谷崎潤一郎は奥さんを譲渡する、しないで友人ともめる/『文豪どうかしてる逸話集』⑤
公開日:2019/11/13
すぐドMな手紙を出して女性を困惑させる谷崎潤一郎。
2人目の奥さんとなる丁未子(とみこ)に宛てた手紙では、
「私の芸術は実はあなたの芸術であり、私の書くものはあなたの生命から流れ出たもので、私は単なる書記生に過ぎない。私はあなたとそういう結婚生活を営みたいのです。あなたの支配の下に立ちたいのです」
とまで書いておきながら、その丁未子に飽きて不倫していた大阪の豪商の奥さん・松子に送った手紙では、
「御寮人(ごりょうにん)様(若奥様の意)の忠僕として、もちろん私の生命、身体、家族、兄弟の収入などすべて御寮人様のご所有となし、おそばにお仕えさせていただきたくお願い申し上げます」
と完全に下僕宣言し、
「御気に召しますまで御いぢめ遊ばして下さいまし」
としたため、「従順」から1文字取って「順市」と署名した谷崎潤一郎。
さらに松子の前夫とのあいだの長男の嫁(ややこしい)の千萬子(ちまこ)には「薬師寺の仏の足の石よりもきみが刺繡の履(くつ)の下こそ」という歌を贈っている(「仏の足に踏まれるより、あなたに踏まれたい」という意味)。
実際、谷崎は千萬子に頭を足で踏んでほしいと頼んでいて、
「話をしている最中に突然、まるで五体投地のように目の前にばたっとひれ伏して、頭を踏んでくれと言われたのです」
と千萬子が書き残している。
この時、谷崎すでに70歳過ぎで、千萬子は20代。
で、そんな谷崎のあれこれを雑誌に書いた娘の鮎子(あゆこ)には「許しもなく、父のこといろいろ書かないで」と手紙を送る谷崎なのでした。
(出典) 渡辺千萬子『落花流水』