8周年の『アイドルマスター シンデレラガールズ』、それぞれの想い③(大槻唯編):山下七海インタビュー
公開日:2019/11/6
『アイドルマスター シンデレラガールズ』のプロジェクトが始動したのは、2011年。今年でまる8年を迎える『シンデレラガールズ』は現在、東名阪の3都市で、それぞれ「Comical Pops!」「Funky Dancing!」「Growing Rock!」と異なるテーマを掲げたライブツアーを行っている。9月に開催された幕張公演では、ステージ上でパフォーマンスを繰り広げるアイドル(=キャスト)と、彼女たちを見守り、支え、盛り上げるプロデューサー(=ファン)が気持ちを通い合わせる光景を目撃し、改めて『シンデレラガールズ』のライブや楽曲が生み出す引力を実感した。今回も、7周年を機に実現した昨年の特集に続いて、自身が演じるアイドルとの信頼関係や、ライブへの想いを、3都市のライブのいずれかに出演するキャストに、熱く語ってもらった。第3回は、幕張・名古屋の2公演に出演する、大槻唯役・山下七海のインタビューをお届けする。
スタッフとキャストの愛があって、大事に作ってるからこそ、今の『シンデレラガールズ』がある
――幕張公演の2日目のライブを観させてもらって、本当に充実感があって楽しいステージだったと思うんですけど、山下さんにとって、どんなライブでしたか。
山下:『Comical Pops!』という名前がついてるとおり、私が心の底から弾けている姿をお見せできたらと挑みました、歌った曲も“LOVE & PEACH”や“Radio Happy”をはじめ、楽しい曲が多かったので、笑顔満開のステージにできたらいいな、と思いながらステージに立ちました。
――その目標を立てるに至ったことには、どんな背景があったんですか。
山下:『シンデレラガールズ』のステージには何度か立ってきたので、だからこそちょっと肩の力を抜いてステージに立てるようになってきた感覚が、自分の中にあって。その感覚ならば、今までよりもっと弾けた自分が見せられそうだなって、練習の段階から予感みたいなものがあったので、具体的に目標を立てました。
――今回は、より自分を開放できる予感があった。
山下:はい。今までは、毎回が大きなステージだから、緊張が勝ってた日もあったんですけど(笑)。今回ようやく、ステージの上でもちょっと肩の力を抜いて立てる自分がいることを実感しました。あとはやっぱり、『シンデレラガールズ』の大槻唯として、プロデューサーちゃんに直接会う機会はそんなに多くはないので、その喜びもありますね。緊張もするけど、プロデューサーちゃんに実際見てもらえるのは嬉しいし、会えるのも嬉しいなあ、と思います。
――幕張で言うと、セクシーギャルズの“Gossip Club”もかなりインパクトがありましたね。
山下:本当にサプライズ披露で、ドーンと曲を歌わせていただきました。ステージに立つ前は、佳村はるかさん、金子真由美さんと、「どんな反応が来るのかなあ」「こうすればワクワクしてもらえるんじゃないかな?」って、何度も話し合って。そのアイディアをスタッフさんに伝えて、叶えてもらいました。『Comical Pops!』の衣装って、大きな赤いリボンがついてたり、コミカルな衣装が多いんですけど、“Gossip Club”はセクシーギャルズとして歌うものなので、「ちょっとセクシー要素が欲しいね」ってなって。衣装さんに相談して、赤いリボンをレースの黒いリボンに変えてもらったり、レースの黒の手袋をしたり、3人で話し合いながら作っていきました。
――今の話はすごく『シンデレラガールズ』らしいエピソードだな、と思うんですよ。言ったら、1曲歌うのって3~4分の話じゃないですか。だけど、そのために懸けているパワーとか、熱量がすさまじい。考えて、実行に移して、しっかり成し遂げるサイクルが、『シンデレラガールズ』らしさですよね。
山下:本当にそうです。衣装も、共通衣装だけど、アイドルそれぞれに合った装飾品がプラスでついていたりして。それも衣装さんからの提案だったり、キャストからの「これが欲しい」っていう希望から用意してもらったものがたくさんちりばめられていて。共通の衣装なのに、個性にあふれた衣装になるのは、見ていてすごいなあって毎回思います。みんなが全力で作ってるのが、『シンデレラガールズ』っていう感じですよね。ステージも、それぞれが自分の武器とアイドルと一緒に立っていて、個性を全開で発揮して、それが集まったライブになるのが『シンデレラガールズ』のすごいところだし、たくさん人数がいてもまとまりがあるのもすごいなあって思います。
――『シンデレラガールズ』は、今年で8周年になります。『シンデレラガールズ』に関わる前と、実際に関わるようになってから感じていることについて教えてもらえますか。
山下:関わる前は、ものすごく盛り上がってる作品という印象でした。中に入ると、その盛り上がりに対して納得するほどの制作陣の皆さんの愛が詰まっていて。だからこんなにみんなに愛されてる作品なんだなあと。これだけのスタッフとキャストの愛があって、大事に作ってるからこそ、今の『シンデレラガールズ』があるんだなあって――日々、納得の連続です(笑)。みんながこだわってるし、雰囲気で作ってるものがないんですよ。
