからないという供給の少なさ。

 そんな「情報の少ない推し」ではあるが、つづ井さんは諦めない。

「こうだったらいいな」という推しの妄想の話をまるで真実のように話し始めたり、自分の中に架空の人物を作り上げ、SNSアカウントで発信を始めたり、かなり「強い」方法で解決していく。

 つづ井さんをみていると、「社会人になって友達が減ったからオタ活がはかどらない」なんて言っていた自分を張り倒したくなる。

 つづ井さんは生活を楽しむ天才である。それは世間が想像するような「楽しい大人の生活」とはちょっと違うかもしれない。

 でも、友達と全力で相撲をしたり、自分のお尻を愛でたり、節分に闇恵方巻きをしたり、私たちがなかなか思いつかないような楽しそうな遊びがそこにはたくさんある。そして、そんなつづ井さんだから、街コンやダイエットなどのエピソードすら、想像の斜め上をいくところに着地するから面白い。

 つづ井さんの絵日記を読んでいると、なんだか子どもの頃を思い出して、活力が湧いてくる。誰もがちょっと童心に返り、元気をもらえる一冊だ。

文=園田菜々
©Tsudui