元SKE48矢方美紀さん、乳がん闘病中の“現在”を描くコミックエッセイ『27歳のニューガン・ダイアリー』

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更新日:2020/11/21

 元SKE48で、現在は名古屋を拠点にタレントとして活躍している矢方美紀さん。声優になりたいという夢に向かって邁進する彼女が、乳がんのため左乳房全摘出とリンパ腺切除の手術を受けていたと公表したのは、2018年4月のことだった。「1日でも早く治したい」と書いた彼女は、あれから約1年半が経った今、どんな日々を過ごしているのだろう? 講談社のWebサイト・アプリ「コミックDAYS」で『27歳のニューガン・ダイアリー ~ボクの美紀ちゃんが乳がんになった話~』(「# 乳がんダイアリー 矢方美紀」:原案/冬川智子:漫画)の連載がはじまった矢方さんに、お話をうかがった。

■がん発覚、術後に感じた“人体の神秘”

──ご自身で胸にしこりを発見されたそうですが、セルフチェックをやってみようと思われたきっかけは?

矢方美紀(以下、矢方) 2017年、小林麻央さんが乳がんにかかったという報道を見たときに、ちゃんとチェックしてみようと思ったのがきっかけです。それまで、乳がんという病名は知っていても、セルフチェックの方法はまったく知りませんでしたし、やってみようと思ったこともありませんでしたね。当時、いろいろなテレビ局さんでセルフチェックの方法を説明していたことに加え、ネットで検索してみると、YouTubeにセルフチェック関連の動画がたくさんアップされていたんですよ。それを見ながら、「こんな感じかな」と試してみました。

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──乳がんと診断されたときは、どんなお気持ちでしたか。

矢方 この年齢で乳がんになるとは思ってもみなかったので、どうしてだろうと……ただ、胸の中に明らかに硬いものがあるので、これは悪いものなんだと触った感じで理解できました。痛かったり、変に赤く腫れたりしているわけではないのに、がんなんだなと思いましたね。乳がん関連のセミナーなどに参加させていただくと、しこりの触感のサンプルを配っていらっしゃるところがあります。“どんぐりのような感触”です。私が触ったしこりも、木の実みたいな硬さでした。

 治療にあたっては、情報収集もしました。スマホに「乳がん」と打ち込むと、「生存率」「死ぬ」「治る」など大量の情報がヒットして、まずそこで混乱してしまって。とくに「死」という言葉は、それまでとくに考えたこともなかったので、実際に目の前に迫ってきたときは怖いなと思いましたね。

──芸能のお仕事をされていると、治療にともなう外見の変化にも不安があったのではないかと思いますが……。

矢方 脱毛やむくみなどは、怖いな、嫌だなと思いました。でも、それは治療をする上で避けられないこと。なにか言われても仕方がないと思ったのと、「ウィッグがあるしな」と考えるようにしました。探してみると、おしゃれなウィッグもすごく多くて、そのウィッグをつけて結婚式やイベントなどにも参加できると知ったとき、「髪の毛がないからもうダメだ」って思わなくても、考え方次第で明るくなれるんじゃないかなと思ったんですよ。

 左胸がなくなったことに関しても、自分で手術を選んだので、仕方がないことだなと。手術をする前は、「胸がなくなった姿を見て、自分は落ち込まないのかな」と思ったり、大量に出血することを想像したりしていたんですが……そんなことはぜんぜんありませんでした。術後は、すごい量のガーゼを使って血を止めるんだと思っていましたが、透明なテープがぺたっと貼られているだけなんですね。痛みも、思っていたような激痛じゃない。「人間の体ってすごい!」って、神秘を感じてしまいました(笑)。

■SNSで解消できた、若い世代ならではの悩み

──闘病中でもお仕事を続けていらっしゃる矢方さんの姿に、励まされる人は多そうです。

矢方 自分自身は、本当にやりたいことをやっているだけなんですよ。「闘病しながら働いている姿で誰かを勇気づけたい」みたいなことは、まったく考えていないんです。でも、病気を公表して、その上で仕事をがんばったり、おしゃれをはじめ好きなことを楽しんだりしてますよって発信していたら、同じ病気の人が「自分もウィッグをつけて外に出かけてみようかなという気分になりました」「病気をしたからといってくよくよしてたら、人生はあっというまに終わっちゃうなと気づきました」と言ってくれる人がいて。そういったコメントや言葉のおかげで、「私のやってることが届いてる、少しは人のためになってるんだ」と知ることができました。

──矢方さんは25歳のときにがんが発覚したそうですが、10代後半〜30代を「AYA(アヤ)世代」(Adolescents and Young Adults=思春期・若年成人)と呼ぶそうですね。進学や就職、結婚や出産など、人生の転機が重なる時期ですが、この世代に特有のできごとはありましたか。

