8周年の『アイドルマスター シンデレラガールズ』、それぞれの想い⑧(クリエイター対談):TAKU INOUE×田中秀和インタビュー

アニメ

公開日:2019/11/11

『アイドルマスター シンデレラガールズ』のプロジェクトが始動したのは、2011年。今年でまる8年を迎える『シンデレラガールズ』は現在、東名阪の3都市で「Comical Pops!」「Funky Dancing!」「Growing Rock!」と異なるテーマを掲げたツアーを行っているが、これまで以上に『シンデレラガールズ』の楽曲が持つ普遍性と強度を実感させてくれるライブになっている。聴く者の心を動かす、ポップで、音楽的な探求心がちりばめられた楽曲たちは、どのように生み出されているのか。『シンデレラガールズ』の最初期から関わり続けているふたりのクリエイター、TAKU INOUE×田中秀和に話を聞かせてもらった。

アイドルに紐づいている曲だと、下手すると飯が食えなくなるくらい緊張する(TAKU INOUE)

――『アイドルマスター シンデレラガールズ』が始まってから8年になるわけですけど、プロジェクト全体に対してどんな印象を感じていますか。

TAKU INOUE(以下、井上):立ち上げからずっと見てますけど、テンションが落ちないですね(笑)。それがすごいなあ、と思います。

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田中:むしろ、どんどん熱量も上がってるし、規模も大きくなっていて。アニメも放送されて、その後もライブイベントはあるし、楽曲もどんどん出てくるし、新しいファンの方も増えた印象です。

――今年は、幕張・名古屋・大阪の公演をそれぞれ異なるテーマで行う試みですけど、これって象徴的なことだな、と思っていて。3つのコンセプトを立てられるくらい、『シンデレラガールズ』の楽曲には幅があるし、懐が深いということなんですよね。

田中:幕張が『Comical Pops!』と、あとふたつは『F』と『G』から始まるんですよね。

井上:『Funky Dancing!』と、『Glowing Rock!』。

田中:これって、明らかに音楽をテーマにしてるじゃないですか。『C』『F』『G』っていう3コードを頭文字にしてるんですよね。特に今回は、音楽の強さを前面に押したライブだと思うんです。

井上:今回、すごくチャレンジングなライブらしいです。

田中:音楽寄りになっていくことで、むしろ新しい面白さが生まれるんじゃないかなって思います。

――イノタクさんは、名古屋公演の『Funky Dancing!』のテーマソング“ミラーボール・ラブ”の作曲を担当されているんですよね。

井上:そうですね。今の時点ではまだ解禁前なので、めちゃくちゃドキドキしてます。いつもそうなんですけど、曲が出る前はやっぱり緊張しますね。テーマが『Funky Dancing!』ということだったので、「ダンスミュージックがいいだろうな」って思いつつ、柏谷さん(柏谷智浩。日本コロムビアの担当ディレクター)からは明るいパーティーチューンを、というオーダーだったので、それを意識して、とにかくみんなで歌って踊れるような感じになればいいなあ、と思いながら作りました。

田中:めっちゃ早く聴きたいです。

井上:最近、すかした曲を作ることが多かったんですけど(笑)、久しぶりに“Radio Happy”系の明るい曲を作りましたね。

――曲が出る前は緊張する、というお話は、昨年のスタッフさん対談でも出ていたんですけど、その話をちょっと詳しく聞きたいです。

田中:詳しくですか(笑)。

井上:(笑)自分は、特に、アイドルに紐づいている曲だと、下手すると飯が食えなくなるくらい緊張しますね。やっぱりその子への思い入れがあるプロデューサーの皆さんがたくさんいるので、その方たちがどういう反応になるのかを考えると、かなりナーバスになるし、気になります。

――仕上がった曲に自信がない、というわけではないんですよね。

井上:でも、僕はいつも自信ないですね(笑)。作ってるときは、めちゃくちゃ自信あるんですよ。で、TD(トラックダウン)が終わって完パケして、音をいじれなくなった途端に、「ああすればよかった」「こうすればよかった」がものすごく出てきますね。だから、「聴け!」みたいなテンションにはなれない、というか(笑)。「これは神曲だろう」と思いながらいつも出すんですけど、いじれなくなると「ああ~!」みたいな。そういうこと、あんまりない?

