「読書会婚」も!? 社会人の学びや人脈づくりになる、と評判の「読書会」を知ろう!
更新日:2019/10/28
人生をより創造的なものにするために、「家でも職場や学校でもない、とびきり心地よい“第3の居場所”(サードプレイス)を持とう」と、アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグは提唱した。
理想的な第3の居場所は、身近にあり、無料もしくは安価で参加でき、定期的に人々との創造的な交流ができる場所だという。
そんな第3の居場所として、特に「本好き」の方にオススメしたいのが、「読書会」という場である。さて、読書会とは? 参加することのメリットとは? その詳細を教えてくれるのが『読書会入門』(山本多津也/幻冬舎)だ。
著者の山本多津也氏は、名古屋で住宅リフォーム会社を経営するかたわら、読書会「猫町倶楽部」(以下、同会)の主宰をしている。そのため本書は、同会を立ち上げた経緯や運営方針、また、運営を通して著者が感じた読書会の意義などが語られる内容となっている。
●本を読んだ感想を語る(アウトプットする)ことの意義
同会は、「課題本を読み、その感想を語り合う」スタイルの読書会だ。
2006年、名古屋在住の著者は友人数名に「カーネギーの『人を動かす』を読んで感想を話し合おう」と持ち掛け、小さな読書会を始めた。その結果、感想を話し合うこと、つまり本から得た情報を「アウトプットすること」に、学びを高める大きな効果を感じたという。
読書会の意義を実感した著者は、「猫町倶楽部」と名称を改め、SNSのmixiで呼びかけを行い、今では名古屋、東京、大阪、京都、福岡の5都市で読書会や関連イベントを年200回ほど行い、年間でのべ約9000人が集う場に成長したという。
ちなみに同会では、文学系を課題本とする「文学サロン月曜会」、ビジネス・自己啓発系の「アウトプット勉強会」、哲学系の「フィロソフィア」、大人の性愛系の「猫町アンダーグラウンド」など、ジャンルごとの分科会形式で読書会を行っている。
いずれの分科会も初参加大歓迎で、年齢性別、読書歴、知識量などは一切問われない。ただし、必須条件が2つある。「課題本の読了(最後まで読み切ること)」と、感想などをシェアする際に「他者の感想や意見を否定しないこと」だ。
ではどんな課題本が選ばれるのか。著者いわく、「案外スパルタな選書」だそうだ。
●古典や長編小説など、あえて「スパルタな選書」をする理由
歴代の課題本(本書の巻末資料や同会のホームページで確認できる)には、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』、紫式部『源氏物語』といった長編や、カント『純粋理性批判』といった難解書もある。たまに村上春樹の名前を見かけてホッとするが、「特別イベントでもない限り、現代作家や旬のベストセラー作品が選ばれることはない」そうだ。
なぜ著者はあえてスパルタな選書を行うのか、そこには確固たる理由がある。
せっかく読書会に参加するのだから、「普段あまり積極的に手を出そうと思わない本、自分だけでは読み終えることの難しい本」を読むことに意義があるというのだ。
著者はこうした本を総じて、「脳が汗をかくような読書になる本」と、まさに言い得て妙に表現している。
中でも古典を重視する理由はこうだ。
(前略)ただひとえに、古典を読んでいないというのは、とても“もったいない”ことだと思うのです。
時代を超えて読み継がれる古典文学には、それだけの理由があります。普遍的なメッセージが込められているだけでなく、のちに登場するさまざまな作品に多大な影響を与えています。(後略)
読書はつい、実用性や自分の好みに偏向しがちである。しかし世の中には、しんどい思いをしてでも読む価値のある本がある。そうした本に「読書会」の課題というきっかけを利用して触れてみてほしい。これが著者の課題本選定に込めた思いなのである。
●読書会きっかけでゴールインする「猫町婚」カップルも多数!?
同会には他にも、従来の読書会のイメージを覆すユニークな特徴もある。
例えば、課題本に着想を得たドレスコードがある読書会や、ゲスト(著者や文化人など)を招く読書会、課題映画の感想を述べ合う「シネマテーブル」、さらには多彩なオフ会イベントだ。「猫町婚」という言葉もあるそうで、「猫町倶楽部」で出会い、結婚したカップルも多数いるという。
本書を読んで筆者が何より共感したのは、著者が同会を参加しやすく、純粋な「継続学習の場」と位置付けて、そのための努力を惜しまないところだ。
同会は著者を含め、運営はボランティアスタッフで行われており、商業主義と一線を画している。会員ビジネスも行わず、参加者を囲い込む仕組みも一切ない。
初心者が参加しやすい理由は他にもある。倶楽部内にヒエラルキー(古株・新米といった階層構造)をつくらず、誰もが対等の関係を維持していることだ。課題本の選定を著者だけが行い、スタッフが1年間交代制なのもそのためだという。
そして、他者否定をしないのは、同会を「何が正しくて、何が間違っているかを決める場ではない」、「白か黒かではなく、グレーに自分を留め置く場」としているからだ。
著者も、「本書はあくまでも読書会というものを知ってもらうための足掛かり」と記している。ぜひ、本書をきっかけに、身近な第3の居場所としての読書会探しを始めてみてはいかがだろうか。
文=町田光