当たる? 当たらない? 人が星占いを無視できないワケ。科学と魔術のあいだにある占星術の歴史
公開日:2020/1/2
なぜ占星術、星占いは、時代や国を超えて人々の関心をここまで強く寄せ続けるのか。どうやら、未来という不明瞭なものに多少の不安を抱き、少しでも良くしたいと願うのは、いつも変わらぬ人々の願いのようだ。
だから、いかに歴代の科学者たちから「非科学的だ」と批判されても、申し訳なさそうに新聞の隅に載った些細なコラムだろうと、つい、星占いには目が行くのだろう。
しかし本当に占星術は非科学なのか、どこまで科学的根拠に基づくのか、あるいは超科学的な魔術なのか、はたまたその境界をまたいだ中間地点であるボーダーランドなのか…? 『西洋占星術史 科学と魔術のあいだ』(講談社)のまえがきで、著者であり科学史家の中山茂氏は本書のねらいをこう明かす。
「占星術はたしかに他の雑占とちがって、(天文学や数学などの)学問と接している。(本書では)その接点をみきわめたいのである」
※( )補足は筆者
★占星術の最初の体系である「天変占星術」とは?
こうして始まる本書は、学術的研究の紹介を通じて、占星術が生まれたとされる紀元前2千年のバビロニア(現イラク南部)に源流を求め、そこからギリシャ、ローマの各時代、12世紀ルネサンスを経て近代、現代へと至る西洋占星術の変遷を追う。
著者によれば、現在の占星術につながる最初の体系である「天変占星術」が生まれたのは紀元前1千年頃だという。これは古代の人々が最も畏怖した食(日食や月食)などの天体異変を、地上で何かが起こる兆しだととらえる占いである。
その占い結果は国家機密とされており、占星術師によって天子(国家元首や王)だけに伝えられたという。
この天変占星術は中国や日本にも伝わり「天文」と呼ばれ、役所において制度化される。本書によれば、江戸時代まで天文役人がいて、天変占星術による膨大な記録を残しているという。
★イエス・キリストのホロスコープを作ったら死刑に!?
一方、紀元前1千年紀後半に入って天文学の発達とともに、個人を対象にした「宿命占星術」が誕生し、時代や文明、国を越えてこれが占星術の主流になっていく。
この「宿命占星術」とともに誕生したのが、占うカギとなる「ホロスコープ=出生日時や場所に基づいてつくられる天体の配置図」だ。その内容の重要性から、本書ではホロスコープの概要、変遷の解説に1章をあてている。
ホロスコープをめぐっては、こんなエピソードも紹介されている。
1327年、イタリアの詩人で天文学者、チェッコ・ダスコリが、キリスト教会によって処刑された。その理由は、イエス・キリストのホロスコープを作ったから。
この時代、キリスト教会の神父たちにとっては、信仰の対象であるキリストやモーゼの生涯さえも星によってタイプ分けして説明しようとする占星術に我慢がならなかったのだという。長い歴史においては、占星術がまさに命がけの仕事になっていた時代もあるのだ。
★占星術・オカルト・科学の違いはどこにある?
近代にいたるまでの西洋占星術の歩みの詳細は本書に委ねるとして、本書の執筆動機となった「科学と占星術の接点」についての考察を少し紹介しよう。
著者によれば、まず、占星術と魔術(オカルト)との違いは、占いが時間的未知を対象にしているのに対して、後者は空間的未知を対象とするため、「一線を画すもの」だと結論づけている。
科学と占星術には、天文学や数学と接点はあるものの、差異も多くあるとしてそのポイントが提示されている。
ひとつは、占星術が人間を中心とした原理に立脚したものであるのに対し、科学は人間も含むものの“自然中心の原理”に立脚するものである。
また、占星術は「未来を占う」という目的があるのに対して、純粋な科学には本来目的はないとする。そして、占星術は未来を予測するが、科学は予測を事とはせず、「ニュートン力学がいつも成り立つことが証明されれば、それでいいのである」と著者は記す。
つまり、「占いという将来への洞察である。科学的法則の客観性を求めるべきではない」というのが、著者が研究で得たスタンスということになるだろう。
本書はほぼ同名タイトルで1992年に新書として発売されたもので、一般から占星術を学ぶ人たちまで多くの人が手にした入門書だ。占星術の歴史を色濃く学びながら、長きにわたる世界の文化史までもが一望できるのが大きな特徴だ。
今回の文庫化にあたり、巻末には占星術研究家として著名な鏡リュウジ氏が解説を書いている。鏡氏いわく「平易な言葉で西洋占星術の全体像を描き出す本書は、今なお類を見ない貴重な啓蒙書」だという。
科学と魔術のはざまに浮かぶ、占星術という不思議な世界を、本書で探訪してみてはいかがだろうか。
文=町田光