『うまくやる』著者・熊野森人に石井ゆかりが聞いた! 人生をうまくやるために必要な「流れ」とは?【前編】
更新日:2019/11/15
何をやっても、どんなに頑張っても、うまくいかない。こんな経験、誰もが一度はしたことがあるはずだ。この度10月25日にあさ出版より発売された『うまくやる』(熊野森人)は、そんな「壁」のようなものを乗り越えるための、コミュニケーションのヒントを紹介した一冊。
人気クリエイティブディレクターであり、大学講師でもある熊野森人さんが、京都精華大学で13年ものあいだ変わることなく「勉強になるわー」と言われ続けてきた授業の、待望の書籍化だ。その発売に際し、累計120万部の『12星座シリーズ』(WAVE出版)などで大人気のライターである石井ゆかりさんが、プライベートでも親交のある熊野さんをインタビュー。二人の対話の中で見えてきた「うまくやる」ために必要なこと、それは、自分が生きていく上での「流れ」を整えることだった。
数年前、ある媒体で私にインタビューをして下さった熊野森人さんと、その後何度かお話しする機会を頂いた。
友人知人のごく少ない私だが、熊野さんは精華大でコミュニケーションを教えているだけあって、私なんぞとも簡単に親しくできるのである。ムツゴロウさんのような人なのである。
そんな熊野さんが、このたびご著書を出されるというので、僭越ながらコメントを出させて頂いた。
そのとき、今度は逆に「私がインタビュアーになってみよう」と思い立った。
拙著『選んだ理由』(ミシマ社刊)は、私が一年ちょっとかけて色々な方にインタビューをした記事を、抜粋・まとめたものである。人に話を聞くのはバリバリ緊張するが、本当に面白い。熊野さんならきっと、すごく面白いハナシをしてくれるに違いない。
しかし『選んだ理由』のもとになった「石井ゆかりの闇鍋インタビュー」は、「編集部が選んだインタビュイーに、何の前情報もなくいきなり出会って、話を聞く」というごく乱暴な企画だった。
今回はそれと違い、人となりも少しはわかっているし、本まで読んでいる。こういうインタビューってどうやるんだろう……と思ったのは、すでに企画が通った後だった(見切り発車)。
だがなにしろ、向こうはコミュニケーションのプロである。きっと何とかしてくれるに違いない。
そんな不心得な態度で、私は熊野さんの広尾のオフィスに乗り込んだのだった。
「本当に使える」というオリジナリティを大切に
石井:このたびは発のご著書『うまくやる』(あさ出版)の出版、おめでとうございます!
熊野:ありがとうございます!
石井:一般的な、いわゆる「ビジネス書」には、たいてい「最新の研究ではこういう統計がある」とか「著名人がこんなことを言っている」など、いちいち引用がたくさんあるものだと思うんですが、『うまくやる』には、1箇所くらいしかそういうのがないですね。他は熊野さんのオリジナルなのですか?
熊野:もちろん、100%オリジナルではないです、でも、一般に、いろんな人が言っていることも、100が100オリジナルかというと、そうでもないのかなと思っていて。そもそも「僕が人類で初めて、このことを言いました」みたいなことって、ないですよね。
ビジネス書でエビデンスがないのってダメなのかな、とも思いましたが、「このエライ人がこんなことを言いました」と書いたとして、その人も本当に初めてそれを言ったのかな? って、そこはわからない。それに「エライ人が言ったから正しい」ということも、言い切れない。
石井:確かに。
熊野:そのあたりも悩んだんです。「完全に自分のオリジナルとは言えないのに、こんなこと書いていいのかな?」とか。でも、たとえば音楽とかだって、同じようなラブソングをみんながいっぱい作ってます。「では、何をもってオリジナルとするのかな?」と思ったとき、「たとえ話かな」と思ったんですよね。
石井:たとえ話。
熊野:はい。自分が読んだビジネス書で、「こういうシーンでは、こういうふうにしよう!」「このアイデアは、具体的にはこう使えるぞ!」みたいな例が出てくるんですが、そういうのが「本当に使えた」ためしがないんですよね。一度も使えたことがない。
石井:はい。
熊野:この『うまくやる』は、きっとビジネス書のコーナーに置かれるんですけど、これ、ビジネス書というジャンルとは少しだけ違うという気がしたんですよ。
たとえば、やろうと思えば、エビデンスでがちっとまとめた堅いビジネス書にもできたかもしれないし、逆に「あなたは素晴らしい!!」みたいなふんわりした、自己啓発的な、心理学を突き詰めたような感じのまとめかたもあったと思います。
でも、そうではなくて、これは「ビジネスパーソン以外の人でも応用できる、引用できる」というところが、オリジナルであれば、使える本になる、と思ったんです。
石井:「こうしてみよう」というところが、本当に「できる」ということですね。
熊野:自分が読んだビジネス書にある例みたいに使えないものではなくて、「本当に使える」ところでオリジナルなんです。普段の生活の中で想像できることです。
「高級なレストランではこういうふうに振る舞いましょう」でもなく、「ヒマラヤではこんなすごいことがあるぞ」でもなく、です。読んだ人が、あくまで普段の生活の中で、「ちがう感覚」を持つことができるといいなあ、と思っています。
強いパンチラインは、悪だ!
熊野:ほとんどの「うまくいってない人」って、自分をこじらせているんですよ。昔からこうだったとか、自分はこういう性格だからとか、相手が悪いとか、そういう思い込みによって、うまく回ってない、って思い込んでる方がけっこう多くて。
そこの「強い思い込み」っていうのが、水の流れを滞らせている原因なんです。でも、それをそのまま言ってしまうと、火花が散ります。
その火花からダムがばーっと決壊して、滞っていた水が流れ出すこともないわけではないです。
でも、ほとんどの場合は、徐々に優しい言葉によって雪どけさせていかないといけない。
石井:じわじわと融かさないといけない。
熊野:そう、強いパンチラインは、悪だ!(笑)
石井:強いパンチラインは、悪なんですね!(笑)
熊野:広告的にはもちろん、疑問符やどっちつかずな曖昧さなんてもっての他で、直接的に言い切るような強いパンチラインをよく投げるんです、そうじゃないと伝わらないことが多いです。
でも「対・ひと」では、できるだけ、にじませるというか、「こういう可能性もありますね」とやわらかくなげかけます。そこで、相手に選択してもらう、っていうのがありますね。(後編へつづく)
<プロフィール>
熊野森人(くまのもりひと)
1978年生まれ。大阪府出身。大阪市立工芸高等学校映像デザイン科卒。IAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)特別研究課程修了。株式会社エレダイ2代表取締役 / クリエイティブディレクター。株式会社ゆっくりおいしいねむたいな 代表取締役。京都精華大学や京都造形芸術大学では講師も務める。この度2019年で勤続13年となる京都精華大学での「コミュニケーション論」を書籍化した『うまくやる』(あさ出版)を上梓したばかり。
石井ゆかり(いしいゆかり)
1974年生まれ。ライター。星占いの記事やエッセイなどを執筆、『12星座シリーズ』(WAVE出版)は120万部のベストセラーとなる。著書多数。『月で読む あしたの星占い』(すみれ書房) 発売中。『星ダイアリー2020(総合版・恋愛版)』、『星栞(ほしおり)2020年の星占い(12星座別)』(共に幻冬舎コミックス) 2019/10/30発売。