矢方 今までやってきた当たり前のこと、たとえばおしゃれなどですが、病気になってもそれを諦めずに楽しむ方法はなんだろうと、工夫することが増えましたね。それと、同じ年齢で病気だという子が、まわりにあまりいなくて。病気を経験されている人は多いのですが、もう結婚して、子どももいて、と自分とまったく違う生活を送っていらっしゃるんです。そうなると、治療の方法も違うし、誰に本当の気持ちを打ち明けたらいいんだろうと悩みました。まわりの友達にも、どんなふうに病気のことを伝えたらいいんだろうと迷いましたね。「若いから大丈夫だよ」と言われることもありましたし。若いからこそ悩むこともあるのですが、それは言い訳なのかなと思うこともありました。

 でも、『#乳がんダイアリー 矢方美紀』(NHK)という番組で自分のことを発信しているうちに、SNSに「実は私も20代で、今治療中です」と、たくさんの人がメッセージをくれるようになったんです。その子たちとやりとりするようになって、私が抱えている悩みと共通していることが、たくさんあるんだとわかりました。危ないと思われがちなSNSですが、こうして気軽にメッセージをやりとりできる今の時代だからこそ、使い方次第ですよね。AYA世代は、同じ病気をした人たちと言葉を交わすことで、「理解してもらえてるな」という気持ちになれて、悩みを解消できることもあるかもしれません。

■映像は“過去の日記”、漫画で描かれるのは“今の自分”

──映像作品『#乳がんダイアリー 矢方美紀』は、どのようなお気持ちで取り組まれたのですか。

矢方 映像は、過去の自分の日記を、少しずつみなさんに公開している感じですね。実際の番組を見ると、自分のリアルな表情がわかって、自分が悩んでいること、病気を通して思ったことなどを、正直にぽろぽろ口にしているんですよ。最初は「性格悪いな」と思われないか心配だったんですが(笑)、「本音を言っているんだなと思った」「無理をしていないのがよかった」と言ってくださる人がいて。そういうところも含めて“矢方美紀”なんだと思ってくださる方がいたというのは、私にとっても大きなことでした。

 病気をする前は、自分の中に「弱いところを他人に見せない」というルールがありました。たとえば、「悔しい」「もっと前に出たい」「こんなことができるのに、どうして選ばれないんだろう」といった気持ちは、家族の前でも言ったことがなかったんです。そこで選ばれていないということは、そのレベルに達していなかったり、自分が見せたいようにまわりに見えていなかったりするわけだから、自分でひたすら努力しようって考えるタイプだったんですよね。でも、病気になってからは、伝えないとわからないこともたくさんあるなとわかってきた。最初は恥ずかしいかもしれないけれど、それで誰かに伝わるのなら、やるしかないと思ったんです。

──漫画連載は、どういった作品なのでしょう?

矢方 漫画は、今の自分を現在進行形で描いていただいています。実際に飼っている猫が、私のことをどう見ているんだろうという視点で描かれているので、私自身も「猫たちがこんなふうに思ってくれていたらうれしいな」と思いながら読みました。

 映像や書籍『きっと大丈夫。~私の乳がんダイアリー~』(矢方美紀/双葉社)は、自分を取り巻く広い範囲──病気そのものだったり、自分が取り組んできた仕事だったり、悩みだったりというものを取り上げていただいたのですが、漫画は、より自分の近くで起こっていることが描かれていると思います。たとえば、1話で公開されている私の部屋は、漫画の執筆を担当されている冬川智子先生が、すごく忠実に再現してくださったんですよ! ちょうどコスプレ衣装を作っていたので、部屋の中にあるマネキンがコスプレ衣装を着ていたり。そういうところも、楽しんでいただけるのではないかなと思います。

 猫と自分以外に、私にかかわりの深い人たちもたくさん登場します。父の風貌や、母のそっけない感じまでそっくり(笑)。読んでくださるみなさんにとって、私のいる空間を想像していただきやすい作品になっていると思います。

──漫画とこの記事を読まれる方に、メッセージをお願いします。

矢方 この作品をきっかけに、私のことを知ってくださる方も増えるのではないかなと思っています。自分自身を知ってもらえるのもうれしいことですが、こういう病気があることや、私はあくまでひとつの例で、ほかにもいろんな悩みや想いを抱えている人がいるのだということを、作品を通して感じていただきたいですね。女性はもちろん、男性で乳がんになる人もいらっしゃいますし、もしかしたら、自分のまわりの人が病気になったとき、考えるきっかけになるかもしれません。

 生きている限り、病気に無関係な人はいません。「急に病気になっちゃって」という話もよく聞きます。そんなとき、病気に対して、なんらかのかたちで対策をしていれば、ただ心配するだけでなく、「自分はこういうときに役に立てるんじゃないかな、こんなふうに動けるんじゃないかな」と考えることができますよね。私も病気になる前は、「自分は大丈夫、病気になんかならない」と思い込んでいました。でも、本当に大丈夫だろうか、知らなくてもいいのだろうかと、今までこういった病気のことを知らなかった人に、問いかけられたらといいなと思います。

取材・文=三田ゆき 撮影=内海裕之

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元SKE48の矢方美紀さんの乳がん闘病記。「私、病気になっちゃった…」宣告日を思い返して…/27歳のニューガン・ダイアリー①