「絶対に笑ってはいけないお葬式」とは――!? 葬儀屋で働く“泣き虫青年”のマンガ『大安仏滅』
公開日:2020/1/5
大切な人とのお別れは、特別悲しいものである。そんな時、遺族の悲しみに寄り添いながらも、故人の希望を最大限に考慮し、遺された人々を勇気づけるようなお葬式を執り行う葬儀屋さんの存在は、とても心強いものだと思う。
石川チカ先生の『大安仏滅』(幻冬舎コミックス)は、そんな真心を込めた葬儀を行う「若狭セレモニー」で働く人々を描いたマンガだ。本書の主人公は、父親が重い病気で入院中のため、大学を中退し、バイトをいくつも掛け持ちする勤労青年・青木。物語は、青木が過労により道路で倒れてしまい、それを目撃していた若狭セレモニーの若社長・若狭翔に、葬儀屋の霊安室に運ばれるところから幕を開ける。青木が目を覚ますと、なんと、彼を遺体だと勘違いした納棺師・吉見に、死装束を着せられていた。それを見た社長は爆笑し、その後、青木に「お葬式のアルバイトをしないか」と勧誘する。「バイト代2万」に惹かれ引き受けた青木だが、仕事終了後、社員にならないかとスカウトされて――!?
本書は、ブライダルからお葬式まで請け負う「若狭セレモニー」で行われるお葬式や結婚式が、そこで働く人々の意外な本音や信念を交え、軽快に描かれている。中でも異彩を放っていたのが、女好き・酒好き・だらしないの3拍子だが、スイッチが入ると頼り甲斐のある社長に変貌する若狭翔。彼は、「故人様や御遺族の希望を叶える葬儀屋」であることを何より大切にしており、生前から打ち合わせをしていた病を患うお客様が亡くなった際、「最期くらいは笑って見送ってもらいたい」という故人の希望を叶えるため、「絶対に笑ってはいけない葬式」を執り行う。
「寿命のびのび体操――!」というかけ声が印象的な、ポップな音楽が響き渡るお葬式。お坊さんが笑いを堪え、参列者にも笑いが伝染し、涙を流しながらも、決して悲しみだけではないあたたかな空間は、参列者を勇気づける。その詳細は、ぜひ本書を読んで確かめて頂きたいのだが、人の数だけ、お別れの方法があることに気づかされ、胸に迫るものがあった。
主人公の青木は、仕事を覚えていくにつれて、「余命あと半年」と告げられ入院する父親とも向き合うことができるようになっていく。社長は青木に、どんなに逃げても、いつか必ずやってくるお別れと対峙する「強さ」を持つことや、父親ときちんと会話ができるうちに葬儀について話し合う大切さも説く。“泣き虫”だった青木の変化も見所のひとつである。
本書は他にも、お葬式でスタッフが「決して泣いてはいけない」理由や、トラブルだらけの結婚式での振る舞い方など、冠婚葬祭に関わる人々の、プロとしての誇りやリアルが存分に伝わってくる構成になっている。意外にセンスがぶっ飛んでいる青木をはじめ、強烈な個性を持つスタッフたちに笑わせられつつも、お客様に寄り添い、真摯な心で仕事をする大切さをヒシヒシと感じるマンガであった。ぜひ彼らの働き振りに注目してみてほしい。
文=さゆ