え、日本の伝統米が消える?! 食と農業のヤバイ現状が記された日本人の必読書
公開日:2019/11/5
「日本、アメリカ産余剰トウモロコシを大量追加購入へ」──今年8月末から9月中旬にかけて、日本のさまざまなメディアがこう報じた。
ジャーナリストで栄養学博士の井出留美氏による「なぜ日本は米国産余剰トウモロコシ数百億円分を購入決定すべきでなかったか」と題されたヤフーニュースの記事によれば、今後大量にやって来るのは「米国産遺伝子組み換えトウモロコシ」で、用途は飼料用だという。
(参照:https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20190826-00139874/)
「家畜用なら、GMO(遺伝子組み換え食品)でも、まあ、いいか」と、あなたは思えるだろうか……?
GMO食品の大量購入にしても、種子法廃止にしても、「日本の食糧・農業政策はどこか変じゃないか?」と思ったら、ぜひとも読んでいただきたいのが、『売り渡される食の安全』(山田正彦/角川新書)だ。
著者の山田正彦氏は、2010年6月、農林水産大臣に就任。現在は、弁護士活動の傍ら国内外の食糧・農業政策や有機農法等を調査・研究し、著書『タネはどうなる?!~種子法廃止と種苗法運用で』(サイゾー)や講演で、「種子法廃止」(2018年4月)によって日本に迫る農業と食卓の危機を訴えて活動している。
そんな山田氏が緊急出版した本書には、種子法廃止が意味すること、日本の農業を支配しようとする巨大アグリ企業の動きや、世界がGMO・ゲノム編集食品に対して「NO」を突き付け、代わりにオーガニックブームに湧くなか、日本政府だけは逆行している現状などがコンパクトにまとめられている。いくつかのトピックスを「ここがヘンだよ日本人」風に紹介していこう。
●「主食の種の公的管理をやめる」と宣言したのは日本だけ!
種子法とは、稲(米)と、大豆、麦の種(原原種・原種含む)を、国(官庁)と地方自治体が厳格に管理することを義務付けた法律だ。本書には、種子法の担ってきた役割が歴史的経緯も含めて解説され、地方自治体(試験農場)や採取農家(販売するための種を採取する専門農家)への取材により、緻密で手間暇のかかる稲の種籾の管理・栽培プロセスの実際も紹介されている。
そのくだりを読めば誰もが、これまで以上に感謝の思いとともにお米を頂くことになるだろう。それほど大切に日本の稲の種は守られ、育てられてきた。
しかし、種子法が安倍政権によって廃止され、今後は公的には管理されなくなる。つまり日本は、稲・大豆・麦の種の管理・生産・販売を含む種子ビジネスを、民間企業(多国籍アグリ企業・化学系企業)に開放(自由化)したのである。
その結果、どんな懸念があるのかは、ぜひ、本書でその詳細を知ってほしい。
将来的に国民がどんな米を食べることになるのか、あえて先行き不透明にした日本の選択。著者が調べたところによれば、主食の種の公的管理を放棄した国は、日本以外には見当たらないという。
●「ゲノム編集食品はGMOではないため安全」と謳うのは日本だけ!
本書によれば、すでに、アメリカ産ゲノム編集大豆である「高オレイン酸大豆」が日本に上陸し、何の表示もないまま流通し始めている。
ゲノム編集とは、例えば大豆なら、大豆の遺伝子を目的に応じて編集加工する技術だ。対してGMOは、他の動植物の遺伝子を大豆に組み込む技術である。
こうしたゲノム編集食品に対してEUは「GMOと同等である」と判断し、その扱いに対して慎重姿勢を崩さない一方で、アメリカでは、農務省が「ゲノム編集はGMOではない」としたが、それは一部に限られ、改変の仕方によってはGMOである、とした。
しかし日本の厚生労働省は、「ゲノム編集食品はGMOではないため安全」と早々に太鼓判を押し、ゲノム編集食品の輸入に前のめりの姿勢を見せている、と著者は危機感を訴える。さらに厚生労働省は、ゲノム編集食品の表示は不要とした。
今後、高オレイン酸大豆が「遺伝子組み換えではない」納豆や豆腐などなり、国民が口にする日は近いと警告する著者は、「未知の領域がまだまだ多い遺伝子、しかも口に入れる食品の扱いに関して、(日本の判断は)あまりに拙速ではないか」と懸念を訴える。
●世界が禁止する農薬成分グリホサートを積極活用するのは日本だけ!?
グリホサートは、巨大アグリ企業モンサント(現・バイエル)が開発した農薬「ラウンドアップ」の主成分だ。本書によれば、グリホサートが原因となった薬害訴訟がアメリカ(1万3000件以上)、フランス、オーストラリアなどで起こされおり、被告となったモンサントは敗北を続けているという。
こうした裁判事例も踏まえ、世界中で使用禁止や規制がかかるグリホサートだが、著者によれば、日本では「安全」だとして、100円ショップやホームセンターで売られるほど手軽だという。それもあって公園や小学校など、子どもたちが遊ぶところもグリホサート系農薬がまかれている。
加えて2017年12月には、田畑での残留基準の規制も緩和され、まさに日本はグリホサート天国なのだ。
本書には他にも、アメリカのスーパーマーケットでの食品表示事例や、小中高の学校給食にオーガニック食品を導入する韓国の事例の他、食の安全性を確保しようとする国々と人々のさまざまな試みが記されている。
そして唯一の希望が、本書の最後にまとめられた「地方自治体の取り組み」だ。政府の種子法廃止に対して現在は、各自治体が「条例」を制定して対抗することで、従来通りに種を守れるよう取り組んでいるのである。
さて、冒頭のトウモロコシだが、本書で著者は、対米貿易政策として日本は自動車産業を守る代わりに、食や農業を犠牲にする方針なのではないかと推測する。だが決して、日本を巨大アグリ企業による食の実験場などにしてはいけない。
そのためには本書を通して、食と農業の現状を知り、将来に向けた改善へと国民総出で取り組むしかない。子どもたちに、日本伝統の素晴らしい食環境を残したい──。そう思う人は、すぐにでも本書を手にしてみてほしい。
文=町田光