〈ラブレターを かいてみようと おもいます。〉ヒグチユウコが愛おしく想うものたちへのラブレターをまとめた幻想的な最新絵本

文芸・カルチャー

公開日:2019/11/9

『ラブレター』(ヒグチユウコ/白泉社)

〈ラブレターを かいてみようと おもいます。〉という一文からはじまるヒグチユウコさんの最新絵本『ラブレター』(白泉社)。深紅のページを植物の額縁がかこみ、おずおずと何かを言いたげな(あるいは簡単には言わないという決意を秘めた)様子の少女が顔をのぞかせている。その見開きだけでぐっと心をつかまれ、言葉をもう一度なぞる。ラブレターをかいてみようと思います。最後にラブレターを書いたのは、書かずにおれない衝動にかられたのは、いったいいつのことだっただろう。

 あるとき友人が言った。大切なものほど小さな箱にしまって胸の奥に誰にも見せず秘めておきたい。その想いを言葉にすることも書にしたためることもあるけれど、相手に伝わらなくたって、読まれなくたって別にいい。ただ伝えたいと思った、その瞬間こそが大事なのだから、と。この絵本にも同じことが書いてあった。

とどかなくても いいんです。 とどかなくても いとしい 気持ちは なくなったりしませんから。

 いいなあ、と思う。なんて美しいんだろう。「好き」は報われてこそ成就する、というのもひとつの真実だけれども、ただ愛おしさを胸に抱いている、それだけが尊いということもある。

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 本作において、ラブレターを書く対象は、人間(異性)に限らない。優しくしてくれたあの子。毎日飼い主である“わたし”を観察するのが仕事のねこ。みんなが大好きなたまご。ゆめのなかで見た景色。幻想的な一枚絵に添えられた言葉が積み重なって、“わたし”の喜びやかなしみ、すでに出会ったものたちへの想いと、これから出会うものたちへの希望と期待が伝わってくる。

絵を描くことは とても私的なこと。描いたものたちは どんどんと わたしの中に蓄積されて 私というものをつくる。

 ごくごく私的な、誰かを想う感情も、やっぱり私たちをつくりあげていくのだと思う。報われても、報われなくても。大切な人に出会って、触れて、得たものが、はたから見てなんの意味もなさないものでも、自分だけのたからものになる。

 ヒグチさんのたからものを詰めたこの絵本の世界に触れるうち、もしかしたらこれは、ヒグチさんの作品をたからものだと思う私たちへのラブレターでもあるかもしれない、と感じる瞬間がある(おそれおおい)。違うかもしれないけれど、これほどまでに純度の高い想いに触れられて、幸せな気持ちにならない人は、いないと思う。だから読み終わったあとは、自分もラブレターを書いてみたい、と思うようになっている。相手は誰だってかまわない。投函することがなくてもいい。ただ、美しい想いで誰かとかりそめにでも触れ合うことができたら、どんなにか素敵だろうと、思う。

文=立花もも