広瀬アリス「隣にいる誰かのおかげで生かされている。AI社会でアナログを貫く先輩刑事の言葉から、それを感じた。」
更新日:2020/1/15
毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、映画『AI崩壊』で、昔気質の先輩刑事とともに事件の真相を追う若手刑事を演じた広瀬アリスさん。“異質”なマンガに惹かれてしまうという、そのわけとは?
「昔から、王道の物語を読んでいても、正義の味方であるヒーローではなく、陰を背負った人物のほうに惹かれてしまうんです」という広瀬さんが薦めてくれたマンガは『少女不十分』。小学生の少女Uの、とある姿を目撃してしまった大学生の“僕”が、彼女に誘拐されて監禁されるという物語。
「無表情で感情の読めないUはもちろんですが、逃げ出せるのに彼女に付き合い続けている“僕”のことも理解できない。身近にこんな人がいたらとても困ってしまうけど、コミュニケーション能力の高い人たちの、のほほんとしていたり元気いっぱいだったりする物語には昔からあまり惹かれないんです。好きなマンガが映像化されることは多いけれど、それはたまたまで、私が読むのはあくまで個人の趣味だから、読むからには刺激がほしいし、もっともっとと求めるうちに、ハードでコアな作品ばかり手にとってしまうようになりました」
『少女不十分』をとくに人に薦めることが多いのは「異質で歪んだものが好き、っていう私の嗜好をダイレクトに伝えやすい作品かなって思うから(笑)」。
しかし自分の感想や解釈は伝えない。読む人の感性を邪魔せず、委ねたいから。
「あんまりこだわりのない性格なんです。だから、作品の結末にも文句を言ったことはないし。どうせなら全員が助かってほしかったなあとか、もっと幸せになれる道はなかったのか、と考えることはあるけど、基本的にはあるものをそのまま受け入れる。そのせいか、どんな脚本や役柄を与えられても、驚かなくなりました。理解できないということは、基本的にはとても楽しいことだから、拒絶することも抵抗を覚えることもないんです」
そんな広瀬さんが映画『AI崩壊』で演じた新米刑事・奥瀬は、どちらかというと文句ばかり。だが、自分のやり方で突き進む、先輩刑事・合田(三浦友和)に付き合っているうちに、頑なだった考えも少しずつほどけていく。
「もしかしたら、今まででいちばん苦労した役かもしれないです。奥瀬の髪は長くないだろうと思ってバッサリ切ったんですが、髪が短くなった自分に慣れるのも時間がかかってしまって。合田さんとのやりとりが一番多いなかで、たぶん一生噛み合わないだろうこの二人のバランスをどうとっていけばいいのか、未熟な彼女の勢いをどの程度表現すればいいのか、悩みました。でも、初日に登場シーンを撮影できたおかげで、ストンと彼女が自分のなかに落ちてきてくれました。『奥瀬です』って一言だけなんですけど、なんとなく“つかんだ”というか。理屈ではなく、肌になじませていくように役づくりすることが多いですね」
そのスタイルを確立したのは映画『銀の匙 Silver Spoon』。役づくりの一環として、5カ月にわたり乗馬や牧場体験などを行った。理屈ではなく、経験が人をつくりだすのだということを学んだ。
「それ以来、台本の読み方や役への向き合い方が変わりました。場数を踏んで少しずつ、自分のやりかたを培っていく。それは自分で獲得するしかないものだから、どうしても自分ひとりでやってきたみたいな顔をしてしまいがちで、忙しさに文句を言っていた時期もあったんですが、人はひとりではなにもできないし、隣にいる誰かのおかげで生かされている。そのことを、AI社会においてアナログを貫く合田さんのセリフを通じて、あらためて思い出しました。私自身は、AIに頼りきりで自分にできることが減ってしまうのはさびしいと感じる人間。手紙を書くのも好きだし、マンガも絶対「紙の本」で読みたいからこそ、この作品のテーマは響くものがありました。舞台となる2030年は、実際どうなっているんだろう。何もなければ生きているはずなので、怖さとさびしさを予感しながらも楽しみですね」
(取材・文:立花もも 写真:干川 修)
映画『AI崩壊』
監督・脚本:入江 悠 出演:大沢たかお、賀来賢人、広瀬アリス、岩田剛典、松嶋菜々子、三浦友和 配給:ワーナー・ブラザース映画 1月31日(金)全国公開
●2030年、桐生浩介(大沢たかお)の開発した医療AI「のぞみ」によって人々の生活が支えられる社会。だが「のぞみ」は突如暴走をはじめ、人間の生きる価値を選別、殺戮を開始する。その実行犯とみなされ逃亡を続ける桐生を、警察庁サイバー犯罪対策課が追う。
(c)2019映画「AI崩壊」製作委員会