8周年の『アイドルマスター シンデレラガールズ』、それぞれの想い⑧(クリエイター対談):TAKU INOUE×田中秀和インタビュー
公開日:2019/11/11
『シンデレラガールズ』の曲を書くことって、プレッシャーが大きいんです。でも、その部分が曲に対する熱量になってる部分は大きい気がする(田中)
――前回特集のスタッフ対談で、「このアイドルの曲が来たらやらせてくださいって言ってくる作家さんがけっこういる」というお話があったんですけど、おふたりは何かありますか。
井上:僕はずっと、「ナターリアの曲を作らせろ」と言ってます(笑)。これを数年間言い続けて。最近ボイスがついたので、もう、今か今かと待っているところです(笑)。
――(笑)そこまでナターリアの曲を書きたい理由とは?
井上:僕、大学のときにずっとポルトガル語をやってたので、まずはそこで興味を持ったんですけど、普通にナターリアがかわいいな、と。普通にファンです(笑)。
田中:(笑)僕は、それこそ杏の2曲目の“スローライフ・ファンタジー”がまさにそれだったんです。森由里子先生との対談で、なんかポロッと言っちゃったみたいで(笑)。そこで言質を取られていて、何年か越しで「あのとき言ったよね」みたいな感じで、僕が書かせていただくことになりました。
井上:なんか、ポロッと言っちゃうと、実現するんですよね。
田中:そうなんです。柏谷さんも、そういう作家はモチベーションが高いだろうから、その人に書かせようっていう方針はあるみたいですね。
――その中で、いわゆる器用にこなしてやっつけました、みたいな曲が一切ないのが、『シンデレラガールズ』楽曲の特徴だと聞いてます。
井上:それはありますね。そこは本当に、すごいところだなあ、と思います。やっぱり、プロデューサーの方の反応がめちゃくちゃよくて、「こんなに細かいところまで聴いてくれてるの?」って思うんですよね。サウンド面も、歌詞もそうなんですけど、読み解いてくださる方が多いので、楽しいですね。ちゃんと曲に入れ込めば、反応があるので、そういう意味でモチベーションは上げやすいです。
田中:『シンデレラガールズ』の曲を書くことって、プレッシャーが大きいんですよ。『シンデレラガールズ』が始まる前から『アイドルマスター』は続いていて、古くからのファンの方もいらっしゃるし、それこそ自分が曲を書く仕事を始める前から続いているコンテンツの楽曲に参加する、その列に自分も並ぶこと自体にプレッシャーがあるんですけど、その部分が曲に対する熱量になってる部分は大きい気がしますね。プロデューサーの方の反応も――実際に「この曲イヤだ」って反応をされたことはないですけど(笑)、みんながすごく温かく迎えてくれますし。
――おふたりは『シンデレラガールズ』の楽曲で成功体験を積み重ねているし、それこそプロデューサーさんからは絶大な信頼を持って迎えられているわけですよね。
井上:それを裏切りたくない気持ちもあります(笑)。
田中:そう、それもそこそこのプレッシャーです(笑)。
――(笑)おふたりに安心しないでいてもらったほうが、聴き手としては面白いことになりそうですね。
田中:もちろんです。
井上:柏谷さん的にもそういう感じはあるらしくて、だから「今までと同じ感じの曲で」みたいなオーダーは来ないんでしょうね。
田中:確かに。
井上:わりと新しい感じをやらせようとしてくるので、そこも面白いのかもしれないです。
――とはいえ、今まで作った曲の中で手応えを感じている曲もあるんじゃないですか。
井上:そういう意味では、“Hotel Moonside”はだいぶチャレンジしたつもりだったんですけど、ちゃんとみんなが受け入れてくれてよかったです。『シンデレラガールズ』にはそれまでになかったジャンルだと思うんですけど、なんとかアイドルソングとして成立させられた手応えはあります。
田中:ライブでもめっちゃ盛り上がりますもんね。曲を作るとき、ライブは意識するんですか?
