引退まで1カ月! 新日本プロレスのレジェンド・獣神サンダー・ライガーが東京ドーム大会に向けての心境を語る【後編】

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公開日:2019/12/7

■インタビュー 獣神サンダー・ライガー

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今年3月に、来年の1月4日(土)・5日(日)に行われる新日本プロレスのビッグイベント「WRESTLE KINGDOM 14 in 東京ドーム」で引退することを表明した後も、精力的に試合を続けてきた獣神サンダー・ライガー選手。後編では、「チャンプ」棚橋弘至、ヤングライオン・上村優也ら後輩、若手への思いを語る。ファンの胸を熱くする、引退後のプランも必読!

じゅうしん さんだー・らいがー●1989年4月24日デビュー。マスクマンとして、30年のキャリアを誇る新日本プロレスのレジェンド。団体の枠を越えて数々のタイトルを奪取、IWGPジュニアヘビー級王座最多戴冠(11回)、同タイトル最多通算防衛(31回)などの記録を持つ。バラエティ番組にも出演多数、熱気あふれる解説も人気。得意技は、垂直落下式ブレーンバスター、ロメロ・スペシャル、掌底 170cm 95kg @Liger_NJPW

インタビュー前編は、こちら

東京ドーム大会は「デザート」です(笑)

――『獣神サンダー・ライガー自伝』では、天龍源一郎さんから「プロレスは自分のなかで『もう、俺はいいよ!』っていうくらい、腹一杯になるまでやったほうがいい」と言われた、とおっしゃっていましたね。ライガー選手が「腹一杯」になるのはドームで、ということでしょうか。

ライガー いや、今もう腹一杯ですよ。ドームの試合はデザート(笑)。うちのカミさんもよく言いますけど、デザートは「別腹」。そういうことかなと思います。

――引退発表をした時点で腹一杯だった、と。

ライガー そうですね。やるだけのことはやったから、にこやかに会見ができた。まさか別腹が来るとは思わなかったです。

――引退の理由の1つとして、自分には「伸びしろがない」ということを挙げていらっしゃいましたね。

ライガー 石森太二選手とタイトルマッチをやっていた時に(2019年3月6日 IWGPジュニアヘビー級選手権試合)、ふと「自分は今まで培ってきた技術を使って、試合をしているな」と思ったんですよ。でも石森くんは、違うんだよ。いろんなことにチャレンジしながら試合を進めている。それが僕の言う「伸びしろ」で……引退を決断した1つの理由になりましたね。あと、「昨日試合で肩を傷めちゃったから、今日はストレッチだけにしちゃおう」とか、練習ができないことにあれこれ理由をつけて休みたがるようになったのも嫌だった。

――そうだったんですね。

ライガー 体力的に、1日や2日じゃ疲れが抜けにくくなったことも大きかったですね。

道場で新人選手のがんばりを見てきたから僕もがんばれた

ライガー それでもここまでやってこられたのは、道場で新人選手たちのがんばりを見てきたから。僕の自宅は福岡にあるんですけど、シリーズが始まると、道場の隣の(新人選手たちが共同生活を送る)合宿所で、僕も暮らしているんです。彼らを見ていると、練習しなくちゃ!と思えてくるんですよ。「ライガーは休んでばっかりいる」って思われたら、しゃくだしね(笑)。若い人たちは、本当に毎日何時間も練習している。会社から「もう練習するな」って言われるくらいに(笑)。ツアーが1カ月くらい続いて、へとへとになって帰ってきても、みんな次の日から練習してるからね。

――なぜ今の若手選手たちはそこまで練習するようになったのでしょう。

ライガー そうしないと今の新日本ではトップをとれないから。上村(優也)選手なんか、練習だけじゃなくて、夜中に起きて24時間営業の店で飯を食って帰ってきたりもする。体を大きくしなきゃいけないからね。

――最近の上村選手の充実ぶりは、見ていて伝わってくるものがありますが、そういった努力のたまものだったんですね。

ライガー ちょっとやりすぎだけどね(笑)。寝るのも大事、休むのも大事。でも彼らのおかげで僕も練習をたくさんできたし、この歳まで筋力も筋量も落ちずに来られたんだと思います。

――試合を拝見していても、「今、ライガー選手って何歳だったっけ……?」と思ってしまうくらい、衰えやコンディションの悪さを感じません。

ライガー 「あの人何歳なの? 全然動けないのにまだやってたんだね」と「すごいね、いくつだっけあの人?」では大きく違いますよね。「まだまだやれる」と思われているうちに辞めるのが、僕の引退の美学かもしれない。

――長州力さんの引退試合ではライガー選手が対戦相手の1人になられていて、「あとは頼むぞ」と言われたそうですね。ご自分は対戦相手に何か言おうと思っていらっしゃいますか?

