【人付き合いに悩んだとき】『日本人のすごい名言』③藤子・F・不二雄「いじわるされるたびに しんせつにしてやったらどうだろう。」
公開日:2019/11/10
本質的な内容を持つ名言だけを齋藤孝先生が厳選!SNSのようにスーッと流れて消えてしまわないように、その名言の持つストーリーや、行間に込められた想い、そして「使い方」までしっかり紹介!
名言は心の砦とりでになります。雪崩れのように心が崩壊するのを食い止め、漏電のように常にエネルギーが消耗されていくのを防ぎます。
「はじめに」より
人付き合いに悩んだとき
藤子・F・不二雄「いじわるされるたびに しんせつにしてやったらどうだろう。」名言年齢:43歳
『ドラえもん』第11巻(藤子・F・不二雄・著 小学館)所収
「ジャイアン心の友」より
※名言が発表された年を「生まれた」年として、2019年現在何歳になるのかを示しています。
心優しいいじめられっ子、のび太のモデルは藤子・F・不二雄自身であるようです。
子どものころは一言で言うと、のび太の生活でした。どの教室にもボスがいて、ドンケツがいる。僕はそのドンケツ。(中略)
ドラえもんみたいにイジメっ子をギャフンと言わせるものが、ポケットから出てきたらいいなと思ってましたけどね。
(『藤子・F・不二雄の発想術』ドラえもんルーム・編 小学館新書)
のび太くんが、ジャイアンにいじめられてドラえもんに助けを求めるのは定番の流れですが、あるときドラえもんはこう言います。
「いじわるされるたびに しんせつにしてやったらどうだろう。」
のび太くんは「そんなばかな。」と驚きますが、ドラえもんは、仕返ししてもまた仕返しされるだけできりがないから、逆に親切にしたほうが心が通じて意地悪されなくなると考えたのです。そこでのび太くんは、歌うのが好きなジャイアンのために、レコードを作ることができる道具を貸してあげます。ジャイアン大感激。涙を流して「今からおまえは、おれの親友だ! 心の友だ!」と言って、いじめるのをやめます。
■「感じの悪い人」に出会ったら、人付き合いを学ぶチャンス
暴力に対して暴力で返す、仕返しするというのではなく、逆に優しくすると相手は「あれっ」となる。風向きが変わって関係も変化していくというのは確かにあります。
たとえば職場でも、嫌みを言いがちな人など感じの悪い人の一人や2人はいるものです。嫌なことを言われて、「悔しい~! そっちがそうなら、こっちだって!」と感じ悪く振る舞うのでは、関係は固定したままです。それなら、「いじわるされるたびに、しんせつにしてやったらどうだろう」の精神で、「素敵なお洋服ですね」と褒めてみたり、缶コーヒーやお菓子を持っていってみる。その人が得意なことを教えてもらう、アドバイスをもらうなんていうのもいいですね。誰しも、親切にしてくれる人、自分を頼って相談に来る人のことを悪くは思えないものです。だから、感じの悪い人がいたら、人付き合いのコツを学ぶチャンスだと思って積極的に関わってみてほしいと思います。
私も若い頃にはよく失敗をしました。感じの悪い先生に対し、感じ悪く振る舞ってしまいました。その結果、最悪な状態になりました。こういった経験から学び、いまでは私から見て「感じの悪い人」はほぼいなくなりました。周囲の人に「あの人は扱いづらい」「難しい人」と評されている人も、私にとってはそうでもない、むしろ仲がいいということが増えていったのです。そのポイントは、「相手が感じが悪いならこっちだって」というような考えをやめること。そして、相手が楽しくなったり嬉しくなったりする話を、雑談の中ですることです。雑談力は人間関係を良くし、意地悪を止める力にもなりますので、磨くことをおすすめします。
■キング牧師、ガンジー、ドラえもんの共通性?
親切や雑談が通じず、かなり手ごわい相手である場合、そんな甘いことでうまくいくはずがないと思う人もいるかもしれません。
新約聖書に「右の頬を打たれたら左の頬を差し出しなさい」という言葉があるのはご存じでしょう。一方で、ハンムラビ法典の「目には目を、歯には歯を」という考え方もあります。右の頬を打たれたのなら、相手の右の頬を打っておあいこにしたほうがいいのではないか、そのほうが相手の暴力はエスカレートしないのではないかというのも妥当な考え方だと思います。その場合、右の頬を打たれてさらに左の頬を差し出すというのは腑に落ちません。
米国で公民権運動のリーダーとなったキング牧師も、かつてそう考えていたことがありました。黒人が差別されていた当時、キング牧師はもちろんキリスト教を信じてはいるけれども、白人に右の頬を打たれている黒人が左の頬を差し出したって何も解決しないのではないかと思ったのです。もっともな疑問です。その疑問を解決してくれたのが、ガンジーの思想でした。
「インド独立の父」と呼ばれるガンジーは、イギリス人によるインド人差別に対して非暴力運動を起こし、平和的な手段でインドを独立へ導きました。この事実を知って、キング牧師は「これだ!」と膝を打ちます。そして同じように、暴力に訴えるのではなく平和的に黒人が公民権を獲得する流れをつくっていったのです。具体的には、バスのボイコットが始まりでした。黒人がバスの座席で差別されていたのに抗議して、団結してバスに乗らないというボイコット運動を展開していきます。そして1963年ワシントン大行進での有名なスピーチ「I have a dream」(私には夢がある)は、世界中の人々の共感を呼びました。
キング牧師は、非暴力抵抗の根底にあるのは、人間に対する愛だと言っています。やられるままにしておくわけではなく、愛をもって抵抗し、相手に理解してもらえるよう行動するのです。
実際には、相手によって対処の仕方もさまざまだと思います。単純に「親切にする」のがいいわけではない場合もあるでしょう。しかし、憎しみをもって応じれば、さらに大きな憎しみ、争いを生むのが世の常です。
「いじわるされるたびに、しんせつにしてやったらどうだろう」は、意地悪にも愛をもって応じるという発想に気づかせてくれます。
『ドラえもん』の名言をもう一つ。
名作と評判の高い25巻の「のび太の結婚前夜」の中で、しずかちゃんが、のび太くんと結婚式を挙げる前夜に「やっていけるか不安」とお父さんに話をするシーンがあります。しずかちゃんのお父さんは、「のび太くんを選んだ君の判断は正しい」として、こう言うのです。「あの青年は人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことのできる人だ。それがいちばん人間にとってだいじなことなんだからね」。
のび太くんは勉強もスポーツもできず、いじめられっ子という、一般的なヒーローとはかなり違った主人公です。しかしそんなのび太くんが主人公の漫画が、国民的な人気を誇り、愛され続ける秘密はこういうところにもあるのかもしれません。
ふじこ・えふ・ふじお●漫画家。1933生-1996没。本名藤本弘。小学校の同級生安孫子素雄と合作で藤子不二雄名義で漫画を描き始める。代表作に『ドラえもん』『パーマン』など。1987年にコンビを解消し、藤子・F・不二雄として『大長編ドラえもん』を中心に執筆活動をした。