舞妓さんも「もうたくさん」と悲痛な叫び!? 観光客でパンクする京都の知られざる実態
公開日:2019/12/2
「そうだ、紅葉の季節だし、京都へ行こう…」と思ってはみたものの尋常じゃなく混んでいるみたいだからやめたという人は多いだろう。今誰かがそうつぶやいていてもおかしくないほど、京都(京都市)は観光客であふれている。
京都市を観光目的で訪れる人数は年に5000万人以上。同市の人口は約150万人だ。特に外国人観光客の増加が著しい。京都市内を訪れる外国人宿泊客数は2011年時点では約50万人だった。それが、2018年には約9倍の450万人に急増した。『パンクする京都 オーバーツーリズムと戦う観光都市』(中井治郎/星海社:発行、講談社:発売)は「オーバーツーリズム(過度な観光化)」の実態について、京都在住の社会学者である著者が社会学的な視点と「京都に暮らす者」としての感覚を織り交ぜながら綴る1冊だ。
■「観光客はもうたくさんだ!」悲痛な市民の叫び
「観光客が来すぎる」というのは、「観光客が来ない」という悩みを抱える地域からすればとても贅沢な悩みに聞こえるかもしれない。だが、オーバーツーリズムは国内や地方自治体が抱えるローカルな課題であるだけではなく、グローバルな視点でみても衝突が生じているという。
“しかし近年、ベネチア、アムステルダム、バルセロナなど、観光地として世界的な知名度を誇る各都市において住民たちの怒りが爆発している。彼らは叫ぶ。「もう観光客はたくさんだ!」”
たしかに、水の都と呼ばれるイタリアのベネチア、運河が張り巡らされたオランダのアムステルダム、サグラダ・ファミリアなど数々の優美な建築を有するスペイン・バルセロナを訪れたら、多くの人は写真を撮りまくりたい欲求に駆られるだろう。だが、現地に暮らす人たちはその光景を「いつものこと」として受け止める一方で、「自分が被写体になりませんように」と祈っている。
インスタグラムなどのSNSは観光と切っても切り離せない関係になっている。現代では、旅先が「映える」「画になる」ことが重要視されている。日本国内でも、境内に約1万もの鳥居が並び大いに写真の撮りがいがある伏見稲荷大社は、旅行クチコミサイト・トリップアドバイザーの「外国人に人気の日本の観光スポット」部門の第1位だという。
■地元住民の生活をどう守ればいい?
では、観光客の増加は、京都で暮らす人々にどのような形で悪影響をもたらしているのだろうか。それを顕著に表す言葉が「舞妓パパラッチ」だ。京都市・東山区の風情ある花街の景観と、その中を歩く舞妓さんの様子を一目みたいと、「出待ち」をする外国人観光客が絶えないという。それだけではない。「襟にタバコを入れられた」「追いかけられた」「腕を引っ張られて着物の袖が破れた」などという被害が発生している。2019年10月25日には「私道での無許可撮影は罰金1万円」という立て看板を、日・英・中表記で自治組織が設置するに至った。
オーバーツーリズムによって起きているネガティブな面を挙げて疎んじること、またその問題点をあれこれと論うのは簡単だ。しかし、問題はこれからどうするのかということだ。
著者は本書で外国人観光客のマナーの悪さについて指摘する一方で、社会学的な作法に則って「観光マナーがよくなってきているということはなかなかニュースで報じられない」という街の声についてもしっかりと平等に拾い上げている。本書には、京都に暮らす多様な立場の人々へのインタビューが掲載されているが、京都市産業観光局は市としての立場をこのように説明している。
“市長はよく「京都は観光都市ではない」といいます。まず京都の人が守ってきた生活文化がある。そして、それを魅力として感じる人たちが世界中から来てくれている。だから観光客のために京都の文化を変えるのは本末転倒であるということです。”
物事は常に変わりゆく。そうした中で何を思い、何を大切にして生きていくのか。京都が奮闘している現状を知りつつ、読み終わる頃にはやっぱり京都が好きになるような1冊だ。
文=神保慶政