“カワイイ女の子”の皮をかぶる“男の子”――自信が持てずに本当の自分をメイクやファッションで隠しているあなたへ。

マンガ

更新日:2019/10/26

『カラーレスガール』(白野ほなみ/芳文社)

 女子大生だったころ、テレビドラマを見ていてショックを受けたことがある。主演の女優さんが持っていたバッグが、口紅1本入るかなというほど小さかったのだ。もちろん衣装だろうが、私は自分の大きなメイクポーチに目をやり悲しくなった。あの人は、素顔のままでキレイだから、メイクなんてしなくていいんだ。隠したり、ごまかしたりする必要がないもの。重くてかさばるメイク道具を持ち歩かなくていいから、あんなふうに軽やかに笑っていられるんだ…。

『カラーレスガール』(白野ほなみ/芳文社)の主人公・アオイも、そんな気持ちになったことがあるに違いない。

 中学生のころのアオイの夢は、透明人間になることだった。人前に立つのが苦手で、優秀な姉の横に立っては気後れし、自分という存在を消してしまいたいと思っていた。けれどある日、クラスメイトが雑誌をめくりながら話すのを聞いていて気がついた。「スッピンこんななの?」「別人じゃん」「メイクの力やべぇ」。透明になることも、自分を消すことも叶わないなら、「皮」をかぶってしまえばいいんだ──。

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 大学生になったアオイは、どんな朝でもメイクを施し、シフォンのトップスとスカートを身につける。出かける前に鏡を覗けば、誰からも愛される完璧な美少女がそこにいる。憧れの美大には、ファッションも個性もバラエティ豊かな学生が集う。その雰囲気を気に入ったアオイの学生生活は、なかなかに充実していた。

 だがアオイには、仲のいい友達にも、決して言えない秘密があった。それは、本当は“男の子”だということ。

 幼いころから、「かわいい」からとよく女の子に間違えられた。引っ込み思案で要領の悪いアオイにとって、「かわいい」は自分を肯定してくれる唯一の言葉。だから他人の前に立つときは、メイクをして、スカートを履き、自信を持てない自分の姿を隠してしまう。「かわいい」女の子の皮をかぶるのだ。

 誰にでも愛される皮をかぶっていれば、人前に出ても大丈夫──そう思っていたのだが、現実はそううまくはいかなかった。友達に本当のことを話せない後ろめたさ、バイト仲間に男だとバレているのではと感じる恐怖。息苦しさが増す日々の中、追い打ちをかけるように、アオイは大学でできた友人のリカコに、自分の秘密を知られてしまい…?

 好きな人の前でちょっとだけ声が高くなってしまう、後輩に信頼されたくて知ったかぶりをしてしまう。「かわいい」の皮に限らず、そんな経験が誰にだってあるだろう。愛されたいと願うなら、ありのままの自分をさらけ出すのは、思った以上に勇気が必要なことだ。

 実は最近、くだんの女優さんの取材をする機会があった。私が見たテレビドラマは、ずいぶん前に放送されたものだ。ブラウン管を通さずに見た彼女の目尻には、年齢相応のチャーミングなしわがあった。憧れに親しみが加わり、彼女のことをもっと好きになった。

『カラーレスガール』は、そういった種類の感動で、自分を、大切にしたい相手のことを、より豊かに彩ってくれる作品だ。この本を読んだあなたが、重たい心のメイクポーチから、ひとつだけでも苦しい色を置いて出かけてゆけますように。

文=三田ゆき