民族ブーム到来か! ファストファッションが流行る今だからこそ“古き良きもの”に魅了
公開日:2019/10/26
民族衣装。
そこには土地にまつわる伝統や着る民族の思いが詰まっている。独自性のあるデザイン、色彩、技法…。そう、民族衣装とは情報の宝庫なのだ。ひと目で出身地やライフステージがわかったり、形は同じでも色や柄によって、住んでいる地域やコミュニティを識別することができるという。そのカタチはさまざまだが、すべてのものに共通するのは、魅了されずにはいられない見事な手仕事。
「日本人である私たちでも、今の時代でおしゃれに民族衣装を着てみたい」、そんな思いから生まれたのが『都会で着こなす世界の民族衣装』(主婦の友社)だ。民族衣装の背景にある土地の気候や習慣、ルーツの紹介とともに、いまのスタイルにセンスよく取り入れる、着こなしのヒントがつまった1冊だ。
「東ヨーロッパ/侵略と占領のなかで発展した美しき衣装」
ハンガリー南部・カロチャ地方に伝わるカロチャ刺繍のベスト
赤やピンクは若い女性の象徴色といわれ、年齢を重ねた女性が着る衣装はブルーや紫などの落ち着いた色で刺繍される。模様はカロチャ名産のパプリカや、当時流行したバラやチューリップ、スミレなどの花々が多い。民族衣装としては、ブラウスに重ね、同じくカロチャ刺繍を施したエプロンを組み合わせる。
着丈短めのハンガリーベストは、ビスチェ風にレイヤードして現代版にアレンジ。伝統的な鮮やか刺繍をいまっぽくシフトする着こなし。
チェコ・南モラヴィア地方からスロバキアにかけて着られるブラウス
色鮮やかな飾り襟や、ボリュームのある袖が特徴。袖や襟にびっしりと施されている刺繍は、生地にあけた穴をかがるように施していく「アイレット」という技法。民族衣装として着る際には、リボンで飾った頭飾りや白地のブラウスに映えるような、金糸の入った華やかなベストなどを合わせる。
都会で着こなすには、ブラウスの刺繍に施されたオレンジをピックアップして、ワントーンコーデでまとめれば洗練されたスタイルに。
「アジア/民族の交流や物品の往来、広範囲に伝わった宗教は衣装にも色濃く反映」
インド西部のラバリ族が着る「ケディア」と呼ばれる男性用上衣
民族衣装としては頭に白いターバン、ボトムに「ルンギ」と呼ばれる白い腰布を巻き、全身白一色で統一する。「ケディア」を主役に、タイトスカートを合わせれば、上衣の裾のフレアをより一層引き立たせレディな印象に。体のラインを拾いすぎない、縦の流れを形成したIラインがポイント。
トルクメニスタンのトルクメン族が着る「クルテ」という女性用上衣
「クルテ」は、パンツの上に「コイネック」と呼ばれるロングワンピースを着用し、その上から羽織る。シルクで仕立てられ、襟や前立て部分、袖口や裾に細かな手刺繍が施されているのが特徴。刺繍には魔除けの意味が込められており、開口部に施すことで、魔物を近づけず入り込めないようにしたといわれている。
透け感のある軽やかな素材のワンピースのアウターとしてスタイリングしたクルテは、羽織るだけでコーデの主役に。チェーンバッグやパンプスなど、洗練された小物使いでとライバル感を緩和させれば、どこか懐かしい大人ガーリーな雰囲気になる。
「中南米/先住民の時代より発展してきた鮮やかな貫頭衣が特徴」
グアテマラの貫頭衣仕様の伝統的衣装「ウイピル」
長方形の織物が縫い合わされ、穴から頭を通してかぶる「ウイピル」。グアテマラの民族衣装では、短い丈のウイピルの下に紋文様の巻きスカートをはき、ベルトを締めるスタイルだが、現代では、ウイピルの鮮やかな刺繍にあえてカラーボトムを合わせてみる。ジャージー素材のピンクパンツはセンタープレスのものを。カジュアルになりすぎず、鮮度高めの大人リラックスを演出。
「アフリカ・西アジア/遊牧生活をしたアフリカにみる自由な衣装」
ナイジェリア・ヨルバ族の男性衣装「エシキ」
民族衣装としては同じ柄の上衣とセットで着るものだが、長めのトップスでパンツの個性をチラ見せ。力の抜けたカジュアルコーデに、手の抜かないこだわり小物が映える。写真の「エシキ」に使われている布は、「アショオケ(=ヨルバ語で“最上の布”の意)」と呼ばれる手織りの細幅布で、浮き糸、模様に穴を織り出す、綴れ織りなどの多様な技法からさまざまな柄が表現されたもの。
いかがだろうか。本書は世界31カ国の民族衣装を“都会で着こなす”をテーマにピックアップ。民族衣装としての着方や、刺繍や柄、色などから読む意味など、衣装だけでなく小物や雑貨も満載のビジュアルで楽しめる。さらに、HAFA、東欧民芸クリコ、谷崎聖子さん、西洋民芸グランピエ、SOLOLA、KANNOTEXTILE、fabracadabraと、民族衣装に魅了される人たちのインタビューもたっぷり紹介されている。ファストファッションが流行る今だからこそ、長年に渡って伝わる“古き良きもの”に触れてみては。