江戸川乱歩の初恋は男の子、BL作品顔負けの小説を書く/『文豪どうかしてる逸話集』⑥

文芸・カルチャー

公開日:2019/11/14

全然原稿を書かず、ただただ三味線が上手なおじさんになっていく江戸川乱歩

 長編小説の構想をまとめるのが苦手だった乱歩は、見切り発車で連載を始めては行き詰まって休載することもしばしばであった。

「東京朝日新聞」で連載していた『一寸法師』は「なんか違う。納得いかない」と休載を宣言し放浪の旅に出てしまう。

「新青年」という雑誌に連載していた『悪霊』は「犯人はこの中にいる!」まで書いたところでどうしても結末が思いつかず、麻布のホテルに滞在して続きを書こうとするも結局なにもしないで半月ほど過ごしたうえ、「探偵小説の神様に見放されました」と謝罪文を出して打ち切った。

 そんな乱歩は、「西洋にはピアノを弾きながら小説の構想を練る作家がいる」と聞いて、自分は三味線でやろうと稽古を始める。結果、三味線はめちゃくちゃ上達したものの、特に原稿は書かず、ただただ三味線が上手なおじさんになり、作家として生きた31年間のうち半分以上の17年は休筆していた。

(出典) 日本経済新聞『私の履歴書』
江戸川乱歩『探偵小説三十年』