ディスられ方までレジェンド級!! 超有名漫画家たちの壮絶エピソード集が熱い
公開日:2019/12/1
漫画は海外でも注目されている「日本が誇る文化」である。もちろんここに至るまでには、多くの先人たちの血と汗と涙が存在するのであり、それ抜きに漫画を語ることはできないだろう。『吉田豪のレジェンド漫画家列伝』(吉田豪/白夜書房)では、インタビューの達人である吉田豪氏が「レジェンド漫画家」たちにインタビューを敢行し、秘められたエピソードの数々をまとめ上げている。
本書で取り上げているレジェンドたちは13人で、漫画家だけでなく、漫画原作者も含まれる。さすがに昭和の時代から活躍する人々だけあって、それぞれにとんでもなく強烈で豪快なエピソードが存在する。その中でも特に印象に残ったエピソードを紹介したい。
■「赤紙が来たみたいな感じ」(平松伸二)
平松伸二氏といえば『ドーベルマン刑事』や『ブラック・エンジェルズ』などの、世にはびこる「ド外道」たちを主人公が裁いていく過激なバイオレンス作品が有名。
そんな氏であるが、漫画で悪党を描きすぎているせいか、本人は至って平凡な人間であるという。おもしろいのは、漫画家として週刊連載が決まったとき、普通なら大喜びするところだろうが、氏は「…とうとう俺の番が来たか」と恐怖したのだとか。
理由は、アシスタント時代に漫画家が「ゲーゲー吐きながら連載の仕事をしていた」のを見ていたからで、「赤紙が来たみたいな感じ」とたとえるあたりに、相当な恐怖を感じたのだろうと想像できる。
しかしその一方で、平松氏の連載には内容に対してのクレームも実は多かったそうだが、クレーム慣れしてしまったのか「クレームが来ないと寂しい」とも。クレームはある意味、反響のひとつと捉えていたようで、肝が据わっているようないないような…不思議なレジェンド漫画家である。
■「鉛筆の削りカスがドドドーッと」(のむらしんぼ)
のむらしんぼ氏は『とどろけ!一番』や『つるピカハゲ丸』など、『コロコロコミック』を中心に活躍した漫画家だ。個人的には『とどろけ!一番』が当初は勉強とバトルをミックスした作品だったのが、後にいきなりボクシング漫画へ変貌した強烈な印象が記憶に残っている。
そんな氏であるが、本書のインタビューでは他作品のパロディを多用していたことにより、読者から痛烈な批判が来たことを明かす。あるとき、ファンから大きめの封筒が送られてきて「俺を励ます何かを送ってくれたんだな」と思って開けてみると「鉛筆の削りカスがドドドーッと出てきて、『お前は漫画界の削りカスだ!』とか書いてあって」という衝撃のエピソードを披露。
他にも『つるピカハゲ丸』がヒットしてアニメになったときには、のむら氏の年収は6000万くらいになったが、それを当時まだ高価だったパソコンや、18禁の「エロゲー」などにほとんどつぎ込んでいたという。結局、放蕩が過ぎて借金生活になり、離婚にまで至ったのだとか。まさに天国から地獄…波瀾すぎる漫画家人生だ。
レジェンド漫画家たちのインタビューを担当した吉田豪氏は、「オーバー60、アラウンド70くらいの人たちに会って、ちゃんと話を聞いておかないとっていう責任感がある」と語る。
人間は歳を取ればこの世を去る。それはレジェンド漫画家とて例外ではない。2019年にはモンキー・パンチ氏や小池一夫氏というレジェンドが亡くなった。吉田氏には、そんな偉人たちの「生きた証」を、今後も精力的に残していってもらいたいものである。
文=木谷誠