うまくやっているようで、幸せとはいえない現代の人たちに。アニメ『ぼくらの7日間戦争』村野佑太監督×大河内一楼さんインタビュー
公開日:2019/12/12
原作は、1985年に刊行され、いまだ人気が衰えない宗田理さんの小説。1988年に映像化された実写映画は、日本の青春映画の金字塔に。そんな揺るぎない名作が、現代版に作り変えられたアニメーション映画として新たに描かれる! 12月13日(金)公開の劇場アニメ『ぼくらの7日間戦争』の村野佑太監督と、脚本の大河内一楼さんが語る、現代の子どもたちの敵や、大人にとっての青春とは。
――制作に入る前に、あらためて80年代の原作や実写版にふれたそうですね。
大河内 この作品を好きな人は、何を守ってほしいのか。今回の作品でどこを変えるべきなのか。現代版に作り変えることになっていたので、今の時代を表せる何かを探す作業がまずは必要だと思いました。
村野 原作である『七日間戦争』の魅力はまず、体格も立場も明らかに自分たちを上回る大人を、子どもたちがギャフンと言わせるスカッと感。体力では敵わないから、知恵を使ってやっつけようと。
大河内 実写版を久々に観て、こんなにコミカルな映画だったんだと気づきました。エンタメとして信じられるラインがギリギリで守られているというか。スカッとするところも好きですね。大声を出すし、さらけ出すし。殴り合いのケンカなんて、今はあまり考えられないけど。
村野 そう、ほかにもケンカした相手が、雨の中で荷物をまとめて去っていくところを引き止めたり。観ていると恥ずかしくなっちゃうんだけど、そのこそばゆさが気持ちいい。今の時代のときめきではないだろうし、それを自分でやれる勇気もないけど、なんかちょっと憧れる。忘れていた何かをくすぐられる感じがありました。
――実写版で象徴的なのが、宮沢りえさんたちが乗った戦車。本作では子どもたちの戦いにトロッコが使われていますね。
村野 『7日間戦争』ってアナログなんですよね。戦い方であったり、人の在り方もそうですが。トロッコも、レバーを引いて滑車が動いて…と仕掛けがはっきりとわかる戦い方です。時代に取り残されつつあるアナログなものが、デジタルの時代の子どもたちの手となり足となることが、『7日間戦争』っぽいなと感じました。
大河内 トロッコのようなものが、じつは実写版の2作目にも出てくるんですよ。そのエッセンスは大事にしたいなと。実際に取材した工場も良かったんです。秘密基地みたいに、これを使って上に上がろうぜ、というワクワク感があって。具体的なイメージを監督と共有できたのは、脚本を書く上でありがたかったですね。
――トロッコなどを使ったアクションは見ものです。アニメーションだからこそ表現できる部分も多かったのではないでしょうか。
村野 アニメって、いい意味でも悪い意味でも、そこで起こっていることが、ある種のファンタジーになるんですよ。実写版では痛そうな感じになることも、アニメではキャラクターが「ひい!」って言って避ければギャグにもなる。子どもたちの“イタズラ”をどこまでやるのか難しい中で、アニメだから笑って観られる場面はたくさんあると思います。けっこう大胆なイタズラをしてますからね!
