中村明日美子の長編GL『メジロバナの咲く』ーー甘く美しい乙女の花園を描く
公開日:2019/11/24
多くのボーイズラブ(BL)やミステリー、ラブコメなど多種多様な作品を手がけてきた中村明日美子氏。そんな中村氏が2017年から『楽園 Le Paradis』(白泉社)で連載を開始した『メジロバナの咲く』の第1巻が発売されました。同作は、自身初の“長編”ガールズラブ(GL)作品です。
海外の女学園の寄宿舎を舞台に生徒たちの恋愛模様が描かれる『メジロバナの咲く』。主な登場人物は、黒髪の少女ルビー・カノッサと金色の髪を持つステファニー・ナジ。
ルビーは天真爛漫で友だちも多く、校舎にクリスマスツリーを設置するために校内で募金活動をするなど、なかなかアクティブな高校2年生です。一方のステファニー・ナジは成績優秀で美しい3年生。とくにステフは「左足が鋼の義足だ」というウワサが生徒たちのあいだで広まり、近寄りがたい雰囲気もあいまって校内でも孤高の存在でした。
それまでの学生生活では接点がなかったルビーとステフですが、ある年のクリスマス休暇に運命の出会いを果たします。
同作の魅力は、なんといっても中村氏が描く女学生たち。校舎内はふわりとたなびく長いスカートとうぐいす色のジャケットを着た生徒たちが行き交う、まさに秘密の花園。絵を見ているだけで、甘くさわやかな香りが漂ってきそうです。
何より、ステフのクールさと美しさ、気高さは唯一無二! ステフは他者をよせつけないように振る舞いながら、両親の離婚を悲しむルビーにクリスマスのチキンを届けます。クールさと優しさを兼ね備えたステフの一挙手一投足に悶絶すること間違いなし。
彼女の優しさに触れたルビーは、自ら孤独であろうとするステフに「だってあなた本当は優しいじゃない 優しい人は一人じゃ寂しいはずよ」とまっすぐな目で伝えます。これまで誰も踏み込めなかったステフの心の扉を軽やかにノックするルビーもとても魅力的な女性。
可憐な女学生たちのなかでも、ひときわミステリアスなステフと、明るく朗らかなルビーという正反対のふたりが惹かれ合っていく様子が丁寧に描かれています。
そんなふたりの関係を勘ぐりウワサが流れ、嫉妬の眼差しが向けられて騒動になることも。女の園ならではの争いも同作の見どころのひとつです。
ちなみに、中村氏のGL作品は『メジロバナの咲く』だけではありません。小田急線を舞台にした短編集『鉄道少女物漫画』に掲載されている「立体交差の駅」は、高身長の野球少女と、彼女と別れたばかりの女性の出会いを描き、恋のはじまりを予感させるステキな作品です。
少女たちの恋のつぼみを耽美に描く、中村明日美子のGL世界。ぜひ一度ご一読あれ。
文=とみたまゆり