「タロット占い」は本当に当たるのか? カードが魔力を得た歴史をひもとくと…

文芸・カルチャー

公開日:2020/1/3

『タロットの秘密』(鏡リュウジ/講談社)

 荒木飛呂彦の人気作『ジョジョの奇妙な冒険』をはじめ、さまざまなマンガ、アニメ、ゲームの題材とされてきたこともあり、タロット・カードは私たち日本人にもすっかりなじみ深いものになっている。そんなタロットについて、その歴史からカード1枚1枚が持つ意味、さらに実際の占い方法まで、コンパクトながら詳しく解説してくれるのが『タロットの秘密』(鏡リュウジ/講談社)だ。

 著者は翻訳家で大学の客員教授という肩書の持ち主だが、同時に占星術研究家であり、本職の占い師でもある。雑誌やネットなどでも広く活躍しているので、占い師として名前を知っている人も多いだろう。
 
 そのような著者が著すタロットの本というと、神秘性や驚異の的中率などを熱っぽく語ったものと思うかもしれない。ところが、本書はその反対で、非常に冷静、かつ客観的に「タロット」というものを解説する。なにしろ冒頭にはこうあるくらいだ。

“タロットはもともと、占いをはじめとする神秘的な用途のためのものではなかった。初期のタロットは、ルネサンスの貴族たちの遊戯カードとして発達したのである。さらにいうなら、タロットが「神秘的」なものになり、占いの道具として利用されるようになるのは十八世紀後半を過ぎてからのことなのだ”

 古代エジプトで誕生しその文化や叡智を伝えるものであるとか、ユダヤの秘儀カバラの真理が隠されているといった、タロットにまつわる幻想を頭から打ち砕いているのである。

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■タロットの神秘性は後から生まれた? 占いの信憑性は?

 本書の前半では、18世紀後半からヨーロッパのオカルティストたちが、それまでただの玩具だったタロットに、いかにして神秘的な意味を持たせていったかという歴史が詳細に解説されている。そこに登場してくる エリファス・レヴィ、ポール・クリスチャン、スタニスラス・ド・ガイタ、アレイスター・クロウリーといった人名や、薔薇十字団、黄金の夜明け団などの魔術結社の名前は、澁澤龍彦や種村季弘、荒俣宏などの著作で西洋オカルト史に触れたことのある人ならば、思わずニヤリとしてしまうだろう。

 さらに20世紀に入り、ユング派の心理学者たちがタロットに関心を向けたことや、第二次世界大戦後にサブ・カルチャー、エコロジー、フェミニズム、スピリチュアルなどのブームとタロットが密接に結びついていった歴史についても、わかりやすく紹介されている。

 もちろん、占い師でもある著者は本書の後半で、それぞれのタロット・カードの持つ意味や、その読み解きかた、何種類もある複雑な占い方法、実占例についても、きちんと解説している。占いとしてのタロットに興味がある人は、こちらから読むのもいいかもしれない。

 著者はあとがきで率直にこう記している。

“紙切れにすぎないカードや遠くにある惑星が人間の運命を指し示すはずがない。占いは常識的に考えれば「迷信」であることに気づいてしまったのだ”

 こう正直に述べていると同時に、次のようにも語る。

“占いやマジカルな世界は、やはり魅力的であり、やってみると実際に「当たる」ようにも思えるのである”

 そして、その「矛盾する2人の自分」がいまも葛藤を続けていると打ち明ける。そんな著者が、タロットとは人間の無意識を表面化させる道具であるというユング派心理学の解釈に共感を覚えるようになったのはとても自然なことだろう。著者自身が書いているように、タロットのみならず占いの多くは、潜在的に抱えている問題を、偶然現れるシンボルと突き合わせることで、全然別の視点から分析していくツールとしては有効なのかもしれない。

【あわせて読みたいもう1冊!】
『黒魔術の手帖』(澁澤龍彦)は、1961年に出版され、日本ではじめて西洋オカルト史を本格的に紹介したエッセイ集で古典的名著。発表当時、三島由紀夫は「殺し屋的ダンディズムの本」と称賛した。タロットについても、「古代カルタの謎」という1章が割かれている。

文=奈落一騎/バーネット