ラブ・スティックって何!? 世界のセックスや性習俗を集めたら、とんでもないモノが見えてきた
公開日:2020/4/25
あぁ、自分の常識はものすごく狭いものだった。『世界の性習俗』(杉岡幸徳/KADOKAWA)に記されている他国の風習は、筆者を驚愕させた。「妻を旅人に貸し出す」「幽霊と結婚する」など、本書に書かれているのはいかにも奇妙に思える性の風習ばかり。一体なぜこんな不可解な風習が生まれたのだろうか。そこには、「奇習」という言葉だけでは説明できない、深い理由があるという。
女性に最終決定権がある、ミクロネシアの「夜這い」
「夜這い」と聞くと私たち日本人は、女性が襲われてしまう、という男尊女卑に近いイメージを持つことがほとんどだ。だが、ミクロネシアの夜這いでは、女性側の意思が最優先される。
夜這いを果たすうえで欠かせないのが、上のほうに細密な彫刻を施した1mほどの木の棒「ラブ・スティック(夜這い棒)」。男たちはまず、昼間明るいうちに意中の女に自分の夜這い棒を触らせ、特徴を肌で覚えてもらう。そして、夜になると男は女の家へ行き、ヤシの葉で編まれた壁の隙間に突き刺した夜這い棒を寝ている女の髪に絡め、目覚めさせる。女は真っ暗闇の中で夜這い棒を触り、その持ち主を把握。好きな男ならば棒を強く引き「OK」の合図を送るが、そうでなければ棒を押し返す。
ユニークなのは、もし夜這い棒を触っても持ち主が分からない場合は、「誰?」と尋ねてもいい点。あくまでも男を受け入れるかどうかの決定権は女側にあり、拒否された男は引き返さなければならない。
夜這いのイメージをガラっと変えるミクロネシアの風習。私たちはその性習俗に、自分の常識を揺さぶられるのだ。
「誘拐されて結婚するのは伝統なのよ」
世界の中には理不尽と思えるような性風習もある。そのひとつが中央アジアのキルギスで行われている「誘拐婚」だ。誘拐婚は、男が見つけた好みの女を無理やり車に乗せ、自分の家に引きずり込むというもの。
驚くのが、男の家族たちは女を迎え入れ結婚式の準備を始めるということ。キルギスでは、女性の30%が誘拐婚させられているといい、過去に犠牲となった女性が同じようにさらわれてきた女を説得することもあるのだそう。「嫌だったのははじめだけで、今はとても幸せ」――そうやさしく説得する女性もいれば、こんな言葉も発せられるという。
「誘拐婚はキルギス人の伝統なのよ。受け入れなさい!」
脅迫にも近いような説得を受けた女性は諦めるようになり、その8割が誘拐婚を受け入れるそうだ。なぜなら、キルギスでは男の家に連れ込まれた時点で、純潔を失ったとみなされるから。たとえ実家に帰ることができても、周囲からは白い目で見られ、次にまともな結婚ができないと両親も考えてしまい、逃げ出して来た娘を家へ入れないこともあったという。
現在キルギスでは「誘拐婚は法的に犯罪」とされている。だが、2013年までは最長でも羊を盗んだ場合と同じ、懲役3年の刑罰しか課せられなかった。
このような形で苦痛を強いられ、人としての尊厳が守られない風習には、女性として疑問を感じる。けれど、ただ風習をなくすだけでは、新たな問題が発生するかもしれない。現に、キルギスで誘拐婚が伝統とまでいわれるようになった背景には、嫁を迎える時の結納金が払えないとか、相思相愛だったのに親に認められないため誘拐婚という形をとったなどという理由があったという。
不思議だからといって“奇習”だとは決めつけられない
誘拐婚のように傍目には“奇習”と見えても、現地の人が“伝統”だと信じている場合には、その線引きをどう判断するかは難しい問題だろう。さまざまな事情が複雑に絡み合って形成された風習に、他国の常識で一方的な意見を投げかけるのは何か違うと思う。だが、何も意見しない、ということにもモヤモヤしてしまう…。そんな気持ちになった時に突き刺さったのが著者の言葉だ。
“人間が伝統に従うのではなく、逆に、伝統を人間に従わせるべきなのです。”
この考えは日本の風習にも当てはまるだろう。日本国内でも、これまでは当たり前だった性風俗がいろいろな面で変化しつつある。夫婦同姓を変えたいとの声が高まってきたり、結婚ではなく事実婚を選ぶ人も増えたりしている。伝統は時代の流れによって変化していく。私たちは窮屈な価値観で伝統に縋るのではなく、他国の伝統を知ることで視野を広げ、より生きやすい道を模索していくべき時期に来ているのかもしれない。
世界中の摩訶不思議な風習がたっぷりと収められた本書は、日本の昔の“奇習”にも言及する。心に染みる性習俗の世界を、ぜひ楽しんでほしい。
文=古川諭香