『ダンまち インフィニト・コンバーテ』プレイ体験記&インタビュー④:大森藤ノ(原作)編

アニメ

更新日:2020/4/30

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか インフィニト・コンバーテ』 
発売中
PlayStation®4/PlayStation®Vita/Nintendo Switch™/ Windows(DMMにてダウンロード版のみ発売)
(C)大森藤ノ・SB クリエイティブ/ソード・オラトリア製作委員会 (C)MAGES.

 ダンジョン探索型アクションRPGとなった『ダンまち』を原作者はどんな風に楽しんだのか? 『ダンジョンに出会いを求めるのは間違ってるのだろうか』の原作者・大森藤ノに、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違ってるのだろうか インフィニト・コンバーテ』をプレイしてもらった。

 自身のルーツを振り返りつつ、ゲームやOVAや第3期が発表されているアニメへの想い、そして現在執筆中の原作最新刊を語るロングインタビューをお届けする。

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ベルの苦労を自分が味わうとは!

――ゲーム『ダンジョンに出会いを求めるのは間違ってるのだろうか インフィニト・コンバーテ』をプレイしてみて、いかがでしたか?

大森 『ダンまち』がダンジョン探索型のゲームになっていて、感動しました。小さいころからダンジョン探索型のRPGをプレイしていたので、それが懐かしくて。アニメになったときも、劇場版になったときも感動したんですが、こうやってコンシューマ(家庭用)ゲームになれたことがとても嬉しいです。ソーシャルゲームの『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~メモリア・フレーゼ~(以下、ダンメモ)』が出たときもすごくありがたかったんですが、ソーシャルゲームは日々変化していくものなので、なかなか形に残りにくいものです。コンシューマゲームのように、しっかりと残る形にしていただけるのは、とても感激しました。ただ、最近はゲームをプレイする時間があまり取れなくなってしまって、最近プレイしているゲームはスマートフォンで『ダンメモ』だけなんです。久々にアクションゲームをプレイしてみて、自分はリアルタイムのアクションゲームは下手だなあと。プレイを始めて早々に、キラーアント(本編中では「新米殺し」と呼ばれるモンスターの一角)にやられてしまうところがリアルだなと。原作第2巻を追体験している感じがありました。ベルの苦労を自分が味わうとは!(笑)。「集団戦闘じゃなくて一体ずつ戦わなきゃダメだ」という、エイナ(・チュール/ギルドの受付嬢)のアドバイスが改めて身に沁みました。

――本作における大森先生のかかわりをお聞かせください。

大森 今回は監修という形で関わらせていただきました。シナリオを中心に見させていただいているのですが、完成したものをプレイさせていただいてメディアの違いというものをあらためて感じました。自分はゲームでは、『ダンメモ』に関わることが一番多いんですけど、いわゆるスマートフォンの画面で読むシナリオと、『インフィニト・コンバーテ』のようなコンシューマゲームのシナリオでは、読み方の印象がだいぶ変わってくるなと。たとえば、セリフのテンポの違いでしょうか。相手のセリフを受け応えるときに「おう」と短い返事をするんですが、その応えるタイミングがスマートフォンゲームとコンシューマゲームでは違うのかもしれない。自分が考えすぎているだけなのかもしれないですけど、大きい画面で見ることができて、ボイスもつく、リッチなコンシューマゲームならではの気持ちよさがあるような気がして。その違いがすごく新鮮でした。これはコンシューマゲームに関わってみないとわからないことでしたね。

――添い寝イベント、温泉イベントなど、ゲーム『インフィニト・コンバーテ』中にはかなりドキドキなイベントも用意されていますが、こちらも監修されているんですよね。

大森 ああ~(笑)。監修しましたね。最初にこの企画を聞いたときは、思わず笑っちゃいました。ギャルゲーというわけではありませんが、プレイしている人が思わずニヤニヤしちゃうイベントができるのは、さすがコンシューマ、贅沢な仕様だな、と思いました。アニメのOVAでも、ベルたちが温泉に行くシーンを描いてもらいましたが、アイズ(・ヴァレンシュタイン)がリヴェリア(・リヨス・アールヴ)と温泉に行くのは、すごくシュールというか。うわ、どうしようと戸惑いましたね。温泉という、リラックスする場であのふたりがどんな会話をするのか、あまり原作でも掘り下げていないところだったので。あと、添い寝イベントも、ヘスティアやリュー(・リオン)だったら、もしかしたら原作で添い寝する可能性もあるかもしれないと思うんですよ。実際、アニメではヘスティアと添い寝しているわけで。でも、シル(・フローヴァ)と添い寝ってすごいなと。「一体何をされてしまうんだ!」というドキドキ感がありました。