大河内 実写版の先生たちがコミカルに描かれているのも、子供たちのイタズラを陰惨にしたくないというのもあったと思うんです。現実には、子供たちにイタズラされて「うぎゃー」ってリアクションする大人はいないわけだから(笑)。
――以前の作品には、大人への不満として「管理社会」などが描かれています。現代版では、子どもたちは何に悩んでいるのでしょうか。
村野 制作前に高校生にインタビューを行ったんですが、みんないい子で、大人を恐れていないんです。むしろ自分たちのコミュニティの中の確執や対立に興味がある。でも、その後に先生の話を聞いたら、最近の子は頭が良くて器用だけれど、トラブルから立ち上がれるような粘り強さが欠けている、と。それを聞いた時、いやいや、そうはいっても子どもたちにやれる力はあるはずだと。だから映画では、頑固に立ち回れる子どもたちを描きたいなと思いました。
大河内 今は女性がヒーローの映画も当たり前にあるし、価値観にバリエーションがある。だから子どもたちは目標を定めにくくて、先生方から見たら意志が見えずらく映るのかもしれません。器用にやっているように見えて、生きるのが大変なところもある。主人公の守くんだって、学校ではうまくやっているし、立てこもる必要なんてないんだけど、幸せかって言われるとそうでもないんです。
――そういった考えから、キャラクターたちが生まれていったと。
大河内 七人それぞれに、幸せになりきれない欠けた部分があるんです。守だったら片想いですね。それから、敵は何にしようかと考えた時に、実写版の時のような管理教育の時代でもないし、「自分」ではどうかと。学校にいる時の自分、家にいる時の自分、SNSの自分。使い分けるのは大変だろうなぁ…。
村野 疲れますよね…。でも、すべてに気を使わないといけないのが今の子たちで。ヒロインの綾は、最後にすごく小さな一歩を踏み出せるくらいのイメージで構築しました。守や綾は、大事なことを言う時に目を見て話せないんです。目を逸らしながらコンパクトな会話しかできないから誤解を招いたりして。それが、目を見て話せるようになる。大きな成長よりも、そういった些細なことにホッとできるんじゃないかと。
――親子の姿も描かれていますが、そこにはどんな意図が?
村野 自分たちにも子どもはいますけど、親の立場から言えば、愛情ゆえに厳しく当たることもある。そこにはちゃんと優しさがあることを描きたかったですね。いろんな形の愛情がある中で、ちょっとしたボタンの掛け違いがあっただけなんだと。
大河内 大人にも子どもにも、事情はあるんです。そういう意味では、親子で違う感想の出てくる映画かもしれませんね。かつて実写映画を見た世代の親と、その子どもたちで一緒に楽しんでもらえると嬉しいです。
――おふたりにとって“青春”とは?
村野 「これをやっていれば大丈夫」と物事をやり過ごすのは違うと思っていて。年齢にかかわらず、失敗するかもしれないけどやってみようと思える間は、青春時代だろうと。主人公の名前は「守」ですが、守りに入る前に攻めろ!って(笑)。
大河内 キャラクターの名前は基本的に監督が考えていますからね(笑)。僕も初めて脚本を書いた時は、監督にめちゃくちゃ怒られたし、無礼なこともしたと思うけど、今となっては宝石のような時間でした。たとえ40代でも50代でも、向こう見ずに挑戦していたら青春なんじゃないかな。
――勇気をもらえる言葉をありがとうございます! 今回の大きなチャレンジを経て、これからのアニメーションで挑戦したいことは何でしょう。
村野 シンプルな絵柄で描くアニメーションを、もっと追求したいですね。今は繊細な描写によるリアルな絵柄が増えている印象があって。シンプルな線でどれだけキャラクターの感情を表現できるのか、その挑戦を通して絵を動かすことの根本的な魅力を探っていきたい。
大河内 今はアニメーションって、日本以外でも、大人でも、アニメファン以外にも見てもらえる広いジャンルになったと思うんです。だからこそ、幹が太い普遍性のある作品を作っていきたいですね。
取材・文=吉田有希
写真=松本祐亮
【作品情報】
『ぼくらの7日間戦争』
原作:宗田理『ぼくらの七日間戦争』(角川つばさ文庫・角川文庫/KADOKAWA刊)
監督:村野佑太
脚本:大河内一楼
キャラクター原案:けーしん
キャラクターデザイン・総作画監督:清水洋
配給:ギャガ KADOKAWA
■キャスト
鈴原守:北村匠海
千代野綾:芳根京子
中山ひとみ:宮沢りえ(特別出演)
山咲香織:潘めぐみ
緒形壮馬:鈴木達央
本庄博人:大塚剛央
阿久津紗希:道井悠
マレット:小市眞琴
本多政彦:櫻井孝宏
公式サイト:http://7dayswar.jp/
©2019 宗田理・KADOKAWA/ぼくらの7日間戦争製作委員会