彼氏を待つガールズトークも収録!? 1300年前の「声の缶詰=万葉集」をマンガで紹介!
公開日:2019/11/3
「最近、彼氏に会えなくてさー。玄関で物音がしたら、『来てくれたの!?』なんて思っちゃって。ただの風だったわ」
「風でもいいよ~、待つ人がいるってことでしょ!? 私なんて、それすらいないんですけど!!」
どこかのカフェで隣り合わせた女子ふたりが交わしているようなガールズトーク。これが、新元号「令和」の典拠となった『万葉集』に載っている歌のやりとりだとしたら、ちょっと驚いてしまうのでは?
『万葉集』について、学生時代に授業で習ったという人も多いはず。おもしろそうだと思った人も、ピンとこなかったという人も、ぜひ『マンガでわかる万葉集』(上野誠:監修、サイドランチ:マンガ/池田書店)を手に取ってみてほしい。『万葉集』に歌われているのは、恋の悩み、仕事の苦労、家族への想いや人生観──今も昔も変わらない、“日本人”の心だ。
『万葉集』は、7世紀半ばごろからほぼ100年の時間をかけてできあがった書物。巻十六までは大伴家持が編纂していたらしいが、彼はある段階から編纂に携わらなくなったという説もあり、残る巻十七から二十はいまだに誰が作ったのかわからないというミステリー要素も含む、“オイシイ”読み物である。
歌の詠み人は、天皇や女帝、貴族たちから、反乱の首謀者、酒好きの役人、不倫カップル、作者不記載の“名もなき人”まで、実にバラエティ豊か。本書では、歌の内容だけでなく、万葉の時代の生活や文化、歌が詠まれたときの背景を、マンガや写真、図解などでわかりやすく説明している。たとえば、はじめに挙げたガールズトークは、こんなふうだ。
『万葉集』の時代、貴族の夫婦は同居せず、男性が女性の家に通っていた。女性たちは、いつ来るとも知れない男性を待つことが、現代よりもはるかに多かったのだ。この2首をやりとりした額田王と鏡王女は、ともに天皇の寵愛を受ける身分の高い女性であり、異説はあれど姉妹だとされている。これらの歴史的背景が書かれた解説のページを読んでいると、文化の違い、身分の違いがあったとしても、女の子たちの恋への想いは、現代と共通していることに気づかされる。
そうかと思えば、いかにも万葉の時代の貴人らしい、スケールの大きな歌も。
持統天皇は、夫である天武天皇を亡くし、皇太子も亡くして皇位に就いた。この歌からは、すぐれた政治手腕を発揮した彼女が、東に香具山を望む新しい都の造営を成し遂げたときの誇らしい気持ちを読み取れる。さらにキーワード解説では、現在の皇室典範では認められていない女性天皇が、歴史上8人存在し、そのうち持統天皇ら6人が万葉の時代の天皇だったことも知ることができ、過去は未来を考えるヒントになると実感する。
ちなみに、「令和」の典拠にもつながった梅花の歌を詠んだ歌人、大伴旅人の作も見てみよう。
「悩むくらいなら酒でも飲もうぜ」…なんて、私と同じじゃないですか!
1300年前に生きた日本人の「声の缶詰」である『万葉集』。はじめて触れる人には楽しい学びを、これまで興味を持ってきたという人には新しい発見をもたらす本書をめくってみれば、歌の意味や「令和」という元号のルーツだけでなく、日本人の心のルーツも見えてくるだろう。
文=三田ゆき