――そうやって原作では、なかなかありえない展開を楽しめるのも、ファンにはたまらないイベントですよね。

大森 シナリオを監修する立場としては、羞恥と戦いながらチェックしていました。「原作でもなかなかないシチュエーションだ……どうしよう」って。でも原作を執筆するときに担当の編集者さんから「筆者が恥ずかしいと感じることが、ファンのみなさんは喜ぶ」とよく言われていたんです。だから今回は、その境地で頑張ろうと(笑)。もしかしたら、照れが残っているかもしれませんが……。

――大森先生は『ダンメモ』でシナリオも担当されていますが、小説を書くときと、ゲームのシナリオを書くときでは違いを意識しますか。

大森 最近ようやくソーシャルゲームでのシナリオの書き方がわかってきたような気がします。これまで小説の『ダンまち』を執筆するときはいわゆる地の文、シーンや心情の描写などにカロリーを割いてきたんです。編集さんから「この感情はセリフで言わせたほうが良いんじゃないか?」といった意見もいただいたんですが、いやここは地の文で……とお願いして、書き込ませていただいたこともありました。だからこそ、ゲームに落とし込むときに苦労したんですね。ソーシャルゲームは地の文をほとんど使うことができないんです。どれだけ面白いセリフにするか、どれだけカッコいいセリフにするかが大事で。もちろん、過去に使ったセリフをやりくりしながらではありますが、小説以上にセリフのキレみたいなものを磨かないといけない。音楽やキャラクターの立ち絵の表情で補完をしてもらいつつも、キャラクターのセリフこそがシナリオの面白さであり、ゲームの面白さにつながるんじゃないかと感じています。同時に、その感覚は小説にも活かされていて、これまでは地の文にこだわっていたのですが、以前編集さんがおっしゃっていたように、感情をセリフでしっかりと書くことで読者に刺さるものになるんだなと。セリフは読者の方々も覚えてくださいますしね。それを、ようやく自覚できた感じがあります。

――セリフの役割を再確認できたということですね。

大森 表には見えない感情をセリフで「音」にすることで、読者にとって印象的なものになるんですね。これはアニメ化すると声優さんたちが良い演技をしてくださるので、その演技と肩を並べるくらいのセリフを書かなくちゃもったいないな、と。セリフの重要さはアニメで感じて、ゲームではっきりと自覚した印象があります。

――改めて『ダンまち』がダンジョン探索型RPGというジャンルのゲームになることについては、どんな思いがありましたか。

大森 自分が『ダンまち』を書き始めたのはWEB小説という形だったんです。当時は書籍化することも夢見ていなかったですし、こうやってダンジョン探索型RPGとしてゲーム化することは考えてもいませんでした。ただ、GA文庫大賞に応募して、拾っていただいて商業出版になったときは、いろいろ想像が広がりましたよね。コミカライズできたら良いなと思いましたし、いずれはアニメ化、ゲーム化も……なんて考えていました。そのときに最初に思いついたのは、ダンジョン探索型RPGだったので、とても感慨深いです。

――大森先生はゲームを遊ぶとき、どんなプレイスタイルをすることが好みですか?

大森 RPGやシミュレーションが好きなところは、やはりレベルアップをしたときですね。レベルアップの快感はすごく高いな、と小さいころから感じていました。自分がゲームをプレイする時はいつも主人公のキャラクターに感情移入してしまうんです。主人公が一番強くないと気が済まないところがあって(笑)。『ファイナルファンタジーVII』ではクラウドをとにかく強くしていましたし、『ファイアーエムブレム』ではマルスをひたすら強くするようなプレイをしていました。初めてやりこんだのは『ファイナルファンタジーVII』だったのですが、中盤でメインヒロインにある出来事が起きるんですよね。その事件が起きた瞬間に呆然としちゃって。すごい衝撃でした。もし違う展開が起きたら、クラウドたちはどんな冒険をしたんだろうかと、そのころからいろいろ考えるようになったんですよ。あれがきっかけで二次創作の妄想をするような回路が自分の脳内にできたんじゃないかな、と最近思うんです。そこから数年経って、一家に一台パソコンが、という時代になって、ネットの海に漂うたくさんの二次創作の作品と出会いました。ある種の救いみたいなものを見つけられたときは、すごく感動しました。