――いきなりパワーワードが出ましたね(笑)。「雰囲気で作ってるものがない」。
山下:(笑)本当にないんです。「なんとなく」がひとつもないなあって思います。
――象徴的なのは、山下さんはさっき「プロデューサーちゃん」っていう言葉を使ってたじゃないですか。これって、大槻唯の言葉遣いですよね。自然と出てくるというか、染みついてるわけで。
山下:染みついてる(笑)。でも、そうですね。自分も、その空間に染まってるんだと思います。いつの間にかそうなっていました(笑)。『シンデレラガールズ』は作品も、立つステージも大きいから、挑戦の連続だったんですけど、これだけの挑戦ができるのもみんなの愛があるからなんだなあと、毎回実感しながらやってます。あとは、やっぱり唯ちゃんと、唯ちゃんを応援してくれるみんなに、何かを届けられるようにいつも頑張っています。
――大槻唯との出会いについて、最初に感じた印象と、3年間一緒にやってきて見え方が変わった部分について話してもらえますか。
山下:唯は、最初はやっぱりギャル――まあ、今もギャルなんですけど(笑)、もっと砕けたというか、軽いノリのギャルなのかなって最初は思っていました。でも実はそうではなくて、けっこう空気を読むし、まわりを見られる子だし、最近は彼女自身すごく努力できる女の子になってるなって、セリフから感じています。唯のソロ2曲目の“サニードロップ”に、《ドリョクは見せず ミリョクで魅せたい》っていう歌詞があるんですけど、本当に今の唯にピッタリなフレーズだと思っていて。基本はギャルで、あっけらかんと軽いノリでしゃべったりもするんですけど、実はその裏でけっこう努力をしている印象があります。あと、ちょっと大人になったなって思います。
――大槻唯の場合、パッと見の印象は内側から明るさが出てくる感じの人に見えるんですけど、演じることって、自分とは違う人を表現することじゃないですか。ここまで明るい人を演じることは、逆に難しいことのように見えたりもするんですけど、最初に話してくれた「心の底から弾ける」っていうモチベーションも、大槻唯と長く向き合ってきたからこそ出てくる発想なんじゃないですか。
山下:そうですね。まさに、その明るい人を演じるにあたって自分の中で考えたときに、やっぱり唯は固い人間じゃないなってまず思ったんです。私自身は、何事もひとつひとつ考え込みがちなので、肩の力を抜いて砕けた状態で唯になるのが基本なんですけど、それが難しい時期もありました。今でも、肩の力を抜くことって一番難しいなって思います。そこが唯と向き合う上で一番大事なんですけど、一番難しくもあって、3年間ずっと自分の中で課題として持っています。今は、ようやく『シンデレラガールズ』としてお仕事をするときに、肩の力がだいぶ抜けるようになってきました。力を抜こうとしなくても、抜けるようになってきた、というか。
――何がそこに導いてくれたんでしょうね。
山下:なんだろう……、やっぱり唯のこともすごくよくわかってきたし、プロデューサーちゃんが唯のことをたくさん応援してくれてるのをステージから見てこられたので、それも大きいと思います。いただいたお手紙を読んだりすることで、大きいステージも怖くなくなったところはありますね。最初はもう、目の前に広がってる景色とかプロデューサーちゃんの人数が大きすぎて緊張してたんですけど、今はそれがホッとする感覚に変わってきました。セリフを収録するときも、その景色を思い出せるんですよね。それが、すごく助けになっています。
――セリフ収録のときも応援してくれる人たちの姿が浮かぶって、だいぶエモい話ですね(笑)。
山下:(笑)自分の中では自然なことだったけど、確かにそうかもしれないです。自分が実際に見たプロデューサーちゃんの表情とか、会場の雰囲気を思い出すと、自然にできるようになりました。
――幕張のステージで山下さんを観ていて、自分だけじゃなくてまわりの人も明るくするようなパフォーマンスをする人だなあって思ったんですよ。皆さん、共通してるのはプロデューサーさんに喜んでもらうために頑張っている、ということだと思うんですけど、山下さんの場合、アイドルとしてステージに立って歌ったり踊ったりすることがものすごく楽しいんだな、という印象があって。「これって何なんだろう?」と思ったんです。
山下:なんだろう? 昔から歌うことが好きだったので、それもすごく大きいとは思うんですけど、やっぱり『シンデレラガールズ』はステージが大きいし、衣装もかわいいし、そういう夢のような世界の中にいられてることと、他のキャストさんの熱も感じられるのが幸せで、たぶんそういう感情が出てるのかな、と思います。普段の私はけっこうポーカーフェイスなんですけど(笑)。
――そうなんですか? 話していて、全然そういう感じしないけど(笑)。
山下:本当ですか(笑)? 自分は、決して明るい人間ではないと思うんですよね。前にグイグイ出ていくタイプでもないし。だから、唯のキャラクター性に引っ張ってもらってるんだと思います。
――大槻唯のキャラクター性は、『シンデレラガールズ』の他のアイドルと同じようにある意味はっきりしていて、プロデューサーさんにもある程度共通したイメージがあると思うんですけど、演じている本人にしかわからない彼女のよさって、どういうところだと思います?
