ただ「生きたい」と願うアンデッドの執念の物語! 「小説家になろう」で人気のダークファンタジーが書籍化

文芸・カルチャー

公開日:2019/11/30

『昏き宮殿の死者の王』(槻影/KADOKAWA)

 小説投稿サイト「小説家になろう」といえば、『オーバーロード』や『Re:ゼロから始める異世界生活』などのヒット作が投稿された人気サイトであり、今も多くの作品が日々投稿されている。そんな中、現在大きな人気を獲得しているのが『昏き宮殿の死者の王』(槻影)だ。多大な支持を受け、このたび満を持しての書籍化が決定。11月30日にKADOKAWAより発売される。

 一般的に「なろう小説」のイメージとしては、「異世界転生」や「俺TUEEE」といった言葉が思い浮かぶかもしれないが、本作はそのイメージとは一線を画する。舞台は剣や魔法の存在するファンタジー世界だが、主人公は不治の病で亡くなった若者であり、死霊魔術師(ネクロマンサー)によって復活したアンデッドなのである。

 生前、苦痛に呻きながら死にゆくしかなかった若者は、魔術師ホロス・カーメンによってアンデッドとして復活。支配者(ロード)であるホロスにより「エンド」と名付けられた彼は、アンデッドとしては最下級の死肉人(フレッシュ・マン)であった。しかし通常の死肉人と違い、エンドには「自我」や「生前の記憶」が存在した。そしてロードの命令には「絶対に」逆らえないことを知ると、彼はロードを排除する方策を考え始める。エンドはアンデッドであっても、とにかく生きていたかった。自分の生殺与奪を握るロード・ホロスを許してはおけなかったのである。

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 生前の記憶があることをロードに知られないように注意しながら命令に従うフリをしていたエンドは、遂にロード殺害のチャンスを得た。エンドの行動に疑問を持っていた人間の使用人・ルウがそれをロードに告発するが、嘘であるとロードに責められ折檻を受ける。その隙をついて、エンドの鋭い爪がロードの頭部を貫いた! ……しかし、ロード・ホロスは生きていた。彼は一度殺しただけでは死なないような策を講じていたのである。こうしてロードによるエンドへの支配は強化され、直接ロードを害することはできなくなってしまう。

 しかしエンドは諦めなかった。死霊魔術師には、光の力で闇を滅する「終焉騎士団」という天敵が存在した。無論、アンデッドのエンドにとっても天敵だが、彼は賭けに出る。終焉騎士団にロードの居場所をリークし、その討伐を企てたのだ。エンドを「死者の王」と呼び、何かを企むロード・ホロスと、己の生存の自由を求めるエンド、そして汚れし魂を滅するべく行動する終焉騎士団。それぞれの信念を懸けた戦いが今、始まる──。

 本作は無力なアンデッドであったエンドが絶対的支配者であるホロス・カーメンや、圧倒的な力を持つ終焉騎士団に対し、いかにして生き残るかを探る執念の物語である。彼にあるのは強大な力ではなく、「生きたい」という不屈の意志だけだ。その生への執着がもたらす物語の変遷に、読者は確実に惹き込まれるはず。予想を遥かに超えたエンドの旅路の行く末を、ぜひ確かめてみてほしい。

文=木谷誠