聴力検査じゃ見つからない!? 音として聞こえるのに言葉として理解できないAPD(聴覚情報処理障害)の特徴
公開日:2019/10/6
誰かとの会話中。音としては聞こえているはずなのに、その内容がどうしても理解しづらい――。近年、こうした症状を抱える「APD(聴覚情報処理障害)」に悩む人たちの声が、たびたび取り上げられるようになった。一説によれば推定患者数は240万人にもなるという。
耳鼻咽喉科の専門医がまとめた書籍『聞こえているのに聞き取れない APD【聴覚情報処理障害】がラクになる本』(平野浩二/あさ出版)は、このAPDの人たちが抱える悩みに寄り添う1冊。症状の解説やAPDであるか否かの確かめ方、また生活における改善のヒントについて分かりやすく丁寧にまとめられている。
■普通の聴力検査では異常が見つからない!?
「聴力に異常がないけれど、言葉がよく聞き取れない状態」が、APDにみられる特徴。本来、私たちにとって“しっかりと聞き取れている”ときは「音の情報が耳に伝わって脳に伝わっている状態」だが、APDの場合には「脳での言語の認識処理に時間がかかるため、うまく理解できない状態」に陥っている可能性がある。
ただし、すべての言葉が聞き取れないわけではない。人によって症状はさまざまだが、例えば、以下のようなシチュエーションで聞き取りづらい場合には、APDに原因があるかもしれないという。
□ 聞き間違いが多い
□ 音は聞こえるのに、言葉が聞き取れない
□ 横や後ろから話しかけられると聞こえない
□ うるさい場所では相手の話がわからなくなる
□ 電話で相手が何を言っているのかわからない
□ 話している人の口元を見ないと理解できない
□「ちゃんと聞いているのか」と注意されることが増えた
□ 複数の人が話していると何を言っているのかわからない
□ 画面に字幕がないと意味が理解できない
□ 仕事でお客さんの注文が聞き取れない
APDに悩む人たちは「普通の聴力検査をしても異常が見つからない」という特徴もあるという。本書に寄せられている患者さんたちの声をみると、仕事上のコミュニケーションなどでも支障をきたしてしまい、生活しづらいと感じている人は少なくないようだ。
■日常生活で試してみたい“聞き取りづらさ”改善の事例
現状ではAPDを治す方法は見つかっていないと述べる本書は、「現状を受け入れて生きていく」ことの大切さを丁寧に説明する。また、生活の中で工夫することによって、“聞き取りづらさ”を少しずつ改善する術はあるという。例えば、以下のような方法が提案されている。
◎雑音を遮断する工夫を
周囲がうるさい場所だと極端に聞き取れなくなるというのもAPDの特徴。これは裏返せば「静かなところでは聞こえる」ことにもつながるので、話をじっくり聞く場合にはテレビや音楽プレイヤーなど他の音が出るものはできるだけ止めたり、相手と相談できるのであれば静かな部屋に移動するのもひとつの選択肢だ。
◎反復して聞けるレコーダーを活用
学生であれば日頃の授業や講義で、ビジネスマンであれば商談や会議といった場面で、ICレコーダーやスマホの録音機能を使ってみるのも対策のひとつ。聞き取れなかった部分を後で繰り返し聞いて確認できるので、補助として活用するのもいいだろう。
◎文章化した内容で相手とやり取り
どうしても音声が聞き取りづらいということならば、文字でコミュニケーションを図るのもひとつの手段。仕事上では、周囲から協力を得られるのであれば話し合いの内容を文章化して手渡してもらったり、近しい人同士であれば、電話よりも「LINE」などのメッセージ機能をメインに使ってみるのも改善への糸口になりうる。
これらのヒントはほんの一例だが、著者は患者さんに対して「相手の顔を見ながら、話すようにするといいでしょう」というアドバイスをすることも。その理由は、相手の口の形が見えるので理解しやすくなるためだ。また、日頃からよく付き合う人たちに対して、「自分が聞きづらい現状」についてはきちんと伝えておくべきだと提案している。
さて、人によっては自覚症状にすら気が付きにくいこともあるAPD。しかし、日常でちょっとでも違和感をおぼえたという経験があるならば、本書をたよりに自分の生活をいま一度振り返り、改善策を練るのもよいだろう。
文=カネコシュウヘイ