「最期」の怖さは、“知る”ことで乗り越えられる! 『それでも病院で死にますか』出版記念トークイベント<後編>

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公開日:2019/12/27

 今回は『それでも病院で死にますか』(尾崎容子/セブン&アイ出版)の出版記念トークイベントの模様を引き続きお届けします。大切な誰かの最期の日が近づいてきたとき、まず家族や周りが何をすべきか。介護のスタート地点からお金の問題、それぞれが最期の日を迎えるにあたってどうしたいかを話し合う「人生会議」まで、著者の尾崎容子さん、妹で作家の尾﨑英子さんに語っていたただきました。

『それでも病院で死にますか』(尾崎容子/セブン&アイ出版)

いざ、介護の準備。でもどこから始めたらいい?

尾崎容子さん(以下、容子):乳がんから脳転移を起こした母は、2017年7月の時点で退院してきました。脳浮腫を病院でとってもらってフラフラのところを、父が「クルマを運転せえ」って母に言っていて、母は「そんなん無理」って、夫婦で押し問答しているのを見て私もクラーッとしてしまいました。「あんたもうすぐ死ぬんやで!」って強く言ったものの、母は「私は死なない」と言っていて……。それはええんやけどな、介護用のベッドはいるやろって言ったら「いらん!」って言うから「いいや、3日でいる!」って突きつけて。そしたら本当に3日で歩けなくなって、必要になりましたね。私の予言力の強さを自ら評価した次第でございます(笑)。

 でもね、うちの変わり者の母だけじゃなくて、皆さん介護用ベッドはいらないって仰るんですよ。本当に必要な状態になってしまってもなお「そんなんいらん」って言わはる人が多いんです。じゃあ、どんなタイミングで導入すべきだと思いますか?

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 ここで、容子さんが客席にマイクを向けると、なんと現役のケアマネージャーさんが客席に。「退院するタイミングで」とケアマネージャーさんが応じました。

容子:そうです! 退院のタイミングですね。たとえば、まだその人が自力で起き上がれても、早いなって思っても、介護保険を使えばたった1割負担で介護用ベッドの購入ができますし、ぜひ退院のタイミングで頼んでいただきたいです。

尾﨑英子さん(以下、英子):ベッドは、頼んでからだいたい何日くらいで届くんですか?

容子:早かったら当日、あるいは翌日にはまいります。

英子:すごい!

容子:そうなんです、すごいスピードで来ます。でも、その前にベッドを入れようにも、ケアマネージャーさんがいなければそれは叶いません。まずは介護のマネージメントをしてくれるケアマネージャーさんを付けるところからになります。じゃあケアマネさんをお願いする場合にどこにいったらいいか。区役所では「必要になったら来てください」と押し問答になることがあります。その場合に思い出していただきたいのが「地域包括支援センター」の存在です。医師が地域包括支援センターに直接電話して「こういう人がいるのでお話を聞きに行ってもらえませんか」っていうと、出向かなくても向こうから来てくれて、介護の困りを吸い上げてくれます。じつは、それがなかなか皆さんにご存知いただけてない。そういうことを周知するためにも、今回こういう本を書いたわけです。

 書籍の執筆を通して、さまざまな業界とのつながりが生まれたという容子さん。中でも仏教界の知り合いが増えたそう。仏教と介護のつながりについて、話題が及んでいきました。

容子:介護が必要になると、ケアマネさんなどに主介護者=キーパーソンは誰になりますかと聞かれます。それは配偶者であったり、子供さんであったりすることが多いですけれども、時にはそういった身内がいらっしゃらない方もいらっしゃいます。そういう場合に、今はお坊様がキーパーソンになることがある。お寺の敷地内にサービス付き高齢者向け住宅を作るだけではなく、買い物から通院から、困りごとを一個々聞いてあげようと。また、独居で身内もおらへんという場合、お坊さんが身元引受人になったり。そういうふうに仏教界も変わってきております。

集まった方々と会話をしながらトークをすすめる容子さん。じつは客席には4姉妹の3女やお父さまも来場。

お金は友達! 誰かに負担がかかる介護はダメ

容子:さて、(最期の日を迎えるにあたって)何が大事って、お金です。こんなん言ったらあかんけど、もう介護の沙汰は金次第(笑)。じつは母を看取るときですが、母のまいた種のおかげで家計は非常にピンチな状況でした。それで、母がサービス付き高齢者向け住宅に入るとなったときに、まとまったお金が必要になりました。それをぽんっと出せたのは、姉妹で積み立てしていたお金があったからです。母は本当にトラブルメーカーなので、いざとなったときのために姉妹で協力して積み立てをしていました。

英子:母は以前からトラブルメーカーだったし、父のことも考えて、どちらに使うにしてもいいから、とにかく姉妹で出せるような積み立てをやっておこうと思っていたんですよね。

容子:やっぱりそれは心強かったですね。東京から妹たちがこちらに帰ってくるときの交通費もここから出しているので。お金は気にせんと、休みが取れたら帰ってきてあげてって。交通費で揉めないのは大きかったですね。

