1日に15億件の注文。中国のネット通販大手・アリババはなぜここまで大きくなったか?

ビジネス

公開日:2019/12/12

『アリババ 世界最強のスマートビジネス』(ミン・ゾン:著、土方奈美:訳/文藝春秋)

 このところIT業界の再編が活発だ。ヤフーとLINEの経営統合や、ドコモとAmazonの提携など、強い者同士が手を組み、さらに強くなることで顧客を囲い込もうとしている。統合や提携はどの業界でもあるが、IT業界では特に大きな意味を持つ。なぜなら、IT業界は、より大きなプラットフォームを築いた者が圧倒的な勝利を収める“勝者総取り”の世界だからだ。

 そんなIT業界において、近年GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)にも迫るプラットフォームを構築しているのが中国でネット通販大手「アリババ」だ。2017年の「独身の日(11月11日)」には、実に15億件、総額250億ドルもの商品が注文され、世界中の家庭へと届けられた。アリババは、いかにしてこの強大なプラットフォームを築いたのだろうか。

 本書『アリババ 世界最強のスマートビジネス』(ミン・ゾン:著、土方奈美:訳/文藝春秋)は、「Amazonとは全く違う」というその成功の秘訣に迫る。アリババの前最高戦略責任者である著者のミン・ゾンは、その理由に「ネットワーク・コーディネーション」と「データインテリジェンス」をあげる。耳慣れない言葉だと思うが、本稿ではその一端に触れたい。

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■アリババは、企業と人を効率よく連携していく“指揮者”

 ネットワーク・コーディネーションは、ひとことで言えば指揮者のような役割だ。独身の日、アリババが運営する通販サイト「タオバオ」は、顧客の注文に備えて大量の在庫を抱えている…わけではない。彼らは、在庫を一切持たないのだ。1000万社以上の出店者と何百万社ものパートナー企業が協力し、販売から決済、配送までを行う。それを指揮しているのがアリババだ。

 彼らは、この広大なネットワークを構築するために、さまざまな手を打ってきた。始まったばかりのころ、ネット通販は売り手にとって信用がなく、小売店に比べて利益が出る保証もない場所だった。そのため、アリババは、出店料を取らないことで売り手が出店するハードルを下げ、決済サービス・アリペイによって信頼性を高めた。さらに、物流企業と協力し、配送を支援する仕組みを整えていく。彼らは、こうしたネットワークを構築するために、多額の投資を惜しまなかった。

■判断をAIに任せ、それをどんどん強くしていく

 データインテリジェンスを馴染み深い言葉で表せば、AIの活用ということになるだろう。アリババは、膨大な購買データを利用し、売り手と買い手を効率よくマッチングしていく。このAI活用の好例が、「アリミー」と呼ばれるアリババのチャットボットだ。各店舗のチャットボットは、機械学習によって、自らの担当カテゴリーの商品や、アリババのプラットフォームの仕組みも学んでいく。その結果、2017年の独身の日、アリミーは95%以上――実に350万人以上のユーザーの質問に対応したという。もしアリミーがなかったとして、同じ量の問い合わせを捌き、ユーザーを購買へと導くためには、いったい何人の従業員が必要になるだろうか。アリミーの例は、圧倒的な“量”に対応できるAIの底力を示している。

 ネットワーク・コーディネーションとデータインテリジェンス。アリババは、その両輪の相互作用によって、世界的な小売業者よりもうんと少ない数の従業員で、とてつもない売上を叩き出すようになった。そして、著者はそのメカニズムを詳細に語った後、本書を読むいち読者へと目を向ける。

 なにも、Amazonやアリババのような一大プラットフォームを今から作れ、というわけではない。プラットフォームがひしめく現代で、いかに生き残るか、いかに活躍するかということを問いかけるのだ。この先、あらゆる業界にプラットフォームの波がくる。本書でプラットフォームの仕組みを知ることは、そこで戦うための武器になる。

文=中川凌