親も仕事も、いつまでもあると思うな…!? 『連載を打ち切られた実家暮らしアラサー漫画家の親が病で倒れるとこうなる』
公開日:2019/12/16
「いつまでも あると思うな 親と金」。しみじみするのを通り越し震え上がってしまうようなことわざだが、震え上がっていられるうちは、まだ平和なのかもしれない。
『連載を打ち切られた実家暮らしアラサー漫画家の親が病で倒れるとこうなる』(キダニエル/講談社)は、漫画家・キダニエル氏によるTwitter発の実録ルポ。漫画家が連載を打ち切られる──それだけでも危機的な気がするが、無職となったキダニ氏を待ち受けていたのは、さらなる困難だった。体調が悪いと言っていた彼の母に、急性白血病の診断が下されたのだ。
「血液のがん」と言われる白血病は、小説や映画などのフィクションでもよく名前を聞く難病だ。かつては不治の病のイメージだったが、医学は日々進歩している。白血病といってもいろいろタイプがあるだろうし、まだ病名を告知されただけだ。治療すれば、普通に治るかもしれない…。しかし、独立して実家を出ている弟と、母と3人で聞いた医師の染色体の異常に関する説明では、期待を打ち砕くような言葉が飛び出した。
そうだ、「ごはんがおいしい」と思えたのは、みんなが元気だったからなんだ…そんなことを噛みしめながら、かくしてキダニ氏は家族とともに母の闘病を支える生活に突入した。
ところがキダニ氏は、運転免許証を持っていないので、病院に行く車の運転ができない。製薬会社に勤める弟のように、採血の結果が読めるわけでもない。父のように入院に必要な書類手続きもできず、家事もやったことがなかったから、洗濯機すら回せないことに気づく。
「私にはなにができるのだろう…」、父と弟が仕事に出かけ、母不在の実家でひとりとてつもない寂しさに襲われるキダニ氏。「でも今、一番苦しいのは母なのだ」。彼は自分を奮い立たせて、できる家事からはじめてみる。
慣れない家事は大変だ、その日の夕飯を用意するだけでも一苦労。そこで、母のお見舞いに来ていた父方の叔母が、「ちゃんと食べてるか?」と男ふたりの食糧事情を気遣ってくれて――。
母の入院をきっかけに見えてくる、今まで知らなかった感情、知らなかった家族の顔。さらに彼と父は、母が入院している病院で、亡くなった人が搬送されていくのを見かける。病院とは、死と隣り合わせの場所なのだ。そんな中、母はドナーを探すことになった。
絵柄は一見やさしく描かれてはいるけれど、本作が扱うテーマはとことんシリアスだ。しかも、他人事ではない。突然職を失ってしまうこと、近しい人が病に倒れてしまうこと、その病が命にかかわるほど重いことは、いつ誰しもに降りかかる可能性がある。近親者の看護を経験したという人はもちろんのこと、今後そうなる可能性のある私たちにとっても、また闘病者本人にとっても、「そのとき、自分になにができるか」を考える貴重なきっかけになるだろう。
文=三田ゆき