山下:自分が置かれてる環境を冷静に見ているところが、私は大好きです。たとえばセリフの中で、自分の置かれてる環境や、まわりの方に支えられているから自分はここにいる、ということをちゃんと理解してるんですね。そうやって冷静に見ているところが、最初は意外に思って。でも、自分の立場を冷静に見てるからこそ、他のアイドルたちや誰とでも距離を縮められるのだと気がつきました。テンションだけで仲よくなりにいってるだけじゃないんですよね。何も考えずにしゃべってるってわけではないんだなってすごく感じるので、そういうところが好きですね。ギャルなだけじゃないぞっていう。
今って、唯に真剣になってもらうタイミングだと思う
――山下さんの中で、個人的に思い入れの強い楽曲とその理由を教えてください。
山下:“Radio Happy”は、やっぱりすごく思い入れがありますね。ソロ2曲目の“サニードロップ”ができたので、だからこそ“Radio Happy”を披露する機会をもっと大事に――と“サニードロップ”を意識すると、自分の中で“Radio Happy”の重みが増しちゃって(笑)。だから、幕張でセンターステージから披露した“Radio Happy”は、ひとつの集大成を見せたいという気持ちが、自分の中でありました。
――その気持ちで歌った“Radio Happy”はどうでしたか。
山下:「やり切った~!」っていう感じでした(笑)。すごくプロデューサーちゃんに好感を抱いていただいた楽曲なので、披露するたびにプレッシャーも大きかったんですけど、今回は自分の中でもちょっと余裕を持ってできたし、ダンサーさんと絡んでみる新しい試みもあったし。まだまだ“Radio Happy”を披露する機会もあると思いますが、自分の中での集大成を作り上げられたなあって思いながら、本番のステージを降りました(笑)。
――(笑)山下さんは、11月のナゴヤドームも出演するんですよね。『Comical Pops!』では「120パーセント弾ける」「“Radio Happy”の集大成を見せる」という、ふたつの目標を持ってステージに立って、見事それをやり切ったわけですけど、名古屋公演にはどんな気持ちで臨みますか。
山下:けっこう、攻めの姿勢でいきたいなって思ってます。やっぱり、『Funky Dancing!』だから(笑)。『Comical Pops!』は笑顔ではっちゃける、明るさ満開の感じだったんですけど、唯もだんだん“Gossip Club”や“サニードロップ”で、今までとは違う、少し落ち着きがある感じを見せているので。今までが昼の大槻唯だったとしたら、ちょっと夜の大槻唯を見せ始めてるので、そういう唯を出したいです(笑)。幕張では「ザ・大槻唯」、名古屋では「夜の大槻唯」を見せていこうかな、と思います。今って、唯に真剣になってもらうタイミングだと思うんですよ。
――真剣になってもらう。また力強い言葉が出た(笑)。
山下:(笑)唯って、明るいじゃないですか。すごく明るいから、守ってあげたくなる感じというよりは、その明るさにみんなが寄ってきてくれるような存在だと思うんですけど、最近は落ち着いた面も見せてるし、ちょっとセクシーな唯も出てきて。だから、本当の意味でプロデューサーちゃんをドキッとさせる、というか。今までは、小悪魔的にいじってくる唯だったけど、ドキッと、心臓をつかむ唯、みたいな。そういう意味で、唯に真剣になってもらうタイミングだと思います。今までとは違う唯の成長を感じ取っているので、そんな唯を出していきたいです。
――集大成を見せたからこそ進める、次のステージですね。
山下:はい。今、こうして話していても改めて実感します。
――では、これまでの時間をともに歩んできて、これからも一緒に歩いていく大槻唯に、今かけたい言葉は何ですか。
山下:「次のステージが来たね」って言いたいです(笑)。今までも、唯といろいろなことを乗り越えてきたんですけど、ソロの2曲目ができて、唯も新しい一面を見せてきたので、また新たな目標ができて、「次のステージがもう目の前にある!」という感じです。『Comical Pops!』で、みんなを明るくして自分もはっちゃけることができたので、私も次の目標に行きたいなって思います。
取材・文=清水大輔