田中:いや、僕もあります。ミックスが終わった後、自分の環境で聴いてみるといろいろ思ったりはしますね。でも、イノタクさんみたいに、飯が食えなくなったことはないです(笑)。

井上:(笑)“クレイジークレイジー”のときとか、けっこうキツかったよ。

田中:いやいや! あれはもう、最高の曲じゃないですか。

井上:人気ユニットだし、「楽曲的に攻めたな」みたいな曲の後は、胃の痛さが増しますね。

田中:確かに、“クレイジークレイジー”はバチバチに攻めてましたからね。

――それこそおふたりは、『シンデレラガールズ』が始まった直後から関わってきて、何度も曲を完成させてきているじゃないですか。でも、何回繰り返しても、やっぱり不安は残る、と。

井上:僕は、常にそうです(笑)。性格もあると思いますけど。

田中:さっきイノタクさんがおっしゃった、特にアイドルに紐づいたソロ曲で、しかも2曲目だったりすると、作るのが大変だし、リリース前に緊張もしますよね。「どう受け取られるかな?」って思いますし、自分の曲の完成度云々よりも、やっぱりこれまでそのアイドルを応援してきたファンの方がいらっしゃるので。反応は予測できないし、正解がないので、そういう意味では一生緊張はすると思います。

――たとえばイノタクさんの“クレイジークレイジー”はまさにそうだし、田中さんの“スローライフ・ファンタジー”とかも最高の楽曲だし、それこそバチバチに攻めてるじゃないですか。面白いのは、音楽的にチャレンジをする、それがどう届くのか気になる、でも攻めるのはやめないっていうことで。

井上:確かに、そうっすね(笑)。なんなんでしょうね。

――たぶん、アイドルの姿形やイメージがあって、それに沿うものを作ることって、おふたりの場合技術的にはできるんだろうなあ、と想像するんですけど、あえてそうしない部分もあるでしょうし、「新しい一面を見せてください」みたいなディレクションもあるでしょうし。その中で、攻めすぎてよくわからないものになってしまっては本末転倒だから、その間を取る感じなんでしょうか。

井上:うん、そうですね。

――ただ、間を取るといっても、それは消極的な選択ではなく、ものすごくアグレッシブにやった結果なのかな、と思うんですけども。

井上:まず“クレイジークレイジー”は、レイジー・レイジーという人気ユニットのオファーだったので、ありがたいなあ、と思ってバッと受けたんですけど、「なんて大それた仕事を受けてしまったんだろう」って思いましたね(笑)。僕に来るオーダーって、あまり細かい指示がないんですよ。“クレイジークレイジー”の場合、大人っぽい感じで、ちょっと女性受けもする、くらいしか言われなくて。で、「いい曲だなあ」と思いながら作ってたんですけど、こんなアイドルソング、ないじゃないですか(笑)。僕の場合、オーダーは常にファジーで、そこにやり甲斐もある、とも言えるんですけど。

田中:イノタクさんの場合は、半分プロデューサー、ディレクター的なところから始められてると思うんですね。まず、どういう方向で曲作っていくか、みたいなところから曲を作っていく。それで作詞もされるので、めちゃくちゃ楽曲が強くなると思うんです。詞も曲もアレンジもしているから、ブレないというか。そこがパチッと当てはまった曲が、“クレイジークレイジー”なんだと思います。

井上:“スローライフ・ファンタジー”は、指定はあったんですか。

田中:いや、僕のときもなかったんですけど、もう自分はそこでどういう曲を書けばいいか、ほんとにわからなくなってしまって。

井上:そもそも1曲目が“あんずのうた”だからね(笑)。

田中:(笑)そうそう。最初にデモを作って提出した曲は、“スローライフ・ファンタジー”とは全然違う感じの曲だったんです。で、「そうじゃない」と。それで、作詞の八城雄太さんと僕と柏谷さんで会議をしたんですけど、そこでやっと方向性が見えて。1曲目の“あんずのうた”は、杏の個性がすごく強い分、それをぶつけにいった曲だと思うんですよ。でも2曲目の“スローライフ・ファンタジー”は、アイドルとしてではなく、もっと素の部分を出せる曲をプロデューサーが提供するとしたら、どんな曲になるかな?っていう視点で作っていて。ちょっとメタな視点を入れて、詞の世界観と曲の世界観をなんとなく一致させたあとに、いちから曲を作り始めて。そういう意味では、ブレを少なくしていきながら作っていけた曲だと思います。