人生のスタートは何位であっても――「なぜドラフト4位はプロで活躍するのか?」
公開日:2019/11/15
プロ野球ドラフト会議――。毎年10月に行われる新人選手獲得のための会議だ。今年は最速163キロを投げ、大谷翔平投手をも凌ぐ逸材と言われる佐々木朗希投手(大船渡高校)に対して千葉ロッテマリーンズが交渉権を得たが、その直後に中継で見せた佐々木投手の凍りついた表情に心配の声が続出。改めてドラフト制度の残酷さと、それゆえに生まれるドラマを垣間見た気がした。
今年のドラフト会議前日に出版された『ドラヨン なぜドラフト4位はプロで活躍するのか?』(田崎健太/カンゼン)は、そんなドラフトで4位指名された元野球選手(通称“ドラヨン”)に焦点を当てたノンフィクションである。本書によると、ドラヨンはなぜかプロに入ってから結果を残している選手が多い。イチロー、そして本書に登場する桧山進次郎、渡辺俊介、和田一浩、武田久、川相昌弘、達川光男といった面々だ。
4位であっても指名されたほうがいいのではないかと思い込んでいたという著者。しかしドラヨンの選手に取材を申し込むと、立て続けに断られてしまう。「彼らにとっては背中に重い数字が貼り付いているようだった。そして、ぼくはドラヨンにより興味を持つようになった」という。
なぜドラフト4位はプロで活躍するのか? その理由を著者はこう分析している。「五、六位よりも資質は評価されている。さりとて上位指名の選手ほどプロ入りしたときには騒がれない。じっくりと力をつける時間が与えられることが良い方向に出るのだろう」。本書にはドラフトではさほど注目されなかった選手たちが、その後のプロ野球人生においていかに力をつけ、名選手になっていったのかが克明に描かれている。
例えば、社会人野球を経験後、ドラフト4位で千葉ロッテマリーンズに入団した渡辺俊介。アンダースローを得意とし、「ミスターサブマリン」と呼ばれた投手だ。しかしアンダースローが得意と言っても、150キロを投げるような選手には球速では劣る。そこで渡辺が考えたのは、他の下手投げの投手を研究、分析し、取り入れることだった。そして入団から3年目、渡辺は快進撃を見せ、2006年、2009年にはWBC日本代表にも選ばれた。
プロでの活躍について渡辺は「その時々で助けてくれる人と出会ったからだ」と述べている。ドラヨン選手の多くが、“運と巡り合わせ”の大切さを説く。1991年、ドラフト4位で阪神タイガースに入団した桧山進次郎は、野村克也監督(当時)との出会いについてこう述べる。「新人でヤクルト(スワローズ)に入って1年目に野村さんの話を聞いていたら、“何言うてんねん、訳分からんし”と思ったかもしれない。今、自分が何かをしなければいけないという時期に、それを教えてくれる人に出会うことが大切ですね」――。プロ野球に限った話ではない。タイミングを含めた、運。そして巡り合わせ。人生において大切なことをドラヨン選手たちは教えてくれる。
野球に喩えると、自分はドライチ(ドラフト1位)だと思う人もいるだろう。ドラヨンだと思う人もいるだろう。ドラガイ(ドラフト外)だと思う人もいるだろう。しかしスタートが何位であっても、活躍する人はするし、しない人はしない。運と巡り合わせによって、結果は大きく変わってくる。いま「自分はドラフトにもかからない……」と嘆いている人も、諦めることはない。自分を信じ、努力し続けることで道は拓けるのだと本書は教えてくれる。
文=尾崎ムギ子