馬鹿でブスで貧乏な底辺女子に向けた「自己啓発本」が心をえぐってくる

恋愛・結婚

公開日:2019/12/22

『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』(藤森かよこ/ベストセラーズ)

 先日書店で『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』(藤森かよこ/ベストセラーズ)というタイトルを見つけ、思わず手に取った。私もまた、馬鹿でブスで貧乏だったからだ。フリーランスという身で細々と生計を立てていたが、今まで携わっていた案件が終了したり縮小したりで、自分の将来に急激に不安がこみ上げていたタイミングだった。

 しかし、なんとも厳しいタイトルである。藁にもすがる気持ちで手に取ったはいいものの、なかなか読むのがためらわれた。なんだか、馬鹿でブスで貧乏である自分が見ないふりをしていた現実をまざまざと突きつけられてしまうような気がしたのだ。

 結論からいうと、この本は馬鹿でブスで貧乏である女性に対して、一切の忖度なしに厳しい現実を突きつける1冊であった。なので、心が繊細で受け止められる自信のない人にはあまりおすすめしない。私も心の中で何度も血を吐きながら読み切った。

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 そもそもこの本を書いた著者は、藤森かよこさんという福山市立大学名誉教授で元桃山学院大学教授であり、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランドの研究第一人者、同作家のベストセラーである『水源』や『利己主義という気概』などを翻訳刊行している。

 …少なくとも、馬鹿ではないではないか! おそらく、貧乏でもない。プロフィールを読むとそう思ってしまうが、この本における「馬鹿」とは「一を聞いて一を知るのが精一杯」で「地頭がいいわけ」でもなく「ちょっと努力しなければすぐにゴミになる」ことを指す。そういう表現をすれば、多くの人が「自分のことだ」と少しドキッとするのではないか。

 そんな彼女は、若い頃から自身が馬鹿でブスであることを自覚し、誰にも頼らずに自分自身の足で立ち一定の給料を得ようという考えから大学教授の道を選ぶ。

 しかし、彼女は何冊も本を読みながら薄々と感じていることがあった。世の中の大半の自己啓発本は、書いている著者がハイスペックであり、一般人、ましてや馬鹿でブスで貧乏である私たちには到底真似できないものである、と。

 そして、馬鹿でブスで貧乏であることを受け入れ、その上で努力し立場を築き上げてきた作者の半生を振り返る形で、実際に低スペック女子にも役に立つ生存戦略の本を書くことにした、というのが当書の経緯だ(本を買うためのお金稼ぎ、という現実的な理由もある)。

 作中では、日本における男女の格差や女性差別などもひとつの現実として触れつつ、しかし一旦はそれを受け入れた上で低スペック女子がどう生きていくべきか、が懇切丁寧に書かれており、ある意味とても地に足のついた本である。

 馬鹿でブスで貧乏な女子は、他の人の善意や庇護は期待できない。誰の目にも止まらない。それどころか著者は、男が手軽に与し易いと思うからという理由で「ブスな女子は性被害にあいやすい」とも語る。その説明の比喩で「汚れたトイレは、もっと汚される」と表現するあたり容赦がない。その上、男性を見たらとりあえずは「性犯罪者」と想定すべきだ、とかなりぶっ飛んだアドバイスをする。

 彼女は、一貫して、他者に対して期待せず、むしろ疑ってかかることを提案する。馬鹿でブスで貧乏で、さらに隙を見せて騙されでもしたらもう取り返しがつかないからだ。

 とにかく、冒頭から最後まで、一切の甘さを与えない本である。しかし、そうでもしないと馬鹿でブスで貧乏な女子はなかなか現実を直視できないとも言える。大したスペックもないのにこの世界をサバイバルせざるを得なくなった女子たちにとって、この本は厳しいが嘘のない、ひとつの道筋を与えてくれるだろう。

 読んでいると著者の鋭い指摘に思い当たる節も多く(馬鹿ブス貧乏女子はドタキャン癖がある、など)胸が痛かったが、しかし読み終わった今、意外と冷静に自分自身を受け入れられているような気もする。確実に言えるのは、低スペックで救いようのない私にとって、今まで読んだどんな自己啓発本よりも「役に立つ」本であった、ということだ。

文=園田もなか