ライガー 言わない! おじちゃんが何か言っても「うるせえ!」ってどつかれますよ(笑)。黙って、ただ消え去るのみ。それでいいんじゃないですか。

ベルトを巻いていても巻いていなくても棚橋弘至は「チャンプ」です

――今お話をうかがっていても、これまでのインタビューなどを拝見していてもそうなんですが、ライガー選手は、若手や新しいことをする選手に対して、否定的なことをおっしゃいませんよね。いつも、その時のプロレスが一番いい、彼らが一番がんばっている、とおっしゃっていて。

ライガー そうそう。だって、「今」が一番大事じゃない? 今、お客さんがすごくたくさん会場に足を運んでくれていますよね。それはなんで? おもしろいからでしょう。いい席だと1万円とか2万円とか払って会場に来てくれる。つまらないものに、そんな大金は出さないよ。わざわざ遠くまで来てくれるファンの人もいるでしょう。そうさせたのは誰なの? 今のトップたちじゃん!って思うから。

――「そこはもうちょっとこうしたほうがいいんじゃないの?」とご自分の経験から思ったりは……。

ライガー いやいや。プロレスも変化していますから。その時代その時代でファイトスタイルは変わっている。お客さんが観に来ていることが答えですよ。変化の一番わかりやすい例は、棚橋(弘至)選手が言う、試合が終わった後の「愛してま~す!」ですよね。最初は、すごく抵抗がありましたよ。「レスラーがリング上で『愛してます』? なんだそれ!」って(笑)。

――新日本プロレスが低迷していた時代にやり始めて、最初はお客さんもシーンとしていたそうですね。

ライガー でも今は、それがないと大会が締まらなくなった。棚橋に「愛してま~す!」と言わせたくて、お客さんが「たーなはし、たーなはし」ってコールをするでしょう。そうまでさせたのは棚橋です。だから僕は、実際にチャンピオンベルトを巻いていようが巻いていなかろうが、彼を「チャンプ」って呼ぶんですよ。今の新日本の基礎を作ったのは彼だからね。

――お客さんを会場に呼び戻した棚橋選手こそが、「チャンプ」だと……。

ライガー うん。そういう状況の中で、「じゃあ自分はどうなの?」って自問自答もして。結果、古いものを取っておいてもいいんじゃないのかな、そこに今のものを付け足してもいいんじゃないのかな、って思ってやっているんですけど。

若手にすべてを教えたりはしない。僕らは、プロだから

――ライガー選手ご自身がこれまでのレスラー人生の中で「変えよう」と思って取り組んだのはどんなことですか?

ライガー 「骨法」っていう打撃を取り入れたことですね。僕は、藤原喜明さんから「お前は体が硬いな」とずっと言われていて。関節の可動域が狭いので打撃系の技は向かないから、グラウンドで勝負しようと思っていた。でも船木(誠勝)から骨法を習ってみないかと誘われて行ってみたら、これはおもしろいなと思って……10年くらい通って、掌底とか浴びせ蹴りのような打撃系の技も使えるようになりました。あれが僕の1つの転機かなと思います。

――別の方向性が身に着くと、試合の構成なども変わりますか。

ライガー 全然違いますよ。幅が出ます。技=武器がたくさんあるほうが、闘いやすいでしょう。相手によって武器を選択できるし。習得するには時間がいっぱいかかりますけどね。でも手に入れようと思うなら、時間をかけてやるしかない。

――そうやって自分が身に着けてきたものを若手や後輩に具体的に教えたりもされますか?

ライガー 聞かれたら、教えます。新日本プロレスっていう、同じ団体の一員だからね。でもなんでもかんでも教えたりはしない。僕ら、プロだから。レスリングの基礎は教えますよ。ヘッドロックはこうしたら締まる、こうしたら痛くないとかね。でも、これも持っていきな、あれも持っていきな、とは言わない。全部自分の持っているものをさらけ出してどうするの、って思う。現役ですから。

――プロ同士ということですもんね。

ライガー うん。ベテランだろうが若手だろうが、リングに上がったら戦うんだもん。

引退後は、若い人たちのケアをしたい

――引退後のことは、もう決まっていらっしゃいますか?

ライガー 僕のやりたいことはだいたい会社には伝えてあって。これもまだ正式には決まっていないんですけど。

――可能な範囲で、お話しいただけますか?

ライガー 縁の下の力持ちじゃないけど、若い人たちのケアみたいなことをできたらと思っています。自分が選手として、「こういうふうにしてくれたらもっと楽なのに」とか「もっと試合に集中できるのに」とか思うことがいっぱいあったんですよ。試合がある日は、みんなお昼過ぎに道場を出て、夜に帰ってくる。夜は管理人の小林邦昭さんも帰られているので、若手は自分たちでごはんをあたためて、食べて、片付けをしないといけない。そういうことをやってくれる人が常駐でいたら楽じゃないかなと思って……。彼らには、洗濯とかほかにもやることがいっぱいありますからね。そういう仕事ができればいいと思っています。僕、道場が大好きなので。自分の部屋もあるしね。

――引退しても福岡には戻られないのですね。若い選手のみなさんにとって、とても心強いお話だと思います!

ライガー あと、いろいろな理由があって途中で辞めていく選手もいるんですけど、彼らの悩みを聞いてあげるだけでも違うかなと。引退したら、もうプロ同士じゃなくなるから、技術を教えてもいいわけだしね。そうやって新日本プロレスを見続けられたらいいかなと思っています。

 

取材・文:門倉紫麻  写真:内海裕之