圧巻の『鬼滅の刃 18』ついに至高の領域に到達した炭治郎と敗れる“上弦の参”の悲しい過去【ネタバレあり】

マンガ

公開日:2019/12/6

『鬼滅の刃 18』(吾峠呼世晴/集英社)

 圧巻だった――『鬼滅の刃 18』(吾峠呼世晴/集英社)を読んだ感想は、もうこれに尽きる。

 鬼殺隊の最終目的であり、鬼の絶対的支配者である“鬼舞辻無惨”を討伐するため、どうやら最終局面に入った『鬼滅の刃』。主人公の竈門炭治郎は、鬼舞辻の支配する無限城の中で、“上弦の参”猗窩座と死闘を繰り広げる。その強さは、闘うこと以外すべてを捨てた紛うことなき“修羅”であり、共闘する“水柱”の冨岡義勇も大苦戦。

「もう十分だ義勇 終わりにしよう」

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 義勇の振り下ろす刀をポキリと折り、猗窩座がその命を奪おうとした瞬間、ついに炭治郎が覚醒する。“上弦の参”という最強クラスの鬼でさえ到達できなかった“至高の領域”。怒りも憎しみも、殺気も闘気もない“無我の境地”に到達した炭治郎が、猗窩座との死闘にピリオドを打つのだ。

 今やジャンプ作品の中でも爆発的人気を誇る『鬼滅の刃』。この作品の魅力を個人的に読み解くと、やはり戦闘シーンが激しいことに尽きる。というより、主人公や味方キャラがあまりに追い込まれる。炎柱の煉獄が死んだときは、「なにかの間違いだ…そうであってくれ…」と思考が停止してしまった。“上弦の陸”との戦闘でも「今回も誰かが死ぬのか…?」とドキドキハラハラしながら読んでいた。それほどこの作品は戦闘時の絶望が深い。

 だからこそ! 炭治郎をはじめとする味方キャラが覚醒して敵を撃破するシーンは、高揚感にわきたつ。「血わき肉おどる」と表現すべきか。ふむ、読者なのに鬼みたいな感覚だ。この最新刊でも、炭治郎が覚醒するシーンにきっと、読者は血わき肉おどるだろう。最終局面にしてかつてない絶望が鬼殺隊を襲うが、1000年以上成し遂げられなかった鬼舞辻無惨の討伐に向けてかすかな希望が見え始めた。

 そしてもう1つ、この作品の魅力を述べたい。鬼たちの過去だ。彼らは鬼舞辻無惨から血を分け与えられることで鬼と化してきた。しかしただ鬼になったわけじゃない。人間の心を失うほど辛い出来事があり、憎しみが募り募って“記憶を失った後も”人間を襲うのである。

 猗窩座にも悲しい過去があった。彼がまだ人間の子どもだった頃、父親は病床に伏していた。しかし家が貧乏なので満足に薬も買えない。徐々に体がやせ細る父親。そこで猗窩座は薬を買うため、道行く人から財布を盗む。取り返しに来た人を返り討ちにする。当然奉行所に捕まって、体を痛めつけられる刑罰を食らう。それでも猗窩座は盗みをやめなかった。

鞭でめった打ちにされようが骨を折られようが
親父の為なら耐えられる何百年でも

もっと栄養のあるもんを食わせたいんだ
きっと俺が治してやるんだ

 そう願って苦しみに耐えながら盗みを続ける猗窩座…。しかしある日、父親が首を吊ってしまう。他人の金品を奪ってまで生き永らえたくないこと、そして猗窩座に“真っ当に生きてほしい”と願っての自殺だった。

貧乏人は生きることさえ許されねえのか親父

 そう絶望して怒り狂い、道行く“糞みたいな奴ら”をボコボコにする猗窩座。そんなとき出会ったのが武術の達人“慶蔵”だった。ここから猗窩座は慶蔵との暮らしの中で、ある女性と出会い、真っ当な人生を夢見た後、深い絶望に突き落とされる。人間の心を忘れてしまうほど深い絶望に…。

 猗窩座は討伐すべき鬼だ。しかしその過去を読み解くと、散りゆく彼の姿に少しだけ同情を覚える。

 憎むべき鬼にも悲しい過去があるということ。先にも言ったがこの作品のもう1つの魅力であり、それを重厚に描くことで、敵キャラが散りゆくたびに切なくなり、読者の心に深く残るのだ。おそらくこれは現実世界でも同じではないか。憎むべきアイツもきっと過去に何かがあったのかもしれない。とても考えさせられる作品である。

 最新刊の後半では、“上弦の弐”との死闘が始まる。さらに上弦最強の“壱”も少しだけ登場する。鬼殺隊は、鬼舞辻無惨を討伐できるのだろうか。物語は最終局面に入ったとみて間違いないだろうが、強敵たちの背中はあまりに遠い。読者のドキドキハラハラはまだしばらく続きそうだ。

文=いのうえゆきひろ