キスもセックスも経験ゼロな男女による夫婦生活はうまくいく? 『いとなみいとなめず』2巻にイケメンライバル登場
公開日:2020/1/24
「結婚」に対するイメージはさまざま。けれど、大多数の人が、「さまざまな経験を経たふたりがするもの」と思っているのではないだろうか。その「さまざまな経験」には、もちろん身体的な接触も含まれる。初めて手をつなぐ、ハグをし、キスをする。そして、セックスをして結ばれる。でも、それらの行為を全部すっ飛ばして結婚したとしたら――。
『いとなみいとなめず』(水瀬マユ/双葉社)で描かれるのは、まさにそんな異色の結婚をしたふたりだ。
主人公は不動産会社に務める青年・清。真面目で朴訥、「純情」が服を着て歩いているような彼は、恋愛経験ゼロの童貞男子。「自分なんか」「僕なんか」が口癖で、女性と目を合わせることすらできない。
ところが清は、ある日、行きつけの弁当屋で出会った少女・澄に一目惚れをしてしまう。そして彼は、なにを間違ったのか、「結婚してください」と口走ってしまうのだ。ただし、その時点での澄はまだ高校生。もちろん、清はその事実に衝撃を受ける。しかし、澄は、そんな清に「私が高校を卒業するまで待っててもらえますか…?」と答える。
第1巻ではこんなふたりの出会いや結婚式、いよいよスタートした新婚生活が描かれる。夫婦となっても初々しいふたりのやりとりに、思わずキュンとしてしまった読者も多いことだろう。
そして、このたび、待望の第2巻が発売された。第2巻でのカギとなるのは、清のライバルの出現だ。澄の幼馴染であり、イケメンの充。彼は9年間も澄のことを思ってきた真っ直ぐな男子。そんな充は澄の結婚にショックを受けつつも、こう問いかける。
本当にその人の事 好きなの?
この充の一言により、澄は自身の本当に気持ちに気づく。ちゃんとした交際もせず、男女の営みもないままに結婚してしまったこと。それは間違いだったのか、あるいは――。
本作は第1巻の時点でどこを読んでも胸キュンだらけだったが、第2巻ではそれが加速している。澄を幸せにしたいと願う清。そして清のためにできることを探す澄。心の奥底でつながっているふたりの姿が、とても眩しいいのだ。
そして、本作を読んでいると、なぜか泣けて泣けて仕方ない。一貫して悪い奴は登場せず、お涙頂戴な展開も描かれない。そこにあるのは、素朴で淡々とした毎日だ。でも、その描写がこんなにも心を揺さぶるのは、僕らが忘れてしまったものを思い出させてくれるから。打算や計算、快楽を抜きにして、本当に相手を思いやること。その尊さがさらっと描かれているから、心の襞をくすぐるのだ。
同時に、「経験ゼロ」だったふたりがちょっとずつ進んでいく過程を応援したくなる。手をつないだ瞬間、好きだと告げた瞬間、キスをした瞬間、そのすべてに「おめでとう!」と拍手を送りたくなる。もちろん、じれったくなることもあるのだが。
いまだかつてないピュアな夫婦を描いた『いとなみいとなめず』。本作を読めば、どこかに忘れ去ってしまった純粋な気持ちを取り戻せるだろう。そして、きっと身近な人のことを大切にしたくなるはずだ。
文=五十嵐 大
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交際経験ナシの男女が色々すっとばして結婚生活を始めたら…。『いとなみいとなめず』①