井上:やっぱり、最近は特にしますね。
田中:曲のジャンルの特性かもしれないんですけど、この間DJをやらせていただいたときに、いろんな曲をつないでかけたんですけど、イノタクさんの曲ってめちゃくちゃつなぎやすいんですよ。これって、現場を意識して作ったからなのか――。
井上:うん、それは現場を意識して作ってると思う。
田中:そっかあ。そのつなぎやすさって、ライブでもぐわ~って期待させられる部分だと思っていて。ジワジワと上げていく感じ、普通の歌ものにはない展開をして。「なんだなんだ?」って思ってるうちに歌が入ってきて、サビではみんなで盛り上がれる、高まる感じがある曲ですよね。
井上:ありがとうございます(笑)。
田中:自分の曲は、そうだな――“イリュージョニスタ!”かな。すごくたくさん楽器を録らせていただいてるんですけど。
井上:そう、「金かかってんなあ」みたいな(笑)。めちゃくちゃいい曲だよね。
田中:アレンジ的にも自分が挑戦したことのなかったジャンルだったし、楽曲としてもいいものができたなって思います。ライブで披露されたときも、プロデューサーの方の反応を目の当たりにしつつ、大きな会場で鳴ってる感じも気持ちよかったので、“イリュージョニスタ!”は手応えがあります。
――曲に対するリアクションで、特に印象的だった反応ってありますか。
井上:自分は、「『アイマス』でイノタクさんのEDM的な曲を聴いて、クラブに行くようになりました」みたいな人を何人か知ってるんですけど、新たな人生の楽しみの手助けができたと思うと、嬉しかったですね。「最近、クラブ行くようになっちゃって」「ハードコア聴くようになっちゃって」って言われたりすると、嬉しいです。
田中:僕は、“いとしーさー♡”ですね。イントロの楽器だけの部分を耳コピして、ここの三線のメロディがこうで、後ろで鳴ってる和音がこうなっていて、みたいな専門的な考察を――僕自身はそこまで考えてないんですけど(笑)、作った自分以上に音楽的な考察をしてくれる方がいて、音楽に対してすごく熱心なプロデューサーさんが多いんだろうなあって思ったりします。
一回、共作したいですね。作曲は田中くん、編曲は自分、で(井上)
それ、僕が一番やりたいスタイルですね。嬉しいなあ(田中)
――では、お互いに作った曲を聴いて、「これはすげーな」って思った曲は何ですか?
田中:僕は、イノタクさんの曲は全部すごいと思ってます。ほんとに、これはもうおべっかでもなんでもなくて、そう思ってます。舞浜アンフィシアターのライブで“Romantic Now”を聴いたときに、めちゃくちゃ衝撃を受けたんですよ。ドラムンベースっぽい部分と、幼いアイドルの子が歌うかわいらしさが、ちゃんと同居していたんです。そういうことをやろうとしても、なかなかバランスが取れないんですよね。アイドルを引きずりすぎちゃうと、クラブミュージック的には全然カッコよくならなかったり、逆にクラブミュージックに寄りすぎると、アイドルとの親和性が取れなかったり。“Romantic Now”だけでなく、そのバランスの取り方に驚きます。“クレイジークレイジー”にしても、「こんなジャンルもやるんだ?」みたいな感じですけど、あれはジャージークラブを意識してるんですか。
井上:実はそんなに意識してなくて。サビでガチッとテンポを落とす感じが、構想としてあって。
田中:サビでテンポを落とす感じ、イノタクさんはめっちゃやりますよね。
井上:そうそう、あれ好きなんだよ(笑)。
田中:765の曲になりますけど、“Pon De Beach”もそうですよね。どこかでお会いしたときに、「あの曲、ハンパなくて」みたいな話をした記憶があります。サビで半分のテンポになる、みたいなノリ方は、むしろクラブミュージック的な感じなんですか。
井上:今のクラブミュージックのトレンドには多いよね。
田中:その大本になってるのって、バンド的なリズムの取り方だったりするじゃないですか。今流行ってるから、ではなくて、もともとの音楽体験としてイノタクさんはその感覚を持ってる人なんですよ。いろんな音楽を知ってる方なんだろうし、だからバランスが取れるんだろうなあって思いますね。クラブミュージックに詳しいだけだと、絶対にバランスが取れないんですよね――イノタクさんのすごさは、ざっくり言うと、そんな感じです。
井上:全然ざっくりじゃなかったけど、ありがとう(笑)。でも、『シンデレラ』もそうだし、765もそうなんですけど、キャストの方が歌うと、ちゃんと『アイマス』の曲、『シンデレラ』の曲になるので。音楽的にはある程度攻めきっても、そこでグッと戻してくれる、というか。そういう安心感があるので、コンテンツが培ってきた雰囲気はデカい気がします。田中くんの曲だと、僕がずーっと言い続けてるのは、“ススメ☆オトメ(~jewel parade~)”が、とにかくすげえな、と。
田中:何年も前から、ずっと言ってくださってるんです(笑)。
井上:田中くんの曲は、ガワはものすごくポップなのに、顕微鏡で見てみるとトリッキーな作りになってる感じがあるんですよ。トリッキーなのにそう見えない、見せないのがすごいなあって思っていて。で、それが最初に極まったのは“ススメ☆オトメ”ですね。「めちゃくちゃいい曲だけど、このコード進行ヤベえな」みたいになる、そこが好きですね。とか、テーマソング的な“Star!!”だったり、劇中の大事な曲である“M@GIC☆”もそうですけど、内容としてはけっこうハチャメチャやってるのに(笑)、聴いたときの印象がものすごくアイドルポップスになってるから、「これ、どうやってるんだろうなあ」と思ったりしますね。
田中:曲を作るときに、ここでこうやって和声が動いて、メロディはこういう動きになったら自分がこういう気持ちになる――これって言語化できないんですけど、音が動いたときに、自分の心はこう動く、というのは、大前提としてあります。“ススメ☆オトメ”も、「ここで、リスナーの人の心をこう動かしたい、だからこういうコードにします」っていう答えになるんです。
井上:なるほど。エモーショナルな心の動きをさせたいから、そうなるっていう。
田中:そうですね。
――では他の作家さんの曲を聴いて、「いやあ、これはやられたなあ」と感じた曲は?
