恋人があなたに整形の事実を告白してきました。『究極の思考実験』⑤

暮らし

公開日:2019/11/3

  

 たくさんの石を積んだ無人トロッコが、猛スピードで迫ってきた! このままでは、トロッコの進行方向の線路上にいる5人の作業員が危ない。あなたの近くには、線路の進路を切り替えるレバーがある。このレバーを切り替えれば、左の線路上にいる5人の命は助かるが、切り替えた先、右の線路上にも1人の作業員が……! さぁ、どうする!? 思考、命、近未来、倫理に関する究極の2択で、自分で考え自分の答えを導き出す27の思考実験。

整形した恋人

 あなたには恋人がいます。

 ある日、その恋人があなたに整形の事実を告白してきました。

 恋人に打ち明けられた事実は、次のどちらのほうがよいですか?

「顔を整形しています」
「性格(記憶)を整形しています」

 1つは、どうしても自分の顔が気に入らず、目と鼻と顎を整形した恋人。

 もう1つは、性格は記憶から作られることを知り、開発された最新技術で、記憶をなるべく実生活に関係しない部分で、いくつか削除や追加、変更を行い、直したかった歪んだ性格を整形した恋人。記憶の書き換えを行う最新技術は高性能かつ安全で、法律的にも問題ないものとします。

 整形後の仕上がりは、どちらの場合も全く同じとしてください。

 つまり、顔を整形してその人になったのか、性格を整形してその人になったのかの違いです。

 さて、あなたは恋人からされるなら、どちらの告白のほうがよいですか?

解説

「顔を整形しています」の場合、整形前と性格は変化していません。「性格(記憶)を整形しています」の場合、整形前と顔は変化していません。整形後の仕上がりは全く同じとあるので、どちらを整形して、今、目の前にいる恋人になったのかが違います。

 顔の整形は馴染みがありますが、性格の整形は未知の世界で、この部分をどう捉えるかで選択が変化するでしょう。

 性格の整形というのは、記憶を操作することになるので、その時点で別人になるような感覚を抱くかもしれません。人間性を作り、その人がその人らしく、その人自身であるのは、その人の記憶があるからです。

 私たちは自分が何者であるかを考えるとき、過去の記憶をたどって理解しようとするはずです。記憶というものは、その人を形成する人生そのものだと考えられます。しかし、記憶には困った一面があります。それは、自分の記憶なのに、頻繁に間違いが含まれていることです。

 例えば、3年前の誕生日会のことを話題にしたとき、あなたは「いとこの○○がいた」とはっきりと記憶しているのに、あなた以外の家族は「○○はいなかった」といい、そのときに撮った集合写真を見ると確かに○○はいなかったことがわかる。こういった記憶違いは、比較的起こりやすいのです。

 曖昧なものであれば書き換えてもさほど気にならないと考えるか、曖昧なものだからこそ、書き換えて性格を変えるとなるとさらに記憶が混乱して、信じられなくなってしまうと考えるか、思考が分かれるポイントの1つです。

 今回の性格の整形は、「実生活に関係しない部分で、いくつか削除や追加、変更」を行うので、「その人が何者であるか」を変えてしまう心配はないと考えていいでしょう。

 性格はもともと変化するものです。海外での異文化経験や、たった1人の人との出会い、突然の幸運や不幸などが大きなきっかけとなり、短時間で性格に比較的大きな変化が起きることもあります。

 一方の顔は、怪我などがない限り、大きく変化することはありません。もちろん、年齢とともに成長して変化しますが、それは性格についても同じことでしょう。

 ここから、「変化しやすいものだから、記憶を変更することで、うまく変化を誘導してあげるだけ」と考えることもできますし、「変化させられるのだから、努力して自分の力で変化させるべき」と考えることもできます。

 あなたは、目の前の恋人から、「顔を整形しています」と告白されたほうがいいですか?「性格(記憶)を整形しています」のほうがいいですか?

続きは本書でお楽しみください。