作家、建築家、音楽家……さまざまな肩書を持つ、謎の人物・坂口恭平のすべてが丸裸に
公開日:2019/12/18
坂口恭平さんとは一体、何者なのだろうか?
肩書きは、作家、建築家、音楽家、画家、料理家。そして編み物作家、織物作家、ガラス作家、作曲家、詩人、噺家、陶芸家でもある。そして「新政府内閣総理大臣」であり、躁鬱病の当事者でもある。個人の電話番号090-8106-4666を公開し、死にたい人の相談窓口「いのっちの電話」を開設している。坂口さんはSNSや出版物を通して、全てをオープンにする。
彼がどのような考えを持ち、多岐に亘る活動を実践してきたかを記録した本が『まとまらない人』(坂口恭平/リトルモア)だ。話し言葉で、非常に読みやすく書かれている。
“毎日、小説の1行目みたいな感じで、その日の初期設定がどうなってるのかを確認するところからはじめる。確認の仕方が「今日はどんなことに興味があるのかな?」っていう自分への問いかけだからね”
とても自然なことのように感じられる。しかしながら、現代社会は世知辛い。毎朝決まった時間に起きて会社に行き、興味があるかどうかわからない仕事をして、自分自身の自然な感情や衝動にはふたをしたまま、日常を過ごしていく。
不自然かもしれないが、良いかもしれない。坂口さんは他人を決して否定しない。会社員を「しっかり異常」とフラットに表現する。そして彼は寄り添うようにして、まとまらない生き方もあるよ、と別の生き方への「トンネル」を見せ、ささやいている。
「形にならないと、嬉しくならない」と坂口さんは言う。ノルマとしてではなく、「嬉しい」のために形にする。そうして、まとまらない自分をありのままに動かし、生活を成立させる。第5章「僕の経済」には彼の「食べていくための方法」も書かれていて、年収の金額までもがオープンだ。
他方、『まとまらない人』では、「まとまっている」と感じられるところがある。それは「疲れない」というコンセプトだ。
“疲れないことが、僕のテーマだから。絶対疲れないようにする。鬱にならないためにも疲れないのが大事”
活動的で、一見疲れそうな彼は、前述したように興味にしたがって動く。興味のないことを、やらない。躁鬱病の鬱症状を、できるだけ遠ざける。だからまとまらないし、疲れないのだ。きっと読者も、本書を読んだあと、疲れないために何かを作りたくなってくるのではないだろうか。
まとまらない人・坂口恭平さんによる『まとまらない人』は、「まとめない」生き方の指南書だ。
文=えんどーこーた