宮沢氷魚がゲイの青年を演じて改めて思ったこととは――「誰かのおかげで自分は生きているし、逆にその誰かの一部を自分は支えている」

あの人と本の話 and more

更新日:2020/2/6

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、初主演映画『his』の公開を控える宮沢氷魚さん。『一九八四年』の魅力、そして映画への思いを聞いた。

宮沢氷魚さん
宮沢氷魚
みやざわ・ひお●1994年、アメリカ・サンフランシスコ生まれ。『MEN’S NON-NO』専属モデル。2017年、俳優デビュー。翌年、神奈川発地域ドラマ『R134/湘南の約束』で主演を務め、19年のドラマ『偽装不倫』で注目を集める。他の出演作に、『映画 賭ケグルイ』やドラマ『僕の初恋をキミに捧ぐ』など。
ヘアメイク:スガタクマ スタイリング:秋山貴紀 ニット5万5000円(ヘリル/アンシングスTEL03-6447-0135)、
パンツ3万6000円(シュタイン/スタジオ ファブワークTEL03-6438-9575)(すべて税別)

 宮沢さんが選んでくれたのは、20世紀を代表する世界文学の一つ、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』だ。宮沢さんがこの本と出会ったのは、高校1年の授業だった。現代社会を予見するかのようなディストピアの世界観に加え、主人公・ウィンストンの人間性にも引き込まれたという。

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「『一九八四年』の世界では、人間同士の関係性も歪んでいるんですよね。だから、ウィンストンが両親やジュリアに抱く愛情といっていいのか、さまざまな感情がすごく悲しい。ジョージ・オーウェルは、人間の悲哀、愚かさや醜さを包み隠さずあらわに描いています。僕にもウィンストンみたいなところはあるだろうし、これが人間の本質なのかなと考えさせられました」

 間もなく公開される映画『his』は、宮沢さんの初主演作品だ。宮沢さんが演じるのは、ゲイの青年・迅。田舎でひっそり暮らす彼の前に、かつて愛しあった渚が、6歳の娘を連れて現れる。LGBTQに関しては、宮沢さんがかねてから挑戦したいと強く願っていたテーマだ。インターナショナル・スクールに通っていた宮沢さんにとって、ゲイやバイセクシャルの友だちがいることはごく普通だった。でも、まだ偏見のなくならない日本社会。宮沢さんは、自分が役者として作品に携わることで、LGBTQの皆さんが生きやすい社会に一歩でも近づく力になれればと考える。

「この映画のオファーをいただいたときにすごく嬉しかったんですが、だからこそ本当に大丈夫かなという不安もありました。でもとにかく台本が素晴らしくて、今のLGBTQの皆さんの現状にとても丁寧に寄り添った物語だと思います。それに、渚役の藤原季節くんと初めてあった瞬間に、“彼とならいい作品が作れる”と確信しました。そういう直感は、季節くんにもあったそうです」

 今泉監督の希望で、撮影中は藤原さんと同居生活をしたという。

「初めはいやだったんですよ(笑)。初対面なのに、撮影のあとさらに家でも一緒って(笑)。でも、お互いいい作品を作ろうという気持ちが強かったから、夜遅くまでずっと役やシーンについて話し合って。映画のためには、同居は必要な時間だったと思います」

 藤原さんの役者としての印象は?

「“ザ・役者!”みたいな人です(笑)。どこか不器用で、すごく勉強熱心。悩んで研究していい芝居にたどり着く。そういう泥臭さが素敵だと思いました」

 映画『his』は、迅と渚のラブストーリーであると同時に、渚の娘・空や妻・玲奈との関係を軸にした家族の物語でもある。

「そうなんですよね。迅は渚のことを愛して、渚の中にあるもの、渚を形作っているもの、すべて丸ごと愛そうと思えた。それが空ちゃんや玲奈さんで、家族というか人間自体を愛することにつながったんだと思います。この作品は、一見迅と渚だけの物語のようですが、実はたくさんの人の人生が描かれています。そういういろんな人生と交わることで、迅と渚の愛情も成立している。迅を演じて、僕はあらためて人は一人では生きていけないと思いました。誰かのおかげで自分は生きているし、逆にその誰かの一部を自分は支えている。人と人とのつながりの大切さを再確認できたと思います」

(取材・文:松井美緒 写真:干川 修)

 

映画『his』

映画『his』

監督:今泉力哉 出演:宮沢氷魚、藤原季節、松本若菜、松本穂香 配給:ファントム・フィルム 1月24日(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
●かつて愛しあいながらも別れてしまった迅と渚。ゲイと知られるのを恐れ田舎で一人暮らしていた迅のもとに、ある日、渚が突然現れる。6歳の娘・空を連れ、妻・玲奈との間で離婚と親権の協議中だという。
(c)2020映画「his」製作委員会