――ゲームの二次創作と出会ったことが、大森先生の創作の原点だったんですね。

大森 そうなんです。自分は子どものころ、漫画以外の本をあまり読まなくて、ゲームばかりプレイしていたんです。だから、その延長で二次創作をたくさん読みあさっていました。ゲームでは味わうことができなかった冒険が、いろいろな人の筆によって、いろいろなかたちで書かれていて。それが自分にとっては大きなきっかけになったと思っています。

――そんな大森先生が『ダンまち』を執筆するうえで、ダンジョン(地下迷宮)探索を舞台にしたのはなぜでしょうか。

大森 自分が小説を書き始めるころには「Arcadia」さんのような小説投稿サイトがいろいろあったんですが、当時はオリジナルファンタジー小説といえば「ダンジョン」というくらい、ひとつの題材として確立していたんです。それを読んでいくうちに、「ダンジョン」の魅力に取りつかれんだと思います。そこからギリシャ神話のミノタウロスの神話などを調べていった記憶があるので、ゲームからインスパイアされて、WEB小説からイメージをふくらませて、『ファミリア・ミィス(『ダンまち』の原型)』を書いたんです。

――いわゆるコンピュータRPGの古典である『ウィザードリィ』などの影響を受けたわけではないんですか?

大森 それはすごくよく聞かれることで、編集さんにも尋ねられましたし、アニメ『ダンまち』の劇伴を担当してくださっている井内(啓二)さんにも聞かれました。実は自分は『ウィザードリィ』をプレイしたことがなくて。どちらかというと、ネットで二次創作の作品を読みあさるうちに、だんだんオリジナルのWEB小説にたどり着いて。そこから、みなさんがおっしゃっている『ウィザードリィ』などの要素を間接的に受け取っていたのかなと思っています。それこそDNAを受け継ぐように。神々やファミリアの設定は、自分のなかでするっと出てきたものですし、キャラクターのステイタスにも自分としてはオリジナルのつもりがあったのですが、指摘されて先人がいたんだなと感じた部分でもあります。

――「ダンまち」は原作のみならず、アニメやゲームでその世界を広げています。メディアミックスする面白さや、それぞれと関わる面白さをどのようなところに感じていますか。

大森 まず、こうしていろいろなメディアに展開していただけるのは夢のようです。同じGA文庫で『ゴブリンスレイヤー』の蝸牛くも先生が良くおっしゃっているんですけど、目が覚めたら全部夢で、自宅のベッドで寝ているだけなんじゃないかと。なんだかSFっぽいですけど、そう感じるくらい、すごいところまで来てしまったんだなと思います。その中で新しいものを生み出すのは苦しみが常に付きまとうのですが、それを越えてリリースしたものは多くの方に届くようになって、誰かが楽しんでくれた、喜んでくれた、と知るだけで報われた気持ちにもなります。それだけでも、もっと頑張ろうという気持ちになれます。

――『ダンまち』もコンシューマゲームになって、またひとつ広がりましたね。

大森 本当に嬉しいです。プレイステーションやNintendo Switchのロゴが、『ダンまち』のロゴと一緒に並んでいるだけで興奮してしまいます。『劇場版 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか -オリオンの矢-』のときに冒頭でワーナーさんのロゴが出たときは「もう死んでもいい~!(笑)」と思ったくらい感動しましたから。

力尽きるまで、走り続けようかなと思っている

――さて、ゲームのみならず、『ダンまち』は様々な展開が行われていますが、直近で大きく展開しているのはアニメですね。先日、アニメ第2期がオンエアを終えました。

大森 おかげさまで、第2期もオンエアすることができました。視聴者のみなさんの反響も聞いているので、すごく嬉しいです。自分自身もアニメ第2期を拝見して、力も勇気もいただきました。最終話の第12話オンエアのときは、声優さんも交えてスタッフのみなさんで見ることができたんですが、自分はその横で、第3期の準備をしようと焦っていました(笑)。第1期のときは次の外伝(アニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 外伝 ソード・オラトリア』)を作るまで2年空いていたんです。だから、脚本会議もしっかりと時間を取って臨むことができたんです。でも、今回は第2期を終わった余韻に浸る時間もなく、OVAの制作や第3期の準備を進めることになって。だから、自分の中では「アニメは終わっていないんだ」というのが正直な感想です。

――第2弾OVA「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかII OVA」も2020年1月29日に発売されることになりました。ベルくんたちは慰安旅行で無人島に行くそうですが、これは大森先生の発案だとか……。