英子:母の看取りの中で、一番強調しておきたいのはこの積み立て貯金についてですね。本当にやっぱりお金は大事だなと。ギスギスしなくてすみました、姉妹の間で。

容子:介護ってね、もう一生懸命、自分の体が壊れるまでやるとうつ状態になっちゃうんです。尽くして尽くしてやっていた方こそが「もっとやれたことがあったんじゃないでしょうか」と言ってしまう。疲れ切ると心がもう自分を責めるほうにばっかりいくんです。うちなんか誰一人ちゃんと介護してへんのに、こんな満足してて大丈夫か、この能天気な一家は(笑)!って思いますけど、うちの家族は誰も疲れていないのでその状況で母を見送れたことに非常に満足しています。だから疲れちゃダメ。お金を払って、支援を得たほうがいい。そのためにもやっぱり積み立てしておいてください。

「最期をこんなふうに穏やかに迎えられてよかった」という人をひとりでも増やしたい

容子:近頃、何かと話題の「人生会議」。正式名称の「アドバンス・ケア・プランニング」っていうと長いので人生会議というネーミングがついたんですけど、これは、終末期にどんな医療やケアを受けたいかを共有すること、みんなでお話をすることなんです。

 うちの母の場合でいうと、母は死生観が非常にクリアだったんです。一度、母の呼吸が止まろうとしたときに、けいれんが起こりまして「お別れやから声かけてあげて」って言ったら、父が「おーい! 死ぬなよー!」って。この期に及んでか!みたいなことを言うので、私が「なんでやねん! 逝かせたりいな、こんなしんどいのに」って。呼吸が楽になるように気道確保もできるんですが、それをしたところで旅立ちゆく者は旅立ちゆくのだし、これをすることが母にとっていいとも思えないと思いました。それで「お母さん、逝ってよーし!」って言ったらね、それがムッとしたのか戻ってきたんですね(笑)。ビックリしましたよ。

 でも私は、旅立ちゆく人を引き止めたくなかったんです。母は、すごくさっぱりスッキリしていたので、肉体が終わるときが苦痛が終わるときなんだっていうのを知っていました。だからこそ止めたくなかった。反対に父はわりとウェットな人で「わしは生きていたい!」という人なので、父がこんど同じように呼吸が止まりそうになったときはどうするかなって思っています。

英子:それこそ人生会議ですよね。

容子:うん、父のときはたぶんちょっと呼吸のサポートをするかなあ。そういうふうに、たとえば寝たきりになって意思表示できなくなったとしても「この人やったらどう言うと思う?」って、それをみんなで推測するために、その人の価値観、人生観、好きなこと嫌いなことなど、たくさんたくさんみんなでお話ししておこう、聞いておこう……それをすることが「人生会議」なんだと思っています。

英子:生きている間に家族でそういう話を共有できる時間を持てるというのはすごく人生にとって大事なこと。それは人生を豊かにしてくれるものでもあるし、非常に良いことだと思います。

容子:私が今お仕事させていただいている在宅医療は、遠いか近いかはわからないけど、やっぱり最期の日っていうのをちょっと心に止めとかなあかん、そんな終末期の医療です。「終末期医療ってなんか怖いわあ」と思われる方もいるかもしれないんですが、やっぱり“知らない”と怖いんです。ただ、今回執筆した『それでも病院で死にますか』を読んでいただくと、あ、そんなに怖いことじゃないのかもと思っていただけるんではないかと。人が自然に弱り、そして最期の日を迎える。それは肉体の苦しみが終わるゴールの日で、けっして敗北なんかじゃない。知ったら対策を考えたり、前に進む勇気が出てきたりする。だからこそ、知っていただくことがすごく大事。2025年から、日本は多死社会に入ると言われています。そのときに「最期をこんなふうに穏やかに迎えられて良かったな」という人をひとりでも増やしたい、その思いで今回執筆いたしました。

 私はよく「皆さん亡くなるばっかりのお仕事でつらいですね」と言われるんですが、「ハイ? なんで? つらかったら、こんな仕事してへんっちゅうねん」って思っています。昔、病院のICUに勤務していたときは、家族から引き離されたまま最期を迎える、自身が亡くなるかどうかもわかっていないような状態で皆さんが亡くなっていくのをずっと見ていました。今は、おひとりおひとりを大切にしながら見送っているので、旅立って良かった、穏やかに逝かれて良かった、そんな気持ちで日々過ごしています。

会場では、妹・尾﨑英子さんの著書『有村家のその日まで』とともに姉妹でサイン会を実施。

『それでも病院で死にますか』では、病院と在宅で迎える最期の違いや、病状別の看取りのケース、さまざまな在宅ケアサービスとそれにまつわる費用まで、まさに「その日」を迎えるために知っておきたいさまざまな項目が網羅されています。また、死の直前にはどのような経過をたどるのか、自宅での看取りに際して実際に患者さんのご家族にお話しされている具体的な内容も掲載。誰にでも平等に訪れる「最期」を、大切な人にどんなふうに過ごしてほしいか、また、自分ならどうしたいか。そうしたことを考えたり話し合う際に、ぜひ手元に置いておきたい一書です。

プロフィール
尾崎容子(訪問診療医)
京都市の在宅療養支援診療所「おかやま在宅クリニック」院長。産経新聞大阪本社地域版にて「在宅善哉」を月2回連載中。

取材・文=本宮丈子
写真=佐藤佑樹