「カンブリア宮殿」にも出演! 公立中学校の校長が、宿題・定期テストを廃止した理由

出産・子育て

更新日:2019/11/19

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『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』(工藤勇一/かんき出版)

 子どもたちが不確定な未来を生き抜くためには、たくましく「生きる力」が必要だ。「生きる力」は、文部科学省のお達しにより学校で育まれている。「生きる力」という言葉は教育関係者には耳馴染んだものだが、一般の人々にとっては抽象的なイメージしか湧かないのではないだろうか。「生きる力」の概念がよりはっきりわかれば、家庭生活でもその考え方を取り入れることができるかもしれない。

 ある公立中学校が大胆な改革によって注目を集めている。宿題、定期テストを廃止。そして、固定担任制を撤廃。賛否両論が予想される中、名門公立学校が舵を切ったことが英断だとされている。この、東京都千代田区にある麹町中学校の工藤勇一校長は、改革に至る考え方を『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』(かんき出版)にまとめ、テレビ東京「カンブリア宮殿」にも出演。話題となっている。

 さて、『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』に収められた内容は、書名どおり「生きる力」がキーワードとなっている。なぜ、宿題や定期テストを廃止したのか。固定担任制を撤廃したのか。すべての改革の根っこにあるのは、著者が教育生活を捧げて考えた「学校は何のためにあるのか」という問いに対するアンサー「どんな子どもに対しても、社会でよりよく生きていく力を掘り起こし、伸ばしていくため」。本書によると、これからの社会をよりよく生きるための力とは、「自ら考え、自ら判断し、自ら行動する資質」。単語に置き換えれば「自律」となる。子どもの自律を促すために、宿題も定期テストも廃止した。

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 この考え方を学校教育の立脚点とするならば、学校は「習いたがる子」ではなく「自分に合った学びの方法を見つける子」をつくる場所。大人はよかれと思って子どもに宿題をやらせたり塾に通わせたりするが、それは子どもから自分に合った学びのスタイルを試行錯誤する機会を奪い、受け身になって「習いたがる」子にしてしまうかもしれない。テストの廃止も同様だ。一夜漬けの「やらされ感」がある学習では自律に繋がりにくいし、成果も挙がらない。固定担任制ではなく全員担任制にすれば、子どもは自分で考え、判断し、相談したい先生に相談できる。

 本書によれば、現代の子どもたちは「大人の言うことを聞く子がよい子」という社会的価値観の元で、主体性を欠いている。では、子どもの自律を掘り起こすために、麹町中では何を行っているのか。答えは、「大人の言うことを聞く子がよい子」という子どもの価値観をリセットすること。約1年半もかけると、子どもたちは本来の姿どおり“主体的に戻っていく”。ここから、子どもは劇的に伸びていくのだ。

 本書を読むと、子どもにとっての大人の影響におののかされる。子どもの問題は、たいてい大人が勝手につくる。例えば、子どもが集中して勉強をしている姿を見て、大人は「勉強、大変でしょう」「疲れたでしょう」と声を掛ける。もちろん悪意はない。しかし、極端な例かもしれないが、こういった言葉が定義付けとなり、子どもの問題となるのだという。言葉を聞いた子どもは、「確かに疲れたかもしれない」と意識し、やがて「勉強は大変なこと、疲れること」とネガティブに考えるようになるかもしれない。子どもの担任や友達を否定する発言も同様だ。子どもにとって、その人物のネガティブな定義付けに繋がる恐れがある。

 放任を肯定するわけではない。本書によると、子どもの悩みは自律のためのはずみになる。親はわが子がかわいいあまり、ついついかまいたくなる。しかし、本書を読むとあえて言葉にしない、行動にしないほうが子どもにとって利益になる場合があると気付かされる。

文=ルートつつみ