大森 あ、はい。「無人島に行きたい」と言ったのは自分なんですが……。えーと、言っていいですか(笑)。今回、自分は今回のOVAではまったくといっていいほどかかわりを持っていないんです。「無人島に行きたい」というワンアイデアを出して、現場のスタッフさんに完全にお任せしていたら……。そうしたら……すごいものができてしまって……。

――すごいもの(笑)。

大森 今回のOVAは一つの設定に基づいているので、「だから逆に何をしてもいい」というロジックは自分の中でも成立しているんです。実は三期への伏線とかもあるんですよ? ただ、「何を」の度合いがすご過ぎて……。収録(アフレコ)も立ち会わせていただいたんですが、もう声優さんたちの顔を見ることができませんでした。もう言い訳したかったです。「自分はこれに関わっていないんですよー!」って(笑)。本当に、今回は「大森藤ノ未監修」と付けたいくらいのお祭りムービーになっています。ファンのみなさんも、こういう『ダンまち』もあるんだ、と。本編を見るときとは違う気持ちで、頭のネジを飛ばして見ていただけたら。今までの『ダンまち』の限界値を2段階ぐらい突き破った出来になっています。今後、もしOVAを出すことになっても、もう怖くないですね(笑)。

――その中で、第3期の準備も進めているわけですね。

大森 個人的には一番難しい内容になるだろうなと思っています。第3期でアニメになる単行本第10巻や第11巻は、執筆するときにすごく苦労をしたエピソードです。ベルがこれまでに味わったことがなかった大きな挫折に向かい合います。作者としても、自分の限界値を越えたと感じるような内容だったので、それがアニメになったときに、どんな映像になるのか想像がつかなくて。J.C.STAFFさん(アニメーション制作会社)や声優のみなさんといっしょに、どんな映像と芝居を作っていくのか。ドキドキとワクワクをしながら、作業を進めています。

――ベル・クラネル役の松岡禎丞さん、ヘスティア役の水瀬いのりさん、アイズ・ヴァレンシュタイン役の大西沙織さんへメッセージはありますか?

大森 OVAではごめんなさい。楽しく収録をしていただいたとは思うんですけど……お祭りだと思って、ご勘弁いただければと思っています。本編はしっかりやります! 『ダンメモ』の収録を含めて、『ダンまち』は声優さんにすごく稼働していただいているんです。松岡さんには「いつも叫ばせてごめんなさい。喉は大事にしてください」、水瀬さんには「ヘスティアを感情豊かに演じてくださって、いつも刺激をいただいています。いつも無茶ぶりして本当にごめんなさい」と。大西さんには「アイズはセリフが多くないぶん、難しいキャラクターだと思います。限られた出番でしっかりとヒロインを演じてくださっていて、ありたいですし、ごめんなさい」とお伝えしたいです。

――謝ってばかりですね(笑)。

大森 なんでしょう、自分が描くキャラクターは「困ったちゃん」が多いのかなって。ベルも、ヘスティアも、アイズもそれぞれ深く関わっていただけているし、お三方の演技は小説にもかなりフィードバックしています。これからも原作を飛び越えた展開にお付き合いいただくことになりますが、よろしくお願いします、とお伝えしたいです。

――大森先生はアニメ第3期にも関わりつつも、きっと原作第16巻の執筆もお進めになっていらっしゃると思いますが……。

大森 ちゃんと執筆しております! 第15巻のあとがきにも書かせていただきましたが、酒場の街娘・シルにフォーカスした物語に突入します。アニメの第3期とは違う難しさに直面している最中です。第12巻から続くエピソードがずっとダンジョンを舞台にしていたので、第16巻ではちょっと毛色の違う話になるんじゃないかと思っています。期待されている方々には、もうちょっと待っていただけたらと思っています。早くお届けできるよう励みます。

――ゲームに、アニメに、小説に。全部を並行して進められているわけで、大森さんの今後の筆が楽しみです。

大森 ありがたいことです。力尽きるまで、走り続けようかなと思っています。ぜひ、見守っていただければ嬉しいです。

取材・文=志田英邦

『ダンまち インフィニト・コンバーテ』HPはこちら

大森藤ノ(おおもり・ふじの)
本作『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』で第4回GA文庫対象を受賞し、デビュー。執筆作品は、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(既刊15巻・以下すべてSBクリエイティブ「GA文庫」)、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝 ソード・オラトリア』(既刊12巻)、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか ファミリアクロニクル』(既刊1巻)。