井上:いっぱいありますよね。僕は、トリ音さんの曲がすごく好きです。
田中:めちゃくちゃいいですよね。
井上:『シンデレラガールズ』の中から1曲選ぶなら、“ましゅまろ☆キッス”を挙げますね。普通にアイドルソングを書いてって言われて、こういう曲は出てこないわって思うし。でも、それは逸脱してる感じではなくて、「そうだ。このアイドルだったらそうだよな」っていう納得感もすごくあるんですよね。
田中:トリ音さん、すごいですよね。僕は、「やられた!」っていう感覚で言うと、同じMONACAに所属している広川恵一くんの“Dreaming of you”です。もう、嫉妬しちゃうくらいカッコよくて。
井上:あれも、めちゃくちゃよかったね。シティポップ的な感じで、カッコいい。
田中:彼のルーツにはアシッド・ジャズ的なものがあるんですけど。アシッド・ジャズとシティポップのバランスの取り方がいいですね。広川くんが好きにやった結果、ちゃんとポップな範囲に収まっていて、ライブで聴いたときもカッコよかったです。他にも好きな曲はいっぱいあって、イノタクさんの曲は全部に「やられた」って思います(笑)。僕の中にも、「イノタクさんは次どんな曲書いてくるんだろう?」っていう期待値があるんですよ。
――では、純粋に音楽的に好きな楽曲は?
井上:滝澤(俊輔)くんの曲も、ものすごくポップでいいですよね。“はにかみdays”“Shine!!”とかもそうですけど、田中くんと双璧というか、わりと主題歌系でガツンとドストレートに殴ってくる感じのポップスを書いてきますよね。でも、田中くんとは全然違う感じで、なんかこう、映画っぽさがあるというか。
田中:メロディがめちゃくちゃいいですよね。
井上:そうそう。単純にメロが超いいという感じ。
田中:僕も好きな曲はいっぱいあるんですけど、イノタクさんの曲を除くと、“秘密のトワレ”は大好きです。僕、ただのササキトモコさんのファンです(笑)。
井上:(笑)わかる。“秘密のトワレ”は素晴らしい。
田中:もう、好きとしか言いようがない(笑)。
――前回の特集のインタビューで、「普遍性」という言葉をテーマにしたんです。『シンデレラガールズ』の楽曲は、何年経って同じ曲を聴いても、全然錆びついていない感じがあって。『シンデレラガールズ』の音楽が、時間が経っても輝きを損なわない理由って、おふたりはなんだと思いますか。
井上:やっぱり、コンテンツの熱量は大きいと思います。8年間続くゲームだけあって、常にみんながテンション高く聴いてくれるし、たとえば8年前の曲だとしても、時間を積み重ねた上でもう一回聴いてみると、発見もあるだろうし。
田中:別のエモさも生まれてきますよね。コンテンツが今もめちゃくちゃに生きてるから、楽曲の熱量とか輝きも、失われないどころか、いろんな側面をどんどん持っていくし。それが、大きいような気がします。音楽に普遍性を持たせたいっていう思いはもちろんありますし、そうありたいって常に思ってるんですけど、今の輝きは、プロデューサーの皆さんが培い続けてきたものなんだろうなって思います。
――『シンデレラガールズ』で音楽制作を担当した経験が、作曲者としてのご自身に与えた影響ってなんだと思いますか?
井上:僕はもう確実に、出世作が『シンデレラガールズ』の曲なので、ものすごく感謝してます。作曲家として認知してもらえたのが“Hotel Moonside”だったり、『シンデレラガールズ』の曲なので。このご恩は一生かけて返します(笑)。
田中:(笑)自分も、影響は計り知れないですね。長く携わらせていただいてて、作家としてチャレンジングなことを常に要求される分、すごく成長させていただいたところはあると思います。TVアニメの劇伴も担当させていただいたんですけど、それまでひとりで劇伴を作ったことがなかったんです。僕は、わりと歌ものの人間という意識もあって。でも、そこでチャンスを与えていただいたことで、作家人生の中でも大きな経験になりました。自分も、一生かけて返していかないといけないと思いますし(笑)、よりよいものを提供することで、少しでもプロジェクトに還元したいな思いが強いです。
――わかりました。では最後に、お互いへのメッセージをお願いします。
井上:俺、一回共作したいですね。
田中:マジですか? また柏谷さんに言質取られちゃいますよ(笑)。
井上:(笑)共同作曲は、スタイル的には厳しいと思うんですよ。作曲は田中くん、編曲は自分、でやってみたいかな。
田中:それ、僕が一番やりたいスタイルですね。嬉しいなあ。僕は、常にイノタクさんの次回作に期待しているので(笑)。もう、ただのいちファンですよね。好きなバンドやアーティストの新しいリリースが、曲のタイトルだけ出ていて、「どんな曲なんだろう?」ってワクワクしたりするじゃないですか。なので、これからもいい曲を書き続けてくれたら嬉しいなって思います。
井上:ありがとうございます(笑)。
取